800字チャレンジ#6「21g」

※刀剣夢小説(薬研藤四郎)
※800字チャレンジ100本ノックの自分用記事


刀剣男士は、気分が高揚した時、誉桜を身に纏う。
それは日常生活で嬉しいことがあったとき、楽しいとき、そして戦場において気が昂ったときなど、様々だ。とにかく、「霊力」が形となって見える、その現象を審神者や政府の人間たちは「誉桜」と名をつけた。
しかし、この本丸において、刀剣男士は桜ではなく藤を纏う。
それは特別珍しいことではないらしい。
演練においても、様々な花を見て来た。
やはり一番多いのは桜だが、桜においても、ソメイヨシノ、山桜、八重桜など様々。梅の花とその香を纏う、華やかな男士もいた。
自分は雅には程遠いので花の名前なぞそんなに多くは知らないが、さすがに、歩むたびに足元に彼岸花を咲かす男士の集団を見たときは、度肝を抜かれたことだ。
どうやら誉桜は、主の性質が強く表れるらしい。

「だからって、なんで藤?」

光栄にも隊長の役を仕った今回の出陣で、俺は誉をいただき、身の回りには藤の花が舞っていた。
出陣帰り、主への報告に向かうと、そのまま話に花が咲いた。そうして出てきたのが誉桜の話題。
仕事着代わりの羽織を羽織った主は、俺へと手を伸ばし、尽きることのない藤の花を一片手に取った。柔い手のひらに向かい入れられた藤の一片は少しすると融けるように消えていってしまう。

「天狐さまは、竜胆と彼岸花だって言ってたよ」
「合わせ技なんてのもあるのか!」

主が審神者に就任して間もない頃から、何かと世話を焼いてくれる、天狐と名乗る審神者は、主が師と慕っている人間だ。
人間ながらも、非常に高い霊力を持っていたことを思い出し、あのお人なら頷ける、と妙に納得してしまった。

「普段は竜胆だけど、戦になると彼岸花が咲くんだって」
「そりゃ、本能寺もびっくりな戦場だろうな……」
「うわっ、出た。織田刀ジョーク」

けらけらと笑う主は、非常に不謹慎だ。冗談、なんてつもりは決してない。……まぁ、冗談のつもりはなかったが、俺も不謹慎だったか。

「あのお人の誉花は知らねえが、大将の藤の花なら、思い当たる節があるぜ」
「へっ?」
「瞳の色」

くいっと、あごで促す。
紅掛藤色の大きな瞳が、くりっと動いた。と、思ったら、ふにゃりと破顔し、紅掛藤は細くなる。

「薬研とお揃いのこの色かあ」

偶然にも、俺と主の瞳の色は非常に似通っていて、主はそれをえらく気に入っていた。
むず痒くなり頭を掻いていると、はらはらと尽きない藤の花をもう一片手に取り、主は俺の顔へと近づけた。
程なくして、花弁はぱっと消えてなくなる。
しかし主は嬉しそうにくふふと笑った。

「ほんとだ。おんなじ色」

4つの瞳と、零れる花弁。
この部屋には、ほんの少し紅を掛けた淡い藤色で溢れていた.

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