20代でトラックドライバーだったけど、もう二度と乗らない。

"運送業界"に対する世間の印象のズレ。

3年半トラックに乗り、その後IT系に転職して2年が経つが、未だに業界の動向を追っている。
中小運送屋に2年半、大手運送屋に1年はいた。

世間からズレてると思うことが2つある。
・世間が考えるトラックドライバーの仕事
・ドライバーが思っている残業時間と給料
この二点を重点で書こうと思う。

世間が考えるトラックドライバーの仕事

報道されてるほとんどが長距離ばかりなのは何故?

世間が考えるトラックドライバー=長距離走って高速エリアで休憩してる。というイメージなのだろう。
ヤフーニュースや、Twitter(現X)で流れてくる話題は常に長距離ばかり。たまに軽バンも取り上げられてるが、その程度なのだ。
IT系で例えるならひとくくりに、「プログラム書いてる人」と紹介してるようなものだ。

自分の経験話をしよう。
地場(※1)で共配(※2)、中型トラックのドライウィング車に乗っていた。毎日違うところに行っていた。
朝5時に出発、十数件回って、12時前に某倉庫屋に行き、午後便を積む。
3~5件回り、集荷に行き、会社に戻ると16時。
そこから各所から集荷した荷物をドライバー同士仲良く仕分け。
積みこんだら17、18時だ。そこでようやく1日の仕事が終わる。
そして"定時上がりの連中"と仲良く渋滞の中、帰宅する。
(※1.県内、隣県くらいの範囲の仕事。日帰りできるが、件数は多い傾向にある)
(※2.メーカーがバラバラで、積み荷もバラバラ。積み順と荷姿を見極めて積むには、かなりの経験と技術がいる)

16時間。毎日、毎日このスケジュールだった。土曜日も仕事だ。月平均休みは5、6日程度だ。

仕事もパレット卸しだったら運がいい方だ。
基本的には手卸し、何ならしまい込み(※3)まで当たり前のように要求される。
(※3:納品先で所定位置に、手でしまいに行く事。手伝ってくれることはない。)

特に午後からの仕事、某倉庫屋の仕事がクソだ。
小麦粉、セメント、水道管のパイプ、プラスチックの原料等々。
全部しまい込みを要求される。

しまい込みを断ってみてもいいが、そもそもどういう契約内容かドライバーは知らないし、何次請けかもわからない。
そんなことを倉庫屋の事務所にわざわざ確認の電話をするドライバーなんていないだろう。

涼しい事務所で伝言リレーに数十分待たされるだろう。
そんな悠長で暇なドライバーなどいない。黙って運べば10分で終わる。
1分1秒削って削って、ようやく自分の休憩時間を確保するのがプロの地場ドライバーの仕事だ。

"430"の裏技

「連続運転4時間まで。30分でリセット」というありがたい法律だ。
長距離トラックの報道で話題に上がることだ。
4時間でギリギリまで距離を走って、30分休憩して、再び出発。という感じにだ。

しかし地場ドライバーが4時間毎に30分も休憩してたら、仕事にならない。
上に書いたスケジュールを見れば、5時出発の4時間後、つまりまだ9時なのだ。
自分が回っていたルートだと、9時ではまだ5件ほどしか回れていない。
どうやって午前中に残り十数件も回ってるか。ここに裏技、というか法の抜け道がある。

トラックが止まってる時間=休憩時間

とすることができる。
つまり、ドライバーが休憩中でなくともいいのだ。
荷下ろしでもカウントされるということだ。

実際には10分からカウントされる。9分以下だと止まったカウントにされない。
荷下ろし10分→荷下ろし10分→荷下ろし10分
これで連続運転4時間をリセットすることができるのだ。

荷下ろし20分→荷下ろし10分
これでもいい。

荷下ろし15分→荷下ろし15分
これも可能だ。

実際に荷下ろしが2分で終わっても、構内で邪魔にならないところに、最初から止めておけば、8分待ってから出発するという小技も使う。
(少しでも動いてしまうと、GPSが動くので止まった判定にならない。)

何のための430なんだ。と声に出して言いたくなるが、現場レベルだと430とかいう、冷房の効いたスーツ着てるやつが卓上で考えた法律、と思っている。自分は当時思ってたし、今でも思っている。
律儀に休憩して、仕事が終わるなら喜んで休憩を取ってるだろう。

世間のズレを実感した瞬間

これは当時働いてた頃に経験した話だ。
某クソ倉庫からの仕事の一つで、某超大手メーカー工場に原料を納品する仕事だ。
定期的にある仕事で、場所も卸先も把握してるから”楽な仕事”の部類に入る。

今日はそこが最後の配送先だった。
いつものように警衛に入館書を書き、トラックをいつものところに止めて、いつもの場所に手卸しとしまい込みをして、納品書にハンコを貰うため、担当を呼びに行く。

その担当が空の荷台を見たのか、向こうから話題を出してきた時だ。
「朝何時から走ってるの?」
今日は5時出発っすね。
「へー、じゃあこれで仕事が終わりなんだ。15時くらいで終わるなんて羨ましいなぁ(ニコニコ)」

ホワイト企業連中に対する静かな怒りと、世間の認識のズレを感じた瞬間だった。
そう思うのは当然だろう。こんな大手メーカーで(恐らく)正社員働いてる人間だ。
そこそこの大学を出ていて、ホワイトな仕事しかして来なかったのだろう。
そもそも運送業界がおかしいだけだ。

しかし腹の底で社会の最底辺の仕事をやってる実感をした瞬間だった。

ドライバーが思っている残業時間と給料

それでも3年半は続けた。20代前半ではありえない金額稼いでいたからだ。

中小企業にいた頃はとにかく少数精鋭。なんでも運ぶ。という社風だった。
給料は20代前半では、かなり良かった。
平時、月手取り30万を切った事はない。

繁忙期(正月前、大型連休前等々)では手取り40行った事もある。
仕事量は二度と経験したくないレベルではあったが。

繁忙期の一例として、12月の話を書こう。
12月前半は深夜2時出発。夜中にバラ積みで700ケース積み、午後から500ケース積む。
(700ケースは4tワイドが天井まで積んで、前から後ろまで埋まる量)
仕事が終わると夕方16時頃。これを2週間やる。

12月後半は5時出発だが、量は変わらないが、積み込み待ちが発生する。
夕方に配送が終わり、次の日の分の積み待ちをして、仕事が終わると23時とか日が回る事もザラだった。
もちろん道路運送貨物法にゴリゴリに違反だ。

でも20代前半で40万以上も手取りで渡されたら、「まぁ許してやるか」と思ってしまうものだ。

20代後半に差し掛かると話は変わってくる。

周りと比較し始める。
こんな話題が同世代から飛んでくる。
「今月残業あんまりしなかったから、30万ギリ行かなかったわー」
「今期ボーナス100でた」

毎月残業60~80時間をしてようやく30万。
土曜日出勤もする。
ボーナスはない。
この30万の価値って低いな。と思った。

IT系だったり、某大手自動車メーカー系社員だったり、様々な友人を持っているが、社会的地位の低さを感じた。仕事に貴賤はあるんだな。と。
貰ってる給料は並んでいるが、働いてる時間が段違いだ。
年間にして残業時間を含めると、数ヶ月は働いてる時間が違う。
1ヶ月、2ヵ月という日にち、多く働いて働いて働いてようやく並んでるだけ。

それが辞めるキッカケであり、IT系に転職した理由でもある。

今では大手運送屋にいた頃より、高い給料を基本給で貰ってる。
中小運送屋にいた頃よりは安いが、残業時間は月10~20時間程度。土日祝も休みだ。
当時の自分から見たら、夢のような話だ。もう戻れないだろう。

今後の運送業について思う事

直近の話題だと"2024年問題"だ。
簡単に説明すると"残業時間無制限"が"年960時間以内"と定められたのだ。

「残業時間が短くなるなら、仕事が楽になっていいことじゃないか。」と思うだろうが、これを手放しで喜ぶドライバーは少ないだろう。
世間話がてら、給料の話をした熟練ドライバー全員が「もう少し残業して、いっぱい運んで給料上げたい。」と言っていたのを思い出す。

残業時間を減らしたくないのは何故?

ドライバーの給料形態の問題だ。
トラックドライバーは基本給が"最低賃金"なのだ。
そこに"残業代"、"歩合"、"トラックのサイズ手当"等々が上乗せされて、ようやく人並程度の給料"だった"のだ。
ちなみにボーナスは大手でもなければ、基本的に無い。
月給が全てだ。

2021年(令和3年)のデータで以下の現実がある。
平均年収
・全産業:489万円
・大型乗り463万円
・中小型乗り431万円

年間労働時間
・全産業:2112時間
・大型乗り2544時間
・中小型乗り2484時間
※出典:国土交通省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」

つまり平均年収は全業界より低く、労働時間は全業界より高いというわけだ。
自分が運送業界を辞めた一番の理由だ。ありえない話だ。

そんな中「残業時間短くする法案が2024年4月から適応されまーす。運送事業者は頑張って荷主交渉でもして、ドライバーの給料を確保してねー。」と国から言われているのだ。

「運賃アップの交渉をしに行ったら、運賃ダウンの話をされた」

中小運送屋にいた頃、実際に社長から言われた愚痴の一つだ。
1次請けで貰ってる貴重な仕事だった。

専属で何台か入ってる地場仕事だが、たまに長距離の仕事が来るのだ。
その長距離便が問題だった。
片道分しか貰えてないから、走れば走るだけ赤字になるという。
もちろん帰り便を毎回探すが、条件にハマる仕事が都合よく毎回あるわけではない。空荷で帰ることもある。

そもそも帰り便があっても、利益がほぼ出ないとのことだった。
そこで交渉に行ったが、門前払いというわけだ。

「でもドライバーがいなくなったら、誰が荷物を運ぶの?」問題

自動運転だ。
某大手運送屋のインタビューで、「今後のトラックドライバー不足にどう対応するか」という問いに、その会社の重役がそう言ったのだ。
法改正も時間の問題だろう。

それまでに足りない人員は外国人労働者を入れるのが業界の流れらしい。
安くて、長時間で、事故の責任は100%ドライバーになる仕事。

もう戻りたいとは思わない。


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