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女 ひとり 家を買う〜リフォーム奮闘編〜②


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 ぺしゃんこじゃないか……。


 トリオ(私犬猫)の終の住処となったお家の耐診断査結果である。
 先日、手元に届いた。

 ギルド長から電話がかかって来たのが先月(7月)下旬。耐震リフォーム業界はなかなか忙しいようでギルド長からも「診断設計の者から直接連絡をしますが、○日までは予定が詰まってて…」と言われていたので、大人しくステイしていた。

 そして月が変わって今月(8月)、最初の週が終わろうかという頃に待ち望んでいた連絡が来た。
 待ち望んでいた、と言ってもやってきたのは『診断予定の連絡』。私より後に物件を購入した友人はリフォームの話し合いに入っているというのに、私はまだリフォームマラソン大会の受付前でゼッケンを持ってうろついている状態である。
 連絡は待たせた旨のお詫びと診断日の選定だった。待たせるのは気にしないで欲しい。現在全国的に建材が間に合わなくて工事が進まなくなっている人達もいるらしいので、急かしても意味はない。

 なお診断士さんの事は本来なら診断士さんと呼ぶべきなのだろうが、ギルド長経由の命を守る家を造る人という事でパラディン(聖騎士)と名付けさせていただいた。これからよろしく、パラディン。

 日・祝が休みのパラディンの予定に合わせて、一番近い日を指定する。今回、私は同行しない。取られる物とか一切ないし、むしろ倉庫の物とか持っていってくれてもいい状態なので裏口の鍵をあらかじめ開けているのだ。その旨を伝えるとパラディンは「では当日そのまま診断に入りますね」と了承してくれた。私との予定両方を合わせようとすると、更に日が伸びるからな…。

 診断日当日は特に連絡もなく終わった。
 問題があったら連絡下さいとお願いしていたので問題なかったのだろうと結論付け、そこから再び待つ日々に突入する。
 ちなみに、診断日を迎えるにあたり事前にヤッケ先生に連絡して「ひょっとすると車を路駐するかもしれません」と伝えておいた。大丈夫だとは思うけど念の為。
 実はリフォームをする際の駐車問題も私の頭を悩ませている。現在駐車スペースは、ちょうど一台分。リフォームが始まったら業者さんの車が半日停まるわけで。塀を壊したら何台でも敷地に停められるんだけど、それしたらせっかくの生垣も全部なくなってしまうしなぁ。塀を壊してまた戻す費用でトタン屋根の方の倉庫解体出来そうだし。
 金、金、金だ!流れ星を見かけるたびに「カネカネカネ!」と叫んでいるんだけど、叶った試しがない。チッ。

 そんな悩みを抱えたまま過ごしていたある日、電話が鳴った。

「お待たせしました。診断報告書が出来ましたので、お渡し出来る日程を教えてください」

 胸が高鳴った。純粋に興味がある、あの家の強度について。
 パラディンによると説明とハンコの時間を含めても10分程度の用事との事だったので、翌日の受け取りをお願いした。場所は会社の近く。連日の雨で道が混んでいたが、何とか時間通りに待ち合わせ場所に到着した。書類を抱えた作業着の男性が立っている。二回程手を振ると気付いてくれた。

「お世話になります」
「こちらこそ、パラディンと申します」

 名刺を受け取り場所を移す。書類を貰い簡単な説明を受けた後、書面に署名してハンコをポコった。

「私の方でこれから耐震の設計と見積もりに入ります。その後ギルド長とのリフォームの話になると思います」
「分かりました」
「あと敷地に家が二つあったのですが、こちらは別棟となるので診断は出来ませんのでご了承ください」
「離れの方ですね」
「ええ。もし住まわれるようでしたら、また別で耐震審査申し込みが必要となります。おそらく対象にはなると思いますが」
「…………」
 
 正直、悩んだ。
 新居には和室を造らないので、離れが活用出来るのなら和室にしてもいいかな、と一瞬思った。
 思ったんだけど。

 一人暮らしに家は二つもいらん。

 と考え直した。
 家が二つとなると将来的に補修費用も倍になる。10畳の和室離れを造り直すくらいなら、撤去してフェンスで囲った小屋を建ててネコリアンの運動場にした方がいい。もしくは物置を置く。どちらかだ。和室も好きだけどね。どうしても和室を堪能したい時は縁側に畳カーペットを敷くとしよう。

 私はパラディンにお礼としてリポビタンDを渡し、仕事へと向かった。

 そうしていつも通り仕事を終えて帰宅し、諸々の用事を済ませてからようやく書類を取り出す。
 ワクワクしていた。
 そんな私のワクワクハートに真っ先に飛び込んできたのが、冒頭の図だった。

 私も犬も猫もぺしゃんこである。

 耐震改修の補助金は満額貰えるに違いない、というマイナス方面での自信だけはあった。地震だけに。この画像は、まさにその事実を裏付けるものであった。
 1981年6月から施行された新耐震基準法以前に造られた、我が古民家。激動の昭和を見守り平成に手を振り令和を迎えた今、最新の技術をもってオギャーと生まれ変わらなければぺしゃんこの未来が待っている。
 とは言え立派なハリーが組み込まれてはいるし、別に雨漏りしてるとか傾いてるとか屋根がめくれているとかではない。
 ただ昔と今では技術も考え方も違う。アイアンマンのスーツだって常に進化している。それと同じ事だ。「頻繁に起きる震度5までの地震に対応しよう。柱や壁に傷は負うが人命は何とか助かる」が旧耐震基準(昔)で、「震度5?余裕っしょ?震度7さえ耐え抜く俺こそが最強!!」が新耐震基準(今)らしい。その新基準でいくと我が家はアレになるのである。
 昔の家というのは基礎を地盤を固定せず、屋根を重くして揺れに対応するというものであったとのこと。柱に見立てた木を台に四本立てて、その上に辞書とか置いて台をちょっと揺らしてみると分かりやすいかもしれない。弱い地震には対応出来ても、一定以上の負荷がかかるとベシャッと潰れてしまう。(めちゃくちゃ凄い建築方法とか、オリンポス神殿かよみたいなでかい柱とかなら別だろうが)
 あとは風通しを重視する窓の多さも耐震を下げる原因の一つで、壁にせよとの報告。窓、ダメかぁ〜。でも出来るだけ残しておきたいなぁ。私、窓好きなんだよねぇ。
 ペラペラと書類をめくるが、どうにもこうにも我が家は現代の基準を満たしている状況ではなかった。
 とは言え、良い事も知った。
 地盤である。

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 これは朗報だった。
 新居から近い所に地盤が硬いと評判の地域がある。私がこの家にしようと決めた理由の一つであるが、プロの目から見ても信頼出来る地盤であるという安心感は大きい。どれだけしっかりした家を建てても足元が崩れたら意味がないもんね。
 あとはリフォームをしない(床くらいは変えるけど)風呂やトイレが『問題ない』となっていた点もありがたかった。前も言ったけど、風呂をリフォームするとなればガチで100万くらいかかるのだ。無理。無理。それと屋根も問題なかった。
 書類を見終わり、私は「ふむ…」と考えた。周りをウロウロしてる犬猫の視線を感じるが、スルーしている。
 報告書に添えられた別紙によると、耐震改修の自己負担額は10〜100万くらいとある。私の場合おそらく最大値に近くはなるはず。どのくらいの予算を内装、解体にまわせるのかが一番気になる所だ。それが判明しないと、何も決められない。

 私は再び正座して待つ身となったのであった。




③へ続く

次回『パラディンの見積書』

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