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ダシの効能

ダシはきちんと取りたいと誰しもがそう思っているのですが、

毎日のことなので、ついついさぼりたくなってしまいます。

少しお値段は張りますが、簡単に作れる天然のダシがパックに入ったものが売られているのでそういったものを利用されるのも一案です。


 和食のダシと言えば、鰹節と昆布が代表的です。今はどこで暮らしていても鰹節と昆布は手に入りますが、昔は贅沢品というイメージが強く、特に海から離れた地域ではダシを取るために鰹節や昆布を購入することは晴れの日のごちそう用でした。

 昭和の40年代に化学調味料が売られるようになると食卓に革命が起きました。それまで貴重だった鰹節はダシを取るためのものではなく、お醤油をかけてのご飯のお供になってしまったというご家庭もあったかと思います。


 海辺に近い我が家では当時、普段の食事には煮干しでダシをとることが多かったです。みそ汁はもちろん、野菜の煮物も煮干しを使いました。

 祖母は何かにつけておおざっぱなところがあって、缶に入った煮干しを手づかみで鍋に放り込み、そのダシでその時に採れた野菜を煮付けるのですが、野菜の表面に青魚のピカッと光る皮が貼りついていたりするので、正直食欲が減退しました。

 煮干し以外では小エビが多く、と言っても小エビは漁師のおじいさんが自転車で売りに来てくれなければ手に入らない代物で、海が時化で船が出ないときはダシがないのです。そんなときは、乾物の煮干しか干しシイタケでダシを取ることになるのですが、おじいさんが来ない日は基本的にメニューの変更を余儀なくされました。

 おじいさんが、荷台にトロ箱を積んだ自転車に乗ってきたときには、ご近所のおばさんたちがお鍋を片手に魚を買いに行くのですが、「ダシジャコ」と呼ばれる小エビが、お魚のついでのように買われていました。それくらいダシジャコは安いもので、殻をむかずに無造作にダシだけを取られて、身は殻と共に無残にも捨てれれる運命でした。今思えば、贅沢な消費生活でした。

 そういう環境で育ったわたしは、そうめんは必ず小エビでダシを取った麺つゆでした。ほかにも小エビのダシは大活躍で、茄子の煮付けも小エビのダシと決まっています。春のごちそうのえんどう豆が収穫されると家族は大喜び。この時だけは小エビは丁寧に殻をむかれてえんどう豆と共に卵でとじられたり、小エビとえんどう豆のかき揚げも美味しくいただいていました。

上記の
「おばさんが、お鍋を持って魚を買いに行く」
という件について、気になるので注釈を入れさせていただきます。

おばさんたちが、ボウルではなくお鍋、それも片手鍋限定です。理由は、取っ手が付いている片手鍋の方がボウルに比べるとはるかに持ちやすい上に、お鍋にはふたが付いているので衛生的であるという利点があったからです。

漁師のおじいさんとは、厳密にいうと元漁師のおじいさんで、代かわりで船を息子に譲り、息子が捕ってきた魚の多くは市場に揚げられますが、ごく一部だけをおじいさんがトロ箱に積んで民家の集落に売りに来てくれる、という時代でした。

あれからずいぶん月日が経って魚が捕れなくなりました。


 時代が変わると食卓も変化していきます。
お鍋を持ってお魚を買いに行った主婦たちは、今頃はデイサービスに行って
「瓶詰の麺つゆで そうめんなんて侘しいね。」とか
「えんどう豆の煮物はエビが入らなければ物足りない。」なんて言ってるのでしょうか。


 近年、ものすごい増え方で精神を病む人が増えているのだそうです。
確かに昨今のややこしい感染症のせいで仕事が不安定になっていることは無視できない事実ではありますが、かつて毎日海辺から揚がってきた物で味噌汁を味わっていた国民だったのに、それらのものを味わうことが少なくなったせいもあるのではないかという説もあります。

社会を騒がせられている昨今の影響で、家でお仕事をする方が増え、最近お味噌の売り上げが増加しているのだそうです。それも少しお値段が張る上等なお味噌が売れているとのこと。
一連の社会情勢の流れで時間に余裕ができたからなのだそうです。

鰹節で取られたダシには、心が休まる成分が含まれているのだとか。
毎日でなくても、たまでも良いとして、鰹節と昆布で良いダシを取ってゆったりとした気分を味わってみるのも良いかもです。

#ダシの効能

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