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#ロンバケサブスク解禁記念レビュー 1993年のさらばシベリア鉄道

『A LONG VACATION』

1993年頃、私は歌舞伎町の飲食店でバイトしていた。そのバイト先に少し年上の、今で言うところのウェーイ系というかチャラい感じの茶髪セミロン毛で、でも面倒見も良く、そして何よりカッコいい先輩がいた。ある日店が終わった深夜過ぎにバイト仲間で飲みに行って、流れでカラオケに行ったことがある。その時先輩が「さらばシベリア鉄道」を歌ったのを妙によくおぼえている。
私は小学校高学年くらいからラジオっ子だったので81年発表の『A LONG VACATION(以下ロンバケ)』を含めた大滝詠一の楽曲は主にラジオで聴いていた。逆に言うと後にCDで揃えるまで大滝作品を買ったことはなかった。テレビの音楽番組には出ないことと、あと「君は天然色」よりもなぜか「カナリア諸島にて」の印象が強く、ミステリアスで自分よりも年上のお兄さんお姉さん向けの音楽だと、そう思っていたのような気もする。余談だがYMOは「オレたちひょうきん族」に出てたり坂本龍一は「い・け・な・い ルージュマジック」があったりと身近に感じていたし普通にファンだった。さっきラジオっ子と書いたばかりですが、やっぱりテレビっ子でもあったんだな。
今でも多くの人が指摘し続けているように『ロンバケ』は世に出た当時からエヴァーグリーンなポップスの金字塔みたいなアルバム。カーステでガンガン鳴らしながらドライブしていた大学生世代にとっては時代の音であり青春のサウンドで間違いないのでしょうけど、まだ子供だった私からすると、だからこそやや縁遠い作品だったとも言える。そして86年に高校生になるとBOØWYとブルーハーツが出てきて、バンドブーム前夜に。RCやシナロケやジャパメタ勢などバンドサウンドのお手本になるような旧譜と比べても『ロンバケ』はコピバンのレパートリーになるような作品でもなく、そこでの接点もなかった。それと80年代はまだカラオケボックスがなかったので若者がカラオケで歌うという文化もなかったし。
で、話は93年に茶髪の先輩が歌う「さらばシベリア鉄道」が、BOØWYや氷室やコンプレックスの曲と同じようにカッコよく新鮮に響いたのに驚いたという記憶に繋がる。ここでようやく自分と『ロンバケ』がしっくりきたような気がしたわけだ。よく『ロンバケ』は大滝のメロディタイプのアルバムと言われるが(ノベルティタイプとの比較として)、それにしても詞やサウンドやジャケットが半ば伝説として語られるのに対して、メロディの良さというのは、まあ聴けばわかるという部分もあって、あまり言及されてこなかったのではないだろうか。今回のサブスク解禁にあたっては、より多くの人にそのメロディの良さが届くことを楽しみにしている。どう良いかというと、ウェーイ系のチャラい感じの茶髪セミロン毛の若者がカラオケで熱唱してもカッコいいと、そういうことです。

さらばシベリア鉄道/大滝詠一(1981)

さらばシベリア鉄道/太田裕美(1980)

さらばシベリア鉄道/氷川きよし(2020) ※歌は4:06~



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