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女 ひとり 家を買う〜リフォーム奮闘編〜③

 そんなタイトルに奮闘とかつけても、さすがに後は業者さんにお任せするだけなんだし、何か起きるとか思わないじゃないですか。
 コロナ禍で材料費が高騰!とかは起きたとしても全然想定内だし。
 
 ギルド長(リフォーム会社社長)がコロナで入院して、パラディン(耐震設計士)が我が家の耐震設計図作った後そのまま忘れて放置してるとか、それがダブルで起きるとか普通思わないじゃないですか。 


 どういうこと!!??



 驚きのあまり逆に冷静になる私に、電話口のギルド長は平謝りだった。


 どういうこと!!!???



 ギルド長の話は、こうだ。
 
 コロナにかかってしまったギルド長は、そのまま入院となった。その際の引き継ぎとして副社長に私と打ち合わせをして工事まで進めてもらって良いと伝えていた。
 退院後、やけに報告が上がってこないなと「ジョーさんの件、どうなってる?」と聞いたところ私と耐震の打ち合わせをしてその設計図まで作り、……作り、作り。

「ほんっっっっとうにすみませんでした!!」

 病み上がりのギルド長は、待ち合わせ場所の新居の前で再び私に頭を下げた。私が放って置かれた期間は約1ヶ月。本来なら全ての打ち合わせが終わって工事に入っていてもおかしくないほどの期間だった。

「いえ、大丈夫ですのでお構いなく…」
「ですが、今住まれてるお家は会社まで遠いと聞いてます。もっと早く引っ越ししていただけるはずでしたのに…!!💦」

 ええんや。
 ええんやで、ギルド長。
 痩せたな、ギルド長。最初違う人が来たかと思った。
 でも無事に退院できて何よりや。

 それに私は何の打算もなく笑顔で「大丈夫ですよ☺️」と言っているわけではないのだから、ええんやで。

 とりあえず私は「これ、快気祝いです」とギルド長にリポDの塊を渡した。

 内装のリフォームの確認と、耐震の見積もりの受け渡しの日だった。
 まず見積書を受け取る。この金額によって内装にかける予算が決まるのだ。
 補助金を満額貰ってMAX70万の支出、これが私の耐震予算だった。それ以上になると住宅ローン分では足りず何らかの積み立てを解約せねばならなくなるだろうから、かなり厳しい。
 ちなみに見積もり金額は表紙にでっかく書かれているからドキドキする時間はなかった。
 見積もり金額は、補助金MAXからちょっぴりはみ出たものだった。

「ジョーさんの支出分は5万程になると思います」

 やっっっっっす!!!
 ていうか満額出たのか!
 払い続けてきた色んな税金が、巡り巡って今ここに!
 おかえり!!待っていたよ!いつでも帰ってきて!!

「壁は一旦壊しますので、壁紙は数十種類からお選びいただけると思いますよ」

 やった!!
 壁紙代が浮いた!!

「先に耐震工事をして、それから内装になる予定です。今日は先日お伺いしたリフォーム内容の変更点などの確認をお願いします」
「分かりました」

 私は内心の「ムフー!百万浮いた!」の興奮を隠して、ギルド長と共に離れへと向かった。
 
 9月10月と予定が立て込んでいて手入れに来られなかったので、新居の庭はあっという間に草だらけになっていた。あと女郎蜘蛛がでっかくなっていた。頑張って冬まで害虫を駆除し続けて欲しい。

「離れを立て壊すのは変更なしで良いですか?」

 ギルド長からの問いかけに私はうなずいた。

「ただ綺麗な更地にはしなくていいです。上物だけ撤去して頂ければ。下の基礎とかコンクリとかは残しておいていただけた方が、後で私が何か作りたい時に助かります」
「なるほど、そうですね。では屋根、壁、トタン、柱などの木材は撤去ということで」
「はい、あとは離れと母屋を繋いでいる部分をそのまま屋内の土間として使いたいので、撤去後に壁などを作ってもらいたいです」
「了解です」

 そのまま中に入り台所に向かう。

「先日お伝えした通り、台所の床は塩ビで他はペット用のフローリングでお願いします。それからここに仕切りを設けたいのですが……」

 ここで私は先日自分で書き上げた内装の図面を持ち出した。

「希望はこんな感じの家で、台所と玄関の仕切りはこういうの(細かい格子扉)が良いのですが……」
「……う〜ん…出来なくもないですが…こういう細かいのはオーダーになるので一枚からでも結構しますよ?」
「予算からはみ出るようなら、そこの障子を自分で改造します」

 希望、あっさり消える。
 新居での仕切りがなんか変でも「ああ、手作りだもんな」と思ってください。
 見積もりを出すだけ出して最終的には予算に合わせて削るとのことなので、私は気にせずどんどん希望を伝えていった。
 壁と天井、掃き出し窓のガラス交換、ドアの交換、キッチンの変更、風呂とトイレの床と壁紙交換、白蟻駆除と合わせて天井裏の確認(野生動物類)。室内灯については洗面所と風呂とトイレは業者さんに任せて、居住スペースのは自分で用意して設置だけしてもらうことにした。アンティークな室内灯が良いのだウヒヒ。
 こうなると屋根が問題ないのは本当有難いな。屋根取り替えとかになると恐ろしい費用になっただろうし。

「あ、あと解体の撤去時なんですけど」

 私は、ポンと今思い出したかのように手を打ってギルド長を見た。

「処分費に上乗せして頂いて結構なので、工事に入るまでの間に私が切ったりした木や草も一緒に片付けてもらってよいですか?」

 前の庭、中庭、裏庭に生えてる木のことだ。普通に処分を頼むと草はともかく木の根っことかは結構かかってしまう。
 私の問いかけにギルド長は「いやいや」と首を横に振った。

「そのまま置いといてもらえれば、一緒に処分しておきますよ」
「本当ですか?ありがとうございます✨(計画通り)」

 助かる〜。あれ、ほんと結構するんですよ。放置して枯れたら燃やす、の方法が取れないこともないんだけど。
 一通りの話し合いが終わり、裏口から外へと出た。
 風が少し冷たい。虫の羽音も聴こえなかった。
 ここは私が生まれた町よりも、冬が早く来るのかもしれない。

「コロナ、大変でしたね」
 話を振ると、ギルド長は「人生で一番辛い思いをしました」と苦笑した。
「39.5度の熱が一週間続きましてね。ようやく病院で検査ができた時には肺が真っ白になっていると言われましたよ」
「後遺症とかは大丈夫ですか?」
「……髪が……ありえないくらいの抜け毛の日々が……」
 
 お、おぅ……。おぅ……。

「後は物覚えが異常に悪くなったというか……。今までは当たり前に出来ていた事もメモを取らないと出来なくなってます……」

 お、お、おぅ……。

「ジョーさんもお仕事柄、かなり気を使われますでしょう?」
「そうですね。特に私は重度の基礎疾患持ちの父と同居もしてますし」

 …引っ越しますけど。
 先日モデルナ二回目で38度超えの熱が出てる状態の私に気を遣ったのか、何も言わずに一人で風呂に入ろうとした父がそこで体調を崩してゲロりんちょをしまくり、私は高熱の中、汚物塗れで溺れかけていた父を抱え上げそのまま(本人が汚れた体を流すのも嫌なほど体調を崩していた)ベッドへと運んでから、浴槽と洗い場を掃除しましたけど。「ジョーがいなくても大丈夫」の人達、これマジどうすんのかな。まぁ、いいけど。

 一瞬遠い目になったけど、戻ってくる。

「そういえばギルド長さんに少しご相談があるのですが」

 そして私はタイミングを見て切り出した。

「なんでしょう?」
「ドッグランを作りたいのですが、フェンスが途切れてる部分や低い部分の補強をする感じで金網のフェンスを立てたいんです。相談先を知りませんか?」
「……フェンス、ですか?」
「基礎からの施工ではなくて、市販されている杭打ち式のやつなので、材料はこちらで用意出来るんです。施工先をご存知でしたら紹介して頂きたくて」
「う〜ん…それ頼んだら結構しますよ」
「そうなんですけど、私一人では出来ないので…」
「どこからどこまでですか?」
「あそこから、あそこまでです。杭はここからこういう感じに打てます」
「…………」

 ギルド長の手の中でリポDが光ってる。

「うちの若いものについでにやらせますよ。材料だけ用意してください」
「…!そんな、…でもありがとうございます!✨(計画通り)」

 やったぁぁぁ!!!!
 どうしようかと思ってたドッグラン用のフェンス!!!
 嫌な言い方になるけど、ギルド長はパラディンのアレがあるから「ついで(撤去)」とか「うちうちで出来る(フェンス)」みたいなのは引き受けてくれると思ってたんだ!割引とかより全然良いです。ドッグランフェンスの施工費がゼロになるのならむしろ私にとっては大きなプラス。
 ありがたや〜。
 いっそパラディンにも例を言う勢い。ギルド長的には「パラディンこの野郎」かもしれないけど。

 私はギルド長に丁寧に礼を言って、彼の車を見送った。ちなみに見積もりは一週間くらいで作ってくれるらしい。爆速。パラディンのアレが(略)

 は〜、でもよかった〜。犬の脱走対策はマジ必要だから〜。ニュースになるから〜。

 ホッと胸を撫で下ろしつつ、車の鍵を取り出す。

 さて、こちらも帰らねばならないが。
 その前に。

 寄らねばならぬ、場所がある。

 手元にある『不動産取得税納税通知』を見ながら、私は新居の門を抜けたのだった。



 次回はちょっとリフォームから脱線し『不動産取得税の軽減措置申告書を取りに行く』話。

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