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【タイム イン タイム】本編

(はあ……つまんねー。この女はいつまでくだらねー話しを続けるんだ?!)

小林菊花は金田瞬と夕日を見るために河川敷に座っている。

(なんでこいつだけケツにビニール敷いているんだ?オレのケツは濡れて冷てーって言うのによ)

「ねえ…聞いてる?なんか遠くを見ちゃってさ。心がここにないなー」
「夕日を見に来たんだから遠くを見ててもいいの」
「今日の夕焼けすごいよね。神様直筆だわ」
「ああ…。菊花ちゃんといつまでも見ていたいよ」
「いつまでも……?」
「ああ」
(いつまでも見てたらケツがビショビショだけどよ。制服汚していい事ねーし)

思い切ったように奥歯をかみしめた。
小林菊花は音を立てない柏手を打ち手首を合わせて左右にふり短い祝詞(のりと)のようなものをあげた。
その瞬間、金田瞬は偶然にも抱き寄せようと菊花の肩に手をかけた。指先が軽く触れたレベルだった。

パキィン………残響がいつまでも耳に残る聞いたことのない音を聞いた。

耳の奥から鳴っているのか、世界全体が音を出しているのかわからないが
何かが鳴っている。

「ねえ?瞬君。私のこと好き?あは!言っちゃった。でへでへ」

瞬に顔を寄せる

「このままいつまでも一緒にいようね。できれば私と結婚して。ぶは!ヤバいめっちゃ照れる。あはは」

(何をこの女は言っている?それに体がまったく動かねー。うっ!それより息ができない!どうなっている?)

「このままチューしちゃおうかなー」

(死んじまう……息が……できん……)

「はい目を閉じて、っていうか閉じないよね」

(……)

「あれ?涙?おかしい?」

瞬の目から涙が出たのを見て菊花は慌てて
簡単な祝詞をあげた。

…………ィィ……ン 静かに音が消えてゆきその後シュっと音がした。
菊花の髪がフワッと引っ張られたようになびいた。

「ひゅあ ひゅあ ひゅあ んあ ゴホゴホ」
(なんだ急に息ができるようになったぞ)
「ごめん!ごめんなさい!」

(なんでこいつが謝っている?)

「息ができなかったでしょ?ごめんなさい!」

(なんで息ができなかったことを知っている?)

涙を拭い、息が戻るまでしばらくかかった。
体はいつのまにか動けるようになっていた。

「今のは……」
「う〜ん、なんでもないの」
「なんでもないのに死にかけないよね。それに全部聞こえていたよ」
「……」
「うちの家にはね……秘密があるの」
「大事なんだ?」
「うん」

しばらくの間押し黙るが瞬がその沈黙を嫌って話はじめた。

「どうしても?教えてくれない?」
「うちの家族だけなの。この秘密を知ることができるのは」

(ちっ!めんどくせー。ここまで来てやっぱりいいわなんて言えるかよ)

「じゃあ……家族になるよ。オレ将来菊花と結婚する。それならいいかな?」

「えっ?ほんと?」みるみる顔が赤くなるのが傍でもわかる。

「それとも、今起こったことを皆にツイートしちゃう。どうする?」

「どうすると言われても、もう降参よ」

(まぢにキモいウソついちまった)

「これから言うことは絶対に他言無用よ!それと質問がたくさん出てくると思うけど最後にまとめて答えるから一旦はちゃんと聞いてね」
菊花は居住まいを正して瞬の隣に座った。
「うちはね……古い家系なの。どれぐらい古いかといえば日本の最初のほうの、そうね古事記に出てくるくらいの」

(なんか壮大な話しだな)

「日本に三種の神器ってあるの知ってる?勾玉と鏡と剣よね。実は権力争いとか強盗とかから目をくらますためのニセ情報なの。本物は本当に【神器】なのよ。その一つがこの【さざれ石】よ」

(なんでそんなもんお前が持っているんだよ)

「本当のさざれ石はもっと大きくて100キロくらいあるんだけど、おじいちゃんが引越しのときに梱包して送ったら業者がぶつけたみたいで欠けちゃったのよ。その欠片がこのお守りに入っているの」

(で?)

「国歌にも『さざれ石の〜巌とな〜り〜て〜』ってあるでしょう?岩がぶつかって小さくなっていくならわかるけど小さな石が岩になるなんておかしくない?でもさざれ石にはそういう時を巻き戻したり、止めたり、早く進めたりする力があるの」

(こいつ、この説明で伝わってると思っているのか?)

「じゃあ……さっきのは時を止めていたのか?」

「うん」

「何か呪文のようなものを言ってたよね?あれがキーになっているのか?」

「そう。さざれ石を持って祝詞をあげるのよ」

「その祝詞を教えてくれない?」

「それはダメ!結婚したあとで親戚一同から許可をもらわないといけないんだよ」

(プププ……こいつバカなのか!ラピュタの滅びの言葉並みに短い言葉一回聞いただけで覚えたわ)

「祝詞については結婚してからにしよう」

「ありがとう。さざれ石は神器なので間違った使い方をしたらとんでもないことになるから親戚もうるさいのよ」

「とんでもないことって?」

「とんでもないことよ」

(知らないんだな)

「さざれ石を使うと中が少し赤く光るのよ。そして少し熱を持つ。さざれ石を持っていると止まった世界で少しは楽なんだけど、離したら動けないし、自分の周りの空気を吸ったら移動しなければ息できないから基本的にさざれ石を持たないで止まった世界に入ったら窒息なのよねーまじで」

「神聖な場所って基本的に人間が住めない場所だよな」

「ほかにもいろいろあるんだけど後はおいおいね」

(まあ、それぐらいにしておくか……。あんまり食いついてもな)

(忘れないうちに携帯にメモしておこう。楽しくなりそうだぜ)

「お父さん!……いや宗家。ちょっと……お話しが……」
夕方に秘密を漏らしたことを打ち明けなければならず、菊花はしおらしく項垂れていた。

「話してしまいました」

家業は酒蔵で地酒の『菊頂(きくいただき)』は甘口の優しい風合いで、花の香りのような独特な匂いが好まれていた。

「ん?何を?」

「つまりあのことを」

「あのことって?」

「さざれ石のことを……」

「はぁ?いつ?どこで?だれに?!」

菊花には二つはなれた兄がいるのだが、兄が秘密を漏らしたときに受けた折檻が目に焼き付いていたので魂が焼けるような気分がしていた。

「その人は?どんな人だ?」

「正しい人です。将来結婚する約束をしました」

「はあ……結婚すればいいとでも?」

菊花は落雷に耐えるように頭を下げて硬直している。

「つまり……男に話したということか」

「あっ、でも祝詞は教えていません」

「あのな……、物覚えの悪いお前が一発で覚えることができたんだぞ。聞いてたら覚えているわ!たわけ!」

「……」

「こんな話し中2病が聞いたらどれだけ夢一杯になると思う?」

「高2です……」

「同じだよ。歩くタンパク質じゃないか」

「いや……そんな人じゃないんだけどなあ」

「祝詞を聞いたのならすぐにアクションしてくるから止めなきゃならん。最悪その男は怪物化して死ぬかもしれんぞ。覚悟だけはしておけよ」



放課後、金田瞬と小林菊花は一目のつかないところで会った。

「菊花ちゃん。いろいろ考えたんだけど……オレやっぱり結婚無理かな」

「えっ?なんで?」

「今日いつものようにカバンにそのお守りをつけてきたらオレのことを信じてくれている。逆につけてこなかったらオレのことを信じてないっていうカケをしたんだ」

「……」

「そして今日つけてこなかった」

「いや、これは、お父さんがそうしろって」

「じゃあ……見せて」

「……うん……」
渋々胸のポケットから取り出した。瞬はそのお守りに手をかけた。

パキイ………ィ………ィ………ィ………ィ………ィ………ィ………ィ
さざれ石が発動した。

(やっぱりな言葉に魂が宿るのなら書いていても同じだと思ったんだ)

手のひらに書いた祝詞を見る

(ちょっと借りてくぜ)

さざれ石を摘んでポケットに入れた。

(少し動くだけで新しい空気は吸えるようだ。あとは……同じところを見続けると暗くなってしまうな。光も空気と同じように使えばなくなるわけか)

(さてどうするかな。なにも考えてなかったからな。いつまで効果があるのかわからないしエロいことしてる間に効果が切れたらウケるわな)

歩き出すとさざれ石を持っているとはいえ空気圧を感じる。

(けっこう抵抗があるんだな。空気を押しのけて進むのって、それとオレの動いた軌跡が黒い影のようになっている。黒い人間がついてきているみたいだな)

人通りが多い場所にでる。

(はい。君たちはオレに納税してくださいね)

そう言いながらサイフからお金を抜き取っていく。あっという間に瞬のサイフははち切れそうになった。

(まあちょっとはエロいこともしてみますか)
そういって歩きながら物色していった。

(なかなかいい女ってのはいないな)

歩くのにも相当疲れるので女の顔を見に行くだけで100mも歩きたくはない。結局近くのベンチに座っていた女に決めて近寄っていった。

(やあ、行きずりの人全部脱いで見せてくれ)

座っている組んだ脚を解こうとしたが、全く動かない。力が入っていないような筋肉でも金田の力では体を自由に動かすことはできなかった。

(すごい重い。これは最初から女風呂に行ったほうが楽だぞ)

その時ポケットに入れていたさざれ石が熱くなっていることに気がついた。

(熱っ!めっちゃ熱い!)

お守りの内側から赤い光が透けて見える。

(なんだよ、まだ何にもしてないうちに時間切れかよ)

祝詞を書いている手では触れないようにしてポケットにしまい直した。その時音なき世界に声がした。

「小僧!いろいろやってくれたな」

瞬が振り向くと、自分の黒い影を追って二人の男が近づいて来ていた。菊花の父と兄だった。

「いきなり喧嘩腰ですか」瞬が身構えた。

「人の物を持ってく奴は友人じゃない。泥棒だ」

「じゃあ……どうしようと言うんですか?」

「まずは、菊花から取り上げたさざれ石を返してもらおうか」

「いやです」

「悪いけどお前のような小僧が扱えるものじゃないんだよ。後ろを見てみろ影の中になんか見えるだろ?」

見ると蛇のようなウネウネした影が大量に近づいて来ていた。

「なんすか?これ?」

「見えるっうことはもう遅いってことだな」

影は瞬の体に吸い込まれていく。そして足がゆっくりと曲がり始めた。

「宗家。あれは?」

菊花の兄が聞いた。

「蛭子(ひるこ)になるんだ。正しくないことをすると神罰がくだるんだよ」

瞬はその蛇のような影を吸い続けて、頭蓋骨すらプカプカするドロドロの塊になっていった。

「ああなってしまったら現し世に帰ってもどうにもならんがここに置いとくわけにもいかん」

「助けて……助けて下さい……」

瞬は自分の体が崩れていくのを止めることができなかった。

「おい、あの小僧からさざれ石を取り返してこい。まだ持てそうか?」

「はい。まだ持てます」

「よし、引き上げだ」

二人は近くのドアを開けて自分達の影を切るようにしてドアを閉めた。

祝詞をあげると「キイ………ィーン」と高く鳴っていた音が消えてシュっと音がした。

「こうして影切りをしておかないと作った真空に一気に空気が入り込みカマイタチ現象でどこが切れてもおかしくないから気をつけろよ」

「はい」

ドアを開けて二人は外へ出た。蛭子と化した金田瞬は数メートル引きずられて全身は傷だらけだった。遠巻きに見るとそれは汚れた服が道に捨ててあるようにしか見えなかった。

「宗家……あいつはこの先どうなるのですか?」

「生きていればいいがな。蛭子(ひるこ)とは恵比寿(えびす)のことだからな福の神になれるかもしれんし、蛭のように人の努力を吸い続けていくかもしれん。それはあの小僧次第だよ」

「生きていればですね」

「生きていればだよ」



 














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