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保管倉庫: 逆転写されたSARS-CoV-2のRNAは、培養したヒト細胞のゲノムに組み込むことができ、患者由来の組織でも発現することができる

【 解説 】

一般的には、DNAからRNAが生産され、RNAがタンパクを作り出す。このプロセスは一方通行と言われている。しかし、例外があり逆転写酵素が存在する場合、RNAはDNAへ統合され得ることが実験で確認されている。
下記論文では、SARS-COV-2ウイルスは逆転写酵素を含んでおり、DNAへの逆転写が起こると説明している。感染後に、長期に渡ってCPR陽性の患者がいる理由は、逆転写されたDNAがSタンパクを作り続けるためとしている。

解説ここまで。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33958444/

逆転写されたSARS-CoV-2のRNAは、培養したヒト細胞のゲノムに組み込むことができ、患者由来の組織でも発現することができる

Liguo Zhang 1 , Alexsia Richards 1 , M Inmaculada Barrasa 1 , Stephen H Hughes 2 , Richard A Young 1 3 , Rudolf Jaenisch 4 3
関連情報
PMID: 33958444 PMCID: PMC8166107 DOI: 10.1073/pnas.210596811

概要

COVID-19から回復した患者において,重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のRNAが長期にわたって検出され,PCR陽性反応が再発することが広く報告されているが,これらの患者の中には感染性ウイルスを排出していない者もいるようである。我々は,SARS-CoV-2のRNAが逆転写されて培養中のヒト細胞のDNAに統合され,統合された配列の転写が,患者に見られるPCR陽性反応の一部を説明する可能性を検討した。この仮説を裏付けるように、我々はSARS-CoV-2の配列のDNAコピーが感染したヒト細胞のゲノムに組み込まれることを発見した。このことから、LINE1レトロトランスポゾンは、標的を起点とした逆転写とレトロポジションのメカニズムを担っていると考えられた。また、一部の患者由来の組織では、ウイルス配列の大部分が統合されたDNAコピーから転写され、ウイルスと宿主のキメラ転写物を生成していることを示唆する証拠が見つかった。このように、ウイルス配列の統合と転写が、感染後や臨床回復後の患者におけるPCRによるウイルスRNAの検出に寄与していると考えられる。なお、今回検出されたのは、主にウイルスゲノムの3'末端から宿主細胞のDNAに統合されたサブゲノム配列のみであるため、統合されたサブゲノム配列から感染性ウイルスが生成されることはない。

キーワード LINE1; SARS-CoV-2; キメラ型RNA; ゲノム統合; 逆転写.

Copyright © 2021 the Author(s). PNASに掲載されました。


類似論文

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33330870/

概要

SARS-CoV-2のRNAが長期にわたって排出され,PCR陽性反応が再発することが回復後の患者で広く報告されているが,これらの患者はほとんどが非感染者である。そこで我々は,SARS-CoV-2のRNAが逆転写されてヒトゲノムに統合され,統合された配列が転写されることでPCR陽性反応が生じるのではないかと考えた。この仮説を裏付けるように、SARS-CoV-2に感染した培養細胞や患者の初代細胞の公表されたデータセットの中に、ウイルスの配列と細胞の配列が融合したキメラ転写物が見つかり、ゲノムに統合されたウイルスの配列が転写されていることが確認された。ウイルスのレトロインテグレーションの可能性を実験的に裏付けるために、我々は、SARS-CoV-2のRNAがLINE-1要素からの逆転写酵素(RT)またはHIV-1 RTによってヒト細胞内で逆転写され、これらのDNA配列が細胞ゲノムに統合され、その後、転写される可能性があるという証拠を示した。ヒトの内因性LINE-1の発現は、SARS-CoV-2の感染時や培養細胞でのサイトカイン曝露により誘導されたことから、患者におけるSARS-CoV-2のレトロインテグレーションの分子メカニズムが示唆された。SARS-CoV-2感染症のこの新しい特徴は、患者が回復後もウイルスRNAを産生し続ける理由を説明するとともに、RNAウイルス複製の新たな側面を示唆するものである。

ここまで