フォステSS 死神が名前を貰うまで

こんにちは。いらっしゃいませ。……はい、「ネージュ」は私ですよ。
聞きたいことですか?わかりました、私にわかる範囲でしたらお答えします。隠すことも別にありませんし。
あ、よかったら上がってくださいな。紅茶とクッキーを用意しますね。
簡単なものしかお出しできなくてすみません。お口に合うといいな。
……それで、お聞きしたいこととは、なんでしょう。
”リタ・シンフィールド”、ですか。
あなたがそれを聞いてきたということは、多分”13番”のことを知りたいのですよね。あの子には、とてもお世話になりました。本来なら命を奪い合う間柄のはずだったのに。不思議です。
あの子は、本当に強かった。力のない私とは正反対で。敵がいればすぐに気づきます。腕っ節が強い……というよりは、とにかく自分の身の回りのことに的確に反応できるのですよ。
……あぁ、私たちの間で何が起こっていたか大枠くらいは説明するべきですよね。
シンフィールド家はご存じですよね。あれだけの規模の財産を有する家系は、なかなか多くないと思います。
 金持ちの道楽って色々ありますけど、私たちはそれに巻き込まれました。用済みになった人体実験の被験者だとか、あるいは奴隷なんかを買い取って遊ぶ趣味があるみたいで。いろんなところに大金を流し込んで、子供たちが買い取られました。それで、その中から、”リタ”に適合する子を選ぶ殺し合いがありました。……それで生き残ったのが、私と13番です。
 “リタ”を選ぶ時の当主さまが、娘に恵まれなかったそうで。戦争成金の家系でもありますし、戦える子供が欲しかったんでしょう。……あっ、成金なんて言っちゃいけませんね。すみません。
 13番の異常な能力の源は、乳児期に受けた実験だそうです。はい、あの子は実験施設の方出身だそうですよ。ぱっと見わかりにくいですよね、あの子の能力は。最初はただの物静かな子だと思ってました。こういう境遇だと、感情を表に出すことってあんまりいいことはないものですから。そういうことの一環だったのかなって。だけど、何度か話しても13番自身がどういう感情を抱いているのかわかりませんでした。その代わり、感情を言い当てられることは多かったですね。
 それで、他にも能力持ちの子はたくさんいました。1番とか、4番とか本当に怖かったです。正直、力の強さだとかカリスマ性だとかを考えたら、あの二人のどちらかが”リタ”になってもおかしくなかった。
 だけど、13番の強さはそれを上回った。死神は、魔術師も王も殺してしまうんだなって、あの時は感動するほどでした。……本当に、殺しに関してはあの子は強かった。
 13番は、冷徹で、無慈悲でした。最初の人数から22人に減るまでの間、彼女に戦いを挑んだ相手は、みんな倒れていきました。少なくとも無事じゃいられない。
 一対一で彼女に面と向かって対峙できた人はいないんじゃないかな。ただでさえ大人数の中でのサバイバルでしたから。有利な場所から彼女に銃口を向けたつもりが、別の誰かに銃口を向けられている。そういうコントロールがうまいんです。
 不思議なことで、彼女が引き金を引くのは本当に最低限ですよ。動けなくしてから対処、なんて生易しいことはそうそうしない。まぁ、やってたことは尋問じゃないですから。確実に、一発で、頭にドカン!って。そうやって仕留めるんです。どうやって狙っているんでしょう。
 でも、「なんでも見える」らしいですからね。狙うべき場所とか、狙い方とか、「見える」のかもしれません。
 それと比べて、私は、弱かった。弱いからこそ、弱いなりに生き延びました。狙われないように、狙われないように気を付けました。武器の使い方を習ったけれど、まともに打てたためしはありません。……13番がそれをどう考えていたのかわかりませんが、「殺すに値しない」って認識してもらえたみたいです。
 でも13番って、真っ黒で夜闇に溶け込みやすいから羨ましいです。私はこんなに目立つ髪色ですし、頭は回る方ですけど不器用なところがありますから。気を張っていないとすぐにドジ踏むんですよね。
 え、私の番号ですか?……はい、私は9番でした。私は”隠者”です。できるだけ人の関わりを断って、こうやって過ごしています。
 あの子に生かしてもらった命、捨てるわけにはいきませんからね。特に生きる希望があるとかないんですけど。きれいなお花を毎日見ていても命の危険がない、っていうのは前よりいい生活かもしれません。
 えっと、神のお告げ、っていうのかな。私には聞こえるんです。だから、人とうまいこと話して、お告げを伝えて、戦わないようにしました。私は弱いから。さっき言った通り、人と関わらないようにする。狙いから外れるようにして、人とのかかわりを避けていました。
 ふふ、自分の能力の説明するの、難しいですね。私の能力がわかりにくいだけかな?敬虔な信者の方ならともかく、そこまで神さまを信じていない人にはインチキだと思われることもよくあります。仕方ないのかな。でもそうとしか言えないんですよ。頭の中で誰かが教えてくれる。問いかけにはあんまり答えてくれないけれど、いざというときにはそっと教えてくれます。
 はい、あなたが来ることも実は教えてくれました。頭の中の神さまが。
 ……まさか、こんなに久しぶりに13番について聞かれるとは思ってなかったけれど、お客様が来ることが分かっていればおもてなしの準備もできます。
 どうぞ、もう少しゆっくりしていってください。お茶もクッキーもたくさんあります。おいしいお茶を入れるのは、13番より上手ですよ。
 あの子、味音痴なんですよ。知ってました?味の表現が独特だし、なんでも食べちゃいます。レシピをちゃんと教えてあげないと「美味しい」ものは全然作れなくって。分量とかまでしっかり教えたら、食べられるものは作ってましたけどね。ちゃんと作れたの、うす味のスープくらいでしたよ。結局、ごはんはもっぱら私が作っていました。
 13番の薄味スープ、また食べたいなぁ。多少はおいしく作れるようになっているのかな。ちょっと気になります。
 ……どこかで、生きていますよね。ほんとうの”リタ・シンフィールド”は。お礼をちゃんと言わないといけません。私の命を、助けてくれてありがとう、って。助けたつもりも、ないのかもしれないけれど。
 あの戦場の中でだって、"リタ・シンフィールド"は生き延びられるはずですよ。すべてが焼け野原になって誰もいなかった、なんて私は信じられません。だって、きれいな黒い髪の毛の女の子の遺体、見つかっていないんでしょう?きっと、どこかに身を隠して上手に逃げた。きっとそうです。神さまは、何も教えてくれないですけど、「私」はそう信じています。
 私は"リタ"にはなれなかったけれど、こうして生きています。どうにか、ね。
 “リタ・シンフィールド”の笑顔、一度でいいから見たかったなぁ。シンフィールド家当主よりもずっと仲良しな自信があったのに、一度も笑ってくれなかったんです。ちょっぴり寂しいですね。
 もし彼女に会うことがあったら、きちんと笑う子になっているかどうか、教えてくださいね。そればっかりが心配で。あんなにかわいいのに、笑わないなんてもったいないじゃないですか。

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