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庭からの解放

ついてきてしまった庭

私は植物を育てるのが苦手だ。何度か観葉植物に挑戦したことがあるが、すぐ枯れる。唯一ポトスだけ、何とか枯らさずに済んだことがあるが、大きく成長はしなかったので、成功したとは言い難い。

そんな私なので、ガーデニングがしたいとはミリも思ったことがない。しかし、以前住んでいたマンションには庭があった。広さ約20㎡ぐらいはあっただろうか。私にとっては広大とも言える広さだった。

その家に引っ越した時、季節は初春で、庭にあるのは枯葉と常緑樹のみだった。しばらくすると、ドクダミがぽつぽつ顔を出し始めた。朝のわずかな時間を除くとほとんど日陰という環境下で、ドクダミたちは光を求めて上へ上へと伸びあがり、庭全体を緑と白で覆いつくしていった。

草刈りに悪戦苦闘

私にとって庭は見て楽しむものであって、手入れする対象ではなかった。ドクダミに対しても「きれいだな」と思って眺めていた。しかし、ある日、ふと、この状態は「庭」ではなく、「空き地」かも?と思い始めたら、腿の高さほどあるドクダミに占領された庭が「荒地」に見えてきた。調べるとドクダミはどうやら駆除すべき対象らしい。

鉢植えさえ対処出来ないのに、このドクダミをどうすればいいというのか。夫は私以上に植物に関心が無いからアイディアゼロである。これは友人を頼るしかないと思った私は、ガーデニングが好きだと言う友人たちに片っ端から連絡を取った。友人たちはとても親切にいろいろアドバイスはしてくれた。しかし基礎知識ゼロの私は、相変わらず具体的に何をすればよいか全くわからなかった。

途方に暮れた頃、昔勤めていた会社の同僚たちが、草刈りをしようと申し出てくれた。同僚と言っても、全員先輩である。天気の良いある日やってきた彼女たちは、持参のランチを食べ、小一時間ほどおしゃべりした後、「さあ、やりましょう」と作業着に着替え、各々持参した道具を手に取り、庭に飛び出していった。私がまごまごしているうちに、草はあっという間に取り除かれ、沢山のごみ袋に納められていた。なんていい人たちなんだろう。

しかし、庭は生き物である。時が経てば草は生えてくる。夏には再び地面が見えないほどの草が生え、秋には空を覆いつくす落葉樹から山のような葉が降り注ぎ、堆積した大量の落ち葉を取り除く前に温かい季節がやってきて、再び地面からドクダミたちが復活してきた。

更に、この庭には春から秋まで、大群の蚊が生息していた。庭作業する時は、頭からすっぽりかぶるタイプの虫よけパーカーを着るのだが、足を踏み入れるや否や、10匹以上の蚊が目の前のメッシュに張り付いてくるのが見える。薄手のジーンズ程度なら、軽々と上から刺してくる。どんな虫よけを使っても蚊を避けることは不可能。蚊の苦手な私としては、冬以外、庭に出る勇気がなかった。

夫も溢れる草を何とかしなければという気持ちはあり、マキタの電動草刈り機を購入したが、使ったのはほんの数回。友人に教えてもらって粒状の除草剤も購入したが、使い方が今ひとつよくわからず、結局段ボールから取り出されることはなかった。

紫陽花の強さを知る

アドバイスを求めた友人の中には、鉢植えを分けてくれる人もいた。先に述べたようにその庭は日当たりが悪く、私は植物の育て方がよくわからない。そんな私の手にかかると、実のなる木も鮮やかな花も育つことなく枯れていった。しかし、そんな中、唯一育った植物がある。紫陽花だ。

もともと紫陽花は大好きな花だ。だから、ある日、庭の奥に紫陽花が咲いているのを見つけた時は、とても嬉しかった。そして、調べた結果、紫陽花なら日当たりが悪い庭でも育ちそうだとわかったので、いくつか鉢植えを購入して庭に植えてみることにした。

植えようと思った時にも蚊はぶんぶん飛び交っていたが、好きなものに対しては、その大群も多少は我慢できる。

地植えしようと地面を掘った時、指の太さほどのミミズが土の中から「こんにちは」と挨拶をしてきた。今までの人生でこんなに大きなミミズは見たことが無い。この庭は大量の枯葉が堆積する。だから、土が肥えていて、こんなに大きなミミズがいるのかもしれない。びっくりして違う場所を掘ってみたが、再び大きなミミズが「こんにちは」と挨拶してきた。

こんなにおっきなミミズは見たくない。だめだ。

本当は沢山の紫陽花が咲き乱れる庭にしたかったのだが、ミミズの恐怖におののいた私としては、3鉢を植えるのがやっとだった。いや、ミミズのご挨拶におののいて、土は浅くしか掘れなかったので、植えたというより置いたという方が正しいかもしれない。

しかし、紫陽花は強い。何の手入れもしていないのに、驚く早さですくすくと育ち、春には芽吹いて初夏には花を咲かせる。そして、ひざ下だった紫陽花はあっという間に私の腰ぐらいの高さに成長し、季節になると花を咲かせて大いに私たちを楽しませてくれた。

引っ越しで唯一寂しいなと思ったのは、この手植えした紫陽花が見られなくなることだった。やはり少しでも手をかけたものは、愛おしいものだなと思った。

そして、再び庭のない生活へ

引っ越した先には、庭はない。もう際限なく生えてくる草の心配をしなくていいし、あっという間に庭を埋め尽くす枯葉にストレスを感じることもない。見ることは好きなので、以前より近くなった東山植物園に出かけ、移り行く季節を楽しんでいる。私の大好きな紫陽花たちも、最近は随分力強い葉っぱを身に着けてきている。来月が楽しみである。

6年間、窓の外に緑がある生活をしていたので、引っ越し当初は木々のない風景に違和感があったが、1か月以上経ち、それにも慣れた。それでも緑を求める気持ちが少しあるので、新居のカーテンは若草色とした。

トップ画像は、東山植物園「しゃくなげの森」での1枚。いつもは桜がすっかり緑になった頃に咲き始めていたように思うが、今年は桜の満開とほぼ同時期にしゃくなげも満開となった。春の短さを感じる。

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