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平凡な社会人が鼻ピアスをあけた話

鼻にピアスを開けた。
接客業に就く普通の社会人だったが
5年前に開通させた。

鼻ピアスというと小鼻の横に付けるやつを連想する人が多いと思うが、私は『セプタム』といった牛の鼻輪のようなピアスだ。
普段は見えないようにしてるので、よっぽど目の前で鼻の穴を膨らませ上を向かない限り分からないだろう。

昔から私の思う可愛いは【強そう】にフォーカスされてる。
フワフワの巻き髪よりカラフルなモヒカンが可愛かった
レースのブラウスよりボディピアスや腕や脚のtattooが可愛かった
とにかく私は、周りがちょっとビビっちゃいそうな見た目の彼女や彼らにとても憧れていた。

しかし、憧れはすれど髪を染めたり耳にピアスをする程度で、モヒカンにもしなかったし刺青も彫らなかった。
小さな田舎住みのティーンエイジャーが顔中にピアスやカラフルヘアをする勇気なんて有るわけもなく、そこそこ平々凡々な学生時代を過ごした。

時は過ぎ、社会人として接客業をしていた当時、ストーカー被害を受けていて身体的にも精神的にも色々と参っていた。
最初はボールペンや傘が無くなる程度だったのが、玄関前にゴミを散らされたり車内を隠し撮りされたりとだんだんエスカレートして、最終的に犯人はお縄になった。
私が働いているお店に何度か来たことがある人だった。

解決後は事情を知ってる上司と同僚に御礼と報告をした。
よかったね、無理しないでねと気遣ってくれた。
そして「ナムさん、お客さんに優しいから」と言われた。
もちろんそこに悪意はない。
だからこそモヤモヤした。
帰り道とぼとぼ歩きながら過去を振り返る。

1人食事をしてた時、酔っ払った知らないおじさんは他に居合わせた人たちには目もくれず何故か私に向かって怒鳴り散らした。
働いていた店にアルバイトで入ってきた自分の父より年上のおじさんには、教育係として接していたが裏で「あの人ならイケる気がする 笑」と言われていたこと。
たまたまのフリしたボディタッチが多くなったこと…
いくつも思いあたる節があった。
「優しそうだから」「大人しそうだから」
この言葉の先にある意味は全て舐められやすいという事だ。

全部が悔しかった。
私の「優しそう」を好き勝手に解釈し消費した人に腹を立てた。
何よりも、嫌だとはっきり言えず、ニコニコと気にしないフリをし続けていれば時間が過ぎていくだろうと、そんな自分が情けなくて悔しくて腹が立った。
この夜はベッドの中で声を押し殺して泣いたのを覚えている。

私の顔に刺青が入ってたら絶対にこんな目には合わないだろう。
耳と口にピアスをしてチェーンで繋いでたら?
髪の毛が黒じゃなくて金髪だったら?
ああいう人達は反論できそうにない強く出れない、私みたいな人間を嗅ぎつけるのが上手い。

くそー!強くなればいいんだろ!
OK OK やってやろーじゃん!

強くなりたいから見た目をイカつくしよう!
あまりに安易で馬鹿げた考えだと分かっているが
10代の頃に憧れてた【強そう】に形だけでも近づきたかった。
実際、憧れてた彼らが本当に強いかなんてどうでもよかった。

ピアスした程度で変われるかよ、とか
そんなことしなくても変われよ、とか
二十歳を超え社会人にもなってそんな事してなんの意味があるのか、とか…知らん知らん
翌日の私の鼻にはピアスが貫通していた。

あれから5年経った今の私はどうだろう?
変な人に絡まれることは少なくなったし
昔よりもNOが言えてるかもしれない

もう30代の立派な大人だ。
ピアスなんか開けなくても、気が付いて成長できたかもしれない。
ただ軟骨に貫通したニードルの鈍痛が私の中にある「変わりたい」の気持ちを猛烈に燃やしたのは事実だし、
それによって少しは心の持ち様に変化があったと思ってるので後悔はしてない。

たまに鼻をかむと飛び出すピアスとマヌケな自分の顔を見ると、あの時に泣いて泣いて「もうやだ!強くなりてえ!鼻にピアス開けてやる!!」ってベッドから這いずり、目を真っ赤に腫らしたアホ面を思い出す。
そして誰にも気付かれない小さなピアスを武装した私は、今日も昔の私より少し強く居れる。

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