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ヒロシのCD部屋 - 古楽の部屋 ①

英国古楽界の重鎮トレヴァー•ピノックによる1977〜79年の録音。

スマート&スタイリッシュな演奏で、グレン・グールドのように思索的になりすぎないところがいい。もちろんチェンバロなのでニュアンスの違いはピストンとスライドくらいの違いはある。

この中のBWV913の最終部分のフーガが、トロンボーン吹きにはお馴染みの"Fugue in d-moll”。
その勉強の為に学生時代から、"フーガニ短調"と名の付くバッハの曲を手当たり次第に音源を探して結局見つからずだったけど、恥ずかしながら三十代後半頃になってやっとグレン・グールドをマジメに聴き始めた事で、肝心のその曲は"トッカータ"の中の一部分である事が判明した。
…そのような体験を持つトロンボーン吹きは、案外多いのではないかな…

それもそのはずで、バッハのトッカータは集成録音が極端に少ない!
アルゲリッチの有名なバッハ・アルバムにもあるc-moll BWV911は、比較的多くのが取り上げいてそのメロディも有名。
今でこそ日本人演奏家も含め録音数は増えてきたけど、やはり一曲だけの単発が多く、依然全曲録音が稀なのはなぜだろう?

バッハの曲自体の難しさもあるだろうけど、その他理由の一つには、以下のような要素が多分に含まれてるから、なのか…?

トッカータは、古くは16世紀頃、オルガンなどの鍵盤楽器の調子や具合をみる為に、一通り音階やアルペジオや和音を弾いて試し弾きしていた事に由来してるそうで、英語で言う"touch”を意味する"toccare”が語源との事。
最初期は、和声進行にスケールの動きを伴った即興的なもので、教会で宗教曲を演奏する前の音確認としていたようで、これが後世に"前奏曲"と呼ばれるものへ引き継がれて行く。
…いや〜勉強になるなぁ

そもそもイタリアで派生したものを、ドイツのシュッツやハスラーがイタリア留学し、母国へ持ち帰る事でさらに発展を見せて行く。またオランダではオルガンの名手スウェーリンクによって、より構造的に確立されたものを造り上げた。
また本場イタリアでは鍵盤音楽の大家フレスコバルディが、よりバロック的な様式よる記念碑的作品とされるトッカータ集全二巻を出版。さらにその弟子のフローベルガー、ムファットやパッヘルベルなどによって盛んにトッカータが作曲され、この形式の最盛期を迎える。
そのフレスコバルディやフローベルガーを集中的に研究したバロック後期のバッハは、トッカータという形式のバロック時代最後の傑作を残した人物とされている。
…う〜ん、よく勉強した(*_*)
そんなこんなで、とっつき難く内容的に重過ぎる面があり敬遠されがちなのかな。

それにしても、バッハによる全7曲のトッカータ集は、それぞれに違った趣きで聴きどころの多い音楽が列ぶ。
縦横無尽に駆け巡りながら連打されるスケールやアルペジオから、しっとりとしたニュアンスのコラールや、曲終わりに配置される魅力的なフーガなど、各曲10分程度ながらその内容はバラエティに富んでいる。
有名なニ短調をはじめとする「トッカータとフーガ」と題された多くの他作品より、なぜかより魅力的なパッセージや耳に残るフレーズが多く、聴き流しをするだけではもったいない!

古典派以降、この形式は段々と廃れていったようで、単発でシューマンやドビュッシー、ラヴェルといった鍵盤作品を多く残した作曲家の手になるものが有名なところくらい。
あとはプロコフィエフのトッカータなんかも、これぞ!という感じで、鍵盤連打の嵐がカッコいい。
他には変わり種で、ヴォーン=ウィリアムスの「トッカータ・マルツィアーレ」。我々にはお馴染みの吹奏楽作品で、これは雄々しくも勇壮なサウンドで、ストイックなまでの緊張感が漲る作品。手の込んだ対位法旋律が難しすぎて演奏困難な為か、あまり取り上げられないのが残念だけど、吹奏楽銘曲のカテゴリーに是非加えて欲しい逸品。

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というわけで、今日は"トッカータ"についてのお勉強でした。

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