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エスカレーターの片側空けに思う

地下鉄のエスカレーター事故

平成20年(2008年)5月9日金曜日。朝8時のラッシュ時に、名古屋市地下鉄久屋大通駅で事故が起きた。上りエスカレーターが突然停止し、逆走。11人が軽傷を負ったというものである。よく利用する場所だったのもあり、この事故は、私の記憶に強く刻まれている。

大変利用者が多い場所・時間帯でもあり、しばらくの間、ローカルニュースでは、この事故を繰り返し取り上げた。そして、事故の原因だけでなく、安全なエスカレーターの利用方法について、何度も繰り返し説明がなされた。

そして、病気やケガなどで左右どちらかの手すりしかつかめない人にとって、左右どちらか一方に寄るのを強制されることや、隣を歩かれることは、危険な場合もあることを知った。

正直なところ、それまでは全く、「左右どちらかの手すりしかつかめない人」の存在は、頭の中になかった。そして、エスカレーターを歩くことが危険だという認識も無かった。

「なるほど」と思ったものの、周囲の何となくの「圧」に負けて、その後も片側は空け、エスカレーターも歩いた。自分ひとりで頑張るというのは、私には難しい。

名古屋市条例の「義務」

そこから15年後の令和5年(2023年)3月、「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が制定され、同年10月1日に施行された。その条例の中でも特に強調して伝えられたのが、以下の2つの「義務」である。

「義務」というのは重い言葉だ。でも、罰則規定がないので、多くの市民はこれらが「義務」であるという認識はないかもしれない。

(利用上の義務)
第8 条 利用者は、右側か左側かを問わず、エスカレーターの踏段(人を乗せ て昇降する部分をいう。)上に立ち止まらなければならない。

(利用方法の周知義務)
第9 条 管理者等は、利用者に対し、前条に規定する方法によりエスカレーターを利用するよう周知しなければならない。

「名古屋市エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」より

名古屋市の「令和5年度エスカレーターの利用に関する実態把握調査について」によると、「歩いたり走ったりして利用する割合が令和4年度は21.3%であったが、令和5年度に入り条例制定後は15.6%、条例施行後は7.3%と大幅に減少」とある。

実感としても、歩く人が減り、横並びは増えたように思う。利用者が少ない場合は片側空けが多いが、混雑時には左側に長い列ができ始めると右側の空いている側に人が立ち止まり、その後ろが2列になることは多い。片側空けも、右側に立つ人が増えた。

そんなわけで、最近の私は「横並びは当たり前」ぐらいの感覚になっていた。

危険を体感

先日、夫とふたりで東京に行った際、すいている上りエスカレーターに、横並びで乗っていた。すると、後ろからすごい勢いで登ってきた男性に、無理やり割って入られて、ちょっとびっくりした。

男性は「すみません、すみません」と言っていたが、語気からその「すみません」は、「申し訳ない」ではなく、「通るから道を空けろ」という注意だと受け取った。

若く高身長で肩幅もあるその男性は、走りあがるスピードを緩めることなく、私とぶつかった。急いでいたのかもしれない。片側を空けていない私たちに、腹が立ったのかもしれない。

気を抜いていた私は、道を空けようと方向転換しかけたところでもあり、ちょっとぐらついた。「ああ、そうか。ここは名古屋じゃなかった」と思うと同時に、「エスカレーターが危険」という感覚が少しわかった。

エスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーン

ちなみに、 2024年7月22日(月)~8月31日(土)までは、全国規模のエスカレーター「歩かず立ち止まろう」キャンペーンが実施される。子供たちの夏休みに合わせての開催ということかもしれない。

このキャンペーン、日本民営鉄道協会のサイトを見ると、2020年度から毎年開催されているらしい。しかし、2020年度と比べると、2021~2023年度の説明文は半分程度になり、今年2024年度では説明文がない。理由は不明だが、力尽きているのだとしたら、残念だ。

とりあえず、名古屋市ではエスカレーターで立ち止まるのが義務なので、もし、市外からお越しの際はご留意のほど。

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