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図南の翼 十二国記

作者:小野 不由美
新潮文庫

・ここがキモッ!

珠晶
ひもじい、怖い、辛いなんて、愚痴を言って人を妬む暇があれば、自分が周囲の人を引き連れて昇山すればいいわけじゃない。昇山して初めて、愚痴を言っても許されるんだと思うのよ。それもしないで、嘆くばっかりーって、よく考えたら自分のことなのよね。
どうして誰も王になろうとしないんだ、王は現れないんだ、って怒っておいて、自分には王になんてなれるはずがない、そもそも蓬山なんて行けるはずがない。これってぜんぜん同じじゃない。だから、まず自分で行こうと思ったの。黄海に行って帰ったら、あたし堂々と、やるべきことをやってから嘆けば、って言ってやれるわ。妬まれたって羨まれたって、あたしは恵まれてるぶん、やるべきことはやったもの、って言える。そしたらもう、無理に官吏になろうとか思わないで、好き勝手にできるのよ。
P378〜379

2021.01.15 抜粋


・キモ候補集

利広(りこう)
王朝の存続のために、国土の安寧のために、王は血を流すことを命じる。たとえ王自身が命じなくても、臣下が王のためにそれを行なえば、流血の責は王にかかる。いかなる意味においても、無血の玉座はあり得ない。
P172

近迫(きんはく)
助け合う、ってのはお前、最低限のことができる人間同士が集まって、それで初めて意味のあることじゃねえのかい。嬢ちゃんの気持ちはわかるが、できる人間ができない人間をただ助ける一方なのは、助け合うとは言わねえ。荷物を抱えるってんだ。
P184

珠晶(しゅしょう)
庠学の老師は、他者に敬意を抱くことができない者は、決して他者から敬意を抱かれるようにはならない、と言っていたわ。
P189

珠晶
道っていうのは、平らな地面が続いてることじゃないんだわ。そこを行く人が、飢えたり渇いたりしないような、疲れたら休んだりできるような、そういう、周囲の様子ごと道って言うのよね。だから確かに、黄海には道がないのよ。
P192

珠晶
頑丘(がんきゅう)たちが、ほかの人に冷たいわけ。……信頼もしてくれないのに、面倒だけ見てくれなんて、確かにそれは無理ってものかもしれないわね。
P203

利広
そんなことは言わないよ。黄朱の気持ちは黄朱にしかわからない。それも事実なんだよ。何事につけても、自分の身に起こってみなければ、理解できないものというのはあるからね。それは事実だけれども、同時に理解を拒絶する言葉でもある。理解を拒絶するくせに、理解できない相手を責める言葉だ。
P213

珠晶
でも困った人を見捨てることが酷いことなんだったら、目の前にいる人が将来困ることを承知で何かをねだるのも、同じくらい酷いということになりはしない?
P225〜226

珠晶
……仕方ないんでしょ?あたしたちは逃げないといけないんだわ。そのために、駮が犠牲になってくれて、あそこに妖魔が集まっている間に、陽が昇ればあたしたちは助かるのよ。駮を哀れんで一緒に死ぬことは、心地よく思えるけれども、結局のところ駮だって死ぬことには違いはないんだわ。
P335

珠晶
国民の全員が蓬山に行けば、必ず王がいるはずよ。なのにそれをしないで、他人事の顔をして、窓に格子を填めて格子の中から世を嘆いているのよ。ーばかみたい!
あたしに言わせれば、身近な場所で人がどんどん死んでいるのに、他人事の顔をしてられる人のほうがよほど世間知らずよ。死ぬってことも、辛いってことも、ぜんぜん本当に分かってないんだわ。違う?
P371

#図南の翼 #十二国記#小野不由美#新潮文庫#書評#キモ

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