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何故柳はいまだに真田の制裁を受けられていないのか

前回の記事では、関東決勝S3の試合展開に関して考察した。これを踏まえて、柳が挟んだ「私情」と表題「何故柳はいまだに真田の鉄拳制裁を受けられていないのか」ということについて考えたい。前回よりも、拡大解釈と願望が多めかもしれない。


立海部員と鉄拳制裁

「いやそれよりもこの一敗…」
「ああ…簡単に済みそうに無いな」

テニスの王子様25 Genius 215 負けることの許されない王者 

立海レギュラー陣が、柳と真田が向き合っている様子を見ている。柳は汗だくで息も上がっている。真田はベンチに座っている。背景には、青学勝利を喜ぶ大歓声。

無敗の掟は、全部員に共有されていると思う。では、「負けたものには制裁を下す」というのは?ここまで無敗で来ているので制裁が実行されている回数は限りなく少ないのではないだろうか。制裁の行使に関して、明確なルールが部員の間で共有されているというわけではないだろう、と私は考えている。制裁を下すか下さないかという判断基準は、おそらく真田の独断。しいて言語化するなら、「敗北」に対する制裁というよりも「王者立海の誇りを傷つける行為」に対して制裁は下されると見たほうがよさそうだ。というのも、「敗北→制裁」だと、赤也の草試合の敗北で、赤也だけではなくジャッカルも制裁を受けているのに説明がつかない。試合の勝敗は、ジャッカルにどうすることもできないけれど、大会前日に相手選手に怪我を負わせるという王者にふさわしくない行為は止められたはず。しかも、ジャッカルが制裁が受けるのは、真田がスコアボードを確認するより前。赤也が負けていることは、まだ知らない。

制裁を下すか下さないかという判断基準が、真田の独断だからこそ、レギュラー陣は「簡単に済みそうに無いな」とかたずをのんで見守っているのではないか。

何故柳はいまでも制裁を欲しいと考えているのか

貞治との私情を優先し、精市との約束を無にしてしまった。
制裁をもらえるなら、いつでも受ける。

『STRENGTH』 p.60

柳にとって「私情」とは、乾との再会に入れ込んだこと。柳が、関東決勝のS3に罪悪感を感じているのは、「乾との友情」故に生じた隙に付け込まれ、結果的に、幸村との友情を裏切るような形になってしまったから。「貞治との私情を優先し、負けてしまった」ではなく、「貞治との私情を優先し、精市との約束を無にしてしまった」と柳は言っている。柳にとって、この敗北は「友情」の問題なのではないか。

ちなみに、これはあくまで後から、S3を振り返った時の柳の考え。試合直後、真田の制裁を求めたときは、必ずしもそう考えていたわけではないだろうと思っている。直前までかなり冷静さを欠いていた上に、テンションもかなりハイになっているはず。柳だから、疲労した状態でも頭は回るだろうけど、あの瞬間はいろんな感情が渦巻いていたはず。何か明確な根拠があって真田のところに行ったというよりも、「弦一郎の制裁を受けなければ…」と思わず体が動いてしまった部分があるのかもしれない。だからこそ、真田は、すぐにはベンチから立ち上がらない。柳が正常に思考できるようになるまで待ってから、柳に語りかけたのではないか。

当時、何を思って真田の前に立ったのかはわからない部分も多いが、とりあえず、『STRNGTH』発行時点の柳が「制裁を受けたい」理由には、「友情」の問題が関わっているという前提で考察をすすめる。

何故真田は柳に制裁を下すことにしたのか

柳も「私情」という言葉を使っているが、これはそもそも真田の言葉。

「勝てない試合じゃなかった 私情を挟み過ぎたな」

テニスの王子様25 Genius 215 負けることの許されない王者

ジャッカルや赤也のことは、問答無用で殴ったのに!(一応、制裁の根拠は伝えようとしているっぽいけど。殴った後でね…)

柳には制裁を下す前に、何故、柳への制裁が行われるのか、ということについて確認しようとしているように見える(柳への制裁を渋って、制裁の実行を先延ばしにしようとしているようにも見える)。いずれにせよ、真田から柳への信頼というか、関係の対等性がみえる。真田にとって柳は、「一方的に𠮟りつける」ような相手ではない。だから、制裁を行う前に確認する。「勝てない試合じゃなかったのに、私情を挟み過ぎて負けたことに対して制裁を下すということでよいでしょうか」みたいな。

では真田は何をもって、「勝てない試合じゃなかった 私情を挟み過ぎたな」といったのだろうか。柳は、貞治との再会に入れ込んだことだと捉えたようだ。しかし、真田は、必ずしも、これについて責めているわけではないのではないか。真田と柳の間で、「なぜ、この制裁が行われるのか」という認識が、必ずしも一致していないのかもしれない。


友情の問題…??

もちろん、柳が「乾との友情」に思いを馳せることでできてしまった隙についても、少しは、言及しているだろう。しかし、そもそも乾との友情をテニスに持ち込んでほしくないと思っているのであれば、オーダーを組む時点で乾柳戦を避けるはずである。真田は、わだかまりがある過去のダブルスパートナーだとしても、柳ならば勝利を収め、優勝を決めてくれると信頼したうえでまかせている。

もう一つ疑問。関東決勝S3の試合、「柳が乾との友情に入れ込んでいる」という風に真田は捉えていないのかもしれない。漫画の構成的に、「柳蓮二と乾貞治の友情」、「乾が過去を凌駕したこと(データを捨てたふり)」と「その友情の末、ジャイアントキリングが果たされた」というストーリーが最も見えやすい。しかし、乾の作戦はそこまでシンプルなものではない。この試合、「読者が見えているもの」と「柳に見えているもの」そして「真田に見えているもの」の間には大きな隔たりがあると考えている。柳と乾の最後の日について回想は、読者と柳と乾にしか見えていないものだ。真田もある程度、乾とのわだかまりについて、柳から聞いていたかもしれない。試合中のふたりの発言から見えるものもあるだろう。しかし、真田視点では、「乾との友情に入れ込んでいた」というより、「乾の作戦にのって、冷静さを欠いてプレイしていた」という風に見えているのではないか。

つまり、柳は、乾との私情を挟み、幸村との約束を無にしたとみているけれど、真田には、この「友情の問題」がそこまで明確に見えているわけではない。だから、真田の言う「私情」は、必ずしも「乾との友情に没入したこと」を指すものではない、と考えている。

テニスの勝敗の問題

乾と柳の友情の話があまりにも印象的であるため、「私情」=「乾との友情」だと思えてくるから、「真田は柳が乾との再会を楽しんだことを怒っているんだ…」ととらえてしまいそうになるが、これはあくまでも、乾と柳の回想が見えている読者視点の話。前述したように、真田に見えているのは、「乾の作戦にのって、冷静さを欠いてプレイしていた」柳の姿。

真田は挟んだ私情の内容(友情の問題だろうが別の問題だろうが)ではなく、「私情を挟み過ぎて冷静さを失い、自分のプレイスタイルを貫けず、勝てる試合を落としていること」に対して制裁を下す、と言っているのではないか。柳は「私情を挟みすぎたな」という言葉のほうを重くとらえているが、真田が伝えたかったのは、「勝てない試合じゃなかった(のに負けた)」という言葉のほうなのではないか(この話のタイトルは「負けることの許されない王者」。直前に「無敗でお前の帰りを待つ!」の回想。)。

柳と真田の認識のすれ違いの一因となっているのが、「精市との約束」という言葉ではないか。柳は、「幸村との友情」について言及しているが、真田はおそらく「無敗の掟」について考えている。幸村との友情を裏切ったことに関して、真田が怒っているのならば、とっくの昔に制裁を下しているだろうし、真田から幸村への思いの強さを考えるに、もっと、感情的になっていてもおかしくない(でもどうなんだろ。真田って衝動的な部分も、結構自分の感情のコントロールできる部分もどっちも描写されている…)。

解釈は分かれるだろうが、以上のことを踏まえて、私は、真田は「乾との私情を挟んだこと」ではなく、「感情的になり、自分のプレイスタイルを貫けず、勝てる試合を落とした」ことに対して制裁を下そうとしているのだと思っている。しかも、単に負けただけでなく、データテニスへのプライドを貫けずに負けている。無敗の掟を破ったことに関して思うところはあるが、幸村(及びチーム)との友情を裏切ったとは、一ミリも思っていないだろう、というのが私の解釈。幸村との友情と無敗の掟は、決して切り離せるものではないけれど…。

他の部員に示しを付けるため

そして、おそらく決定的だったのがこの理由。他の部員に示しをつけるため。

真田が柳とどう向き合うのか、50人以上の部員が見守っている。その中の皆が皆、3強をよく思っているわけではないだろう。真田が無敗の掟を掲げた文脈も、レギュラー陣は把握しているが、それ以外の人々はその現場を見ていない。

気になるのは、他の部員には柳と真田の関係性はどう映っているのかということ。

前部長(幸村)不在中立海を支えた二人。部に尽くしていたことで絆が強固になっていったのだと思います

『STRENGTH』 p.29

絆の強い2人。真田の制裁の明確な判断基準が部員全員に共有されているわけではない以上、ここで柳を殴らなければ、他の部員は、「真田は柳だけ特別扱いしている、柳だけ甘やかしている」と思うのではないか。制裁を下す理由が何であれ、真田と柳の気持ちが何であれ、あの場で制裁を下さないという選択肢はない。部長代理が、特定の誰かだけを特別扱いすれば、チームの団結と信頼が揺らぐ。

何故真田は柳に制裁を下さないことにしたのか

ここまでは、真田のS1敗北前の話。そしてここからは関東大会決勝の敗北以降の話。

さて、制裁を下すかどうかは、真田にとっては、「無敗の掟」の問題という側面が強いのではないかと考察してきた。ならば、自分がS1で負けた時点で、この件に関して柳に制裁を下す立場ではなくなった、と考えているだろう。

真田は、すべてを背負って、自分が勝つ決意し、コートに入った。

切原新副部長の無念、関東優勝の責務。それらすべてを背負い、真田副部長が出陣した。

『STRENGTH』 p.62

佐伯「彼らは全国3連覇を無敗で成し遂げようとしてたんだ」
葵「それがこの関東決勝でまさかの2敗 王者立海にとってあってはならない出来事」
(…)
「彼はこの試合で圧倒的に越前君を叩き潰す事によって最強王者立海大の誇りを取り戻そうとしている」

テニスの王子様27 Genius 229

そして、自分が王者の誇りを背負ったにもかかわらず、敗北した。「幸村との約束」=「無敗の掟」を守れなかった。だから、柳が自分に制裁を下すことを望んでも、真田にはそれはできない。

何故柳はいまだに真田の鉄拳制裁を受けられていないのか

柳にとって、関東決勝S3は「幸村との友情」の問題。しかし、真田にとっては、「無敗の掟」の問題。自分がS1で負けた時点で、この件に関して柳に制裁を下す立場ではなくなった。この認識のズレが、「柳は制裁を望んでいるにもかかわらず、真田は柳に制裁を下していない」という状況を引き起こしているのだろう。

ここまでの考察完全に無視するなら、「弦一郎だけ、が制裁を受けて俺が受けていないのは嫌だ。俺にもお前の背負うものを背負わせてくれ」みたいな考え方。実際全国前くらいまでは、こんな風に考えているような気もする。でも『STRENGTH』時点だと話は違うのでは?うーーーん。

この場面考えれば考えるほど、わからない。
何か考察の方向性間違ったかも
①真田の鉄拳制裁について
②関東大会決勝当日、S3中&後 真田と柳の気持ちについて
③関東大会翌日、真田が制裁を受けるシーンについて
④後日のS3(+関東大会準優勝について)に関する真田と柳の思いについて

別々に考察してから、何故柳はいまだに真田の鉄拳制裁を受けられていないのかについて考えなければならなかったかも

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