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走り続ける

「太陽が燃えているの!」
小さな女の子が無邪気に笑いながら紙いっぱいに絵をかいてる。

午前9時の飯能行き電車。
今日は日曜。
背広マスクの大人達とは程遠い
穏やかな日常。

ディズニーキャラクターのデイジーのヘアゴムで、そっとその子の髪をゆいながら、お父さんはこくこくとうなずく。
膝の上の色鉛筆達が転げ回らない様に必死に膝をとじながら。
デイジーは女の子の笑顔と一緒にコロコロと微笑み、揺れ傾きながら、お父さんが出した白いカーディガンを見つめている。なかなか手を通さない女の子を見守る様に。

「つぎは入間市〜入間市〜」
気怠そうで、どこか澄んだ声が車内に響く。

「お父さん!ムーミン!」
「ムーミンはもう1つ数えたらつくよ〜」

ああ、先の飯能駅にはテーマパークがあるのだ。
リトルミィの様に小さな女の子はムーミンとそっくりな大きな瞳で目を輝かせ、スナフキン帽を被ったお父さんによじ登る。

ガチャガチャ。
色鉛筆達が音をたて、
隙間からはニョロニョロが顔を出してくる。

よじ登ってきたリアルミィに、すかさずカーディガンを着せるスナフキン。

窓の向こう側に広がるまだ見ぬ世界に、
翼が生えた娘を見つめながら、
スナフキン帽のお父さんは兎の耳がついたピンク色の筆箱に色鉛筆と絡んだニョロニョロ達を仕舞い込む。
パンクしそうな疲労感と幸せを詰め込んで。
絵の冒険に出たぐしゃぐしゃの1枚のスケッチを4つ折りに畳ながら、その顔はくしゃっと綻ろぶ。隣を留守にしているお母さんに、笑いかけるかの様に。

プシューーー
現実の扉が開く。

彼等を置いて、私は外に出た。
むわっとした重たい空気と若草の匂いを感じる。

ふと振り返ると羽が生えた女の子が
私に手を振る。
彼女の心の窓辺に私がいるという奇妙な喜びを感じながら、
私は右手でウィンクした。
マスク越しに私の口角が上がって落ちる。

電車は北欧へ
私は改札へと走り出す。


人は当たり前に日々を生きてる様に感じる。
生かされていると気づくのは死ぬ前だろうか。

今も何処かで命の灯火が微風で灰になる。

川を渡る時は水の冷たさを感じるの。
あの手を握る感触はそこにもあるの。
笑い声、美味しい匂い、瞳の奥の呼吸を、
不確かな愛を、抱きしめることはできるの。

繋ぎ選択を迫られる人に
あの人は何処へと、
あの人をここへと、
あの人に伝えてくれと、
最後の言の葉を紡ぐ。

誰かが旅立つその時に、
誰かがこの世に舞い降りる。
壊したくない日常は
寄せては返す波の様に、
静かにだが確実に過ぎる。

過ぎ去り日はもとへはかえらない。
優しさが溢れたあのお父さん、
溢れた優しさに包まれる女の子。
日常は非日常の奇跡だと痛感する。

小雨がチラついている。
心は曇り時々晴れだ。
心を死ぬまで燃やし続けよう。
今日も太陽が燃えている。


かいてる最中影響を受けた音楽▷▷▷

Sigur Ros   「varoeldur 」

Biork  「Arisen My Senses(feat.Arca)



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