トガリネズミは本当に巣を作るのか?

野外でトウキョウトガリネズミ(以下 トガリネズミ)の巣が見つからない。

飼育下で見る巣はカヤネズミの巣に似ていて、干し草を球状に編んだものを地表に作り、去年はその中で出産、子育てもした。でも野外ではそんな巣が見つかった例はない。

今、サマールカメラや紫外線ライトなど、思いつくアイテムを総動員して探しているが見つからない。そんなことをしてもう1ヶ月になる。

そこで思った。

「本当に巣なんてあるのか?」

負け惜しみで言っているわけではなく、以前から、野外の巣について疑問があった。

・20年研究している研究者も野外で巣を見たことがないなんておかしくないだろうか?(20年巣を探してたわけではないとは言え)

・草でみっちり編まれていると言っても所詮は草。地面にそんなものがあったら嗅覚の鋭いキツネに簡単に見つかって壊され、子供もろとも食べられてしまうんじゃないか?

そんな疑問が浮かぶものの、飼育下で巣を作っていることは確か。
見つからないのは探し方が甘いだけ、天敵を回避する何かしらの工夫があるのかもと思っていた。

ところが最近、飼育下で巣を作らない個体がいることにたまたま気付いた。

それは飼育ケージを掃除しようとした時のこと。
中に入れてある流木と干し草を、トガリネズミがくっ付いていないことを確認してから取り出して、流木は床に置き、干し草はゴミ袋に入れた。

次は、掃除中にトガリネズミを別ケージに入れておくために捕まえなければならない。
でも、いくら探しても見つからない。敷いてあるオガ屑の中から出てくるのは糞や餌の食べかすだけ。
そうこうしていると、視界の隅にチョロチョロと動く影が見えた。

部屋の中をトガリネズミが歩いてる…

どうにか捕まえて事なきを得たが、問題はどうやってケージの外に出たのか。
床に置いた流木を見ると、底面に直径1センチほどの小さな穴が空いていた。入り口こそ狭いが中は広そう。ここに潜んでいたとしか考えられない。

掃除を終え、また同じ流木を入れて観察していると、トガリネズミはその穴にスルリと潜っていった。

「やっぱりそこにいたのか、次から気を付けよう」
普段ならそれで終わりだが、今は野外で巣を探してる真っ最中。もしかしてと思い、さっきゴミ袋に入れた干し草を広げてみると、巣はなかった。

こんな説が浮かんだ。

「トガリネズミは既存の隠れ家があれば、必ずしも草を丸めて巣を作るわけではない」

トガリネズミは“穴”が大好きだ。
過去、特製の巣箱や塩ビパイプなどをケージに入れておくと、必ずその穴の中を定位置にしていた。
そうした個体が、草を丸めた巣を作っていなかったかは残念ながら覚えていない。

自分で巣を作るか作らないかは、既存の穴のサイズなどにもよるだろう。これまで飼育下で草の巣を作っていたのは、好みの穴、もしくは穴そのものがなかったから自分で作っていたのではないだろうか。

でも、野外にはかなりの数のトガリネズミがいる。
それぞれが持てる、巣に適した既存の穴はどれほどあるのだろう。やはり自分で作らないと足りないような気もする。
でもモモンガだってフクロウだって、マルバネクワガタだって、既存の穴に頼り切って今日まで命を繋いでいる。自然の懐は思っているよりずっと深い。
もしかしたら、野外で巣を作るトガリネズミはそれほど多くはないのではないだろうか。

今朝、そんなことを考えながら草原を歩いていると、あるものを発見した。

流木に開いた穴。
部屋の中で逃げたトガリネズミが入っていた穴にそっくり。草を少し突っ込んでみると中もそこそこ広そう。体の小さなトガリネズミには十分だろう。

この1ヶ月間彷徨っていた「トガリネズミの巣探し」という掴み所のない長いトンネルにかすかな光が差した気がした。

ここにトレイルカメラを仕掛けてみた。

さて、どうなるか。

※トガリネズミの飼育は許可を得て行っています。無許可での捕獲、飼育は法律で禁止されています。

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