【感想】舞台鎧武外伝仮面ライダー斬月

鎧武を見たい見たいと言っていた矢先にニコ生で再放送があったので、3月にやっていた舞台を見ました。なんせこの3月に出た作品ですから、鎧武を見たいと言っている矢先に見るのは随分と裏口じみたところから……ではありますがそれはそれ、そもそも仮面ライダー鎧武への興味が爆発した理由が呉島貴虎の存在に他ならないので、これはこれでアリだと信じたい。

以下、本編のおおまかなあらすじはネタバレ踏んではいるものの本編そのものはまだ見れていない状況での感想です。

●プロジェクト・アーク

直訳すると「方舟計画」。いかにも何か碌でもない予感がするなあと思っていたら、なんと60億の人間を犠牲に、10億の人間を選別するというスケールの大きな計画でした。そしてこの舞台の主人公・呉島貴虎こそ、プロジェクトの責任者であった模様。回想の8年前当時と思われる貴虎は「人間が人間を選別する罪」について言及しており、人の道を外れた計画であることには十分に自覚的なよう。正しく罪の意識のある人間が、いくら大義のためという名分を得たところで、正気のまま行えるものとはどうにも思えない計画なあたり、相当な悲壮感が漂っていますし、そんな貴虎にのしかかる重責を目の当たりにした鎮宮雅仁が「共に背負わせてくれ」と言い出すのは、客観視したときの貴虎の悲惨な境遇を何となく感じると同時に、雅仁の貴虎とどっこいどっこいな高潔な物好きっぷりが伝わってきました。

しれっととんでもないこと言ってるなあと思ったのが、雅仁の「さすがに上も君1人に(プロジェクトの)責任を負わせるのは哀れに思ったのか」という言葉。世界の行く末のために60億の無辜の民の血で手を染める咎を、20代半ばの1人ないし2人の青年の背にかけることを良しとしていたのか、「上」は……? これは「大義」に対する生贄か人柱のような扱いにしか思えないのですが……? ノブレス・オブリージュというか、もはや良いとこの御曹司として生まれた”程度の”人間ごときが負う必要なぞどこにもなさげなあまりにも重い重い十字架に度肝を抜かれると同時に、どこまでも正気でこの罪に向き合う姿勢、もはや異常である。きっともう、いっそ壊れてしまう方が楽。


●貴虎と鎮宮兄弟

ユグドラシルの中枢にいる家系の嫡子に生まれ、弟を持ち……という共通点が強調されると同時に、黒と白のスーツを始め、ことごとく正反対の要素を配された呉島貴虎と鎮宮雅仁。この正反対は結局生者と死者であるところまでそうだったわけですが、かつて志を同じくしながら道を違ったこの2人が、唯一、貴虎が変身した斬月と、もはや人ならざる身となった雅仁が対峙したときのみ、双方白を基調とした姿で揃うの、象徴的で美しく、同時にとても残酷。また、貴虎を兄の仇として恨みながらも、亡き兄の影響で呉島流「ノブレス・オブリージュ」に感化されている影正が、漆黒の貴虎と純白の雅仁の間の灰色のスーツを纏っているの、上手いですね。

貴虎に弟と偽って近づく影正、記憶を失っていようと貴虎に嘘がバレるわけですが、人の兄として貴虎の目は誤魔化されないということと同時に、なまじ実兄・雅仁をあまりにも強く思うがゆえに騙せなかった側面もあると思いたいなあ……。

影正に、できる限り苦しませて直々に自分の手で殺してやる(意訳)というレベルに恨まれ、実際銃すら向けられた貴虎ですが、影正が窮地に陥ったときの助け方に、「上の子属性」が見え隠れするのが良かったです。上の子属性とは、例え自分の弟妹でなくとも歳下の人間を相手にすると兄姉めいた行動をとってしまう上の子の習性のことです(笑)


●「大人」と「子供」

おっさんと呼ばれることは承知しない貴虎も、自分が「大人」であることにはものすごく自覚的です。「大人」を自認するがこそ、アイムたち「子供」が繰り広げる血みどろの抗争を痛ましく思う貴虎。アンダーグラウンドの「子供」たちの激情の中で、まるで台風の目のように凪いだ貴虎の存在が際立っていて、綺麗な対比だと思いました。このあたりは、呉島貴虎の経験を重ねた大人としての老獪さと、演者である久保田悠来さんの役者としてのキャリアがマッチした部分でもあるのでしょうけれど。貴虎、「ノブレス・オブリージュ」を生き方の指針にしているあたりからして、アンダーグラウンドの子供たちの言うところの「貴族」に生まれたこと、今回の局面においては周囲に比べ「大人」であること、といった「立場」に対する拘りがとても強いのですが、それゆえに同じ「大人」であるベリアルにだけは素直に背を預けたり、「同格」である雅仁に対してのみ声を荒げたのが印象的に映ります。

人間、特権を手にすると腐敗するのは古今東西繰り返されたことで、実際鎮宮家はそういった存在として描かれてますし、「庇護しなければ」「導かなければ」といった姿勢はしばしば独善的になるリスクと紙一重な中、「持てる者」であることに人一倍自覚的でありながらここまで人一倍清廉な精神を持つ貴虎が空から降ってきたのは、アイムたちにとって幸運だった……のでしょう。たぶん。そう思いたい。


●地上の権力闘争と地下の生存闘争

結局、アンダーグラウンドの惨状は貴虎たち「貴族」の実験から始まっていて、当初貴虎は「貴族」の1人として、その事態の収拾をつけにきたわけですが、アクシデントにより自分が何者かさえ忘れて地下に落下します。いわば貴族のステイタスという羽を撃たれ地下に墜落したような。しかしそのアクシデントのおかげで、アイムたちと「貴族側の人間」としてではなく「名無しのおっさん」として、「”呉島”貴虎」としてではなく、「ただの貴虎」として出会うことになる。貴虎の志は記憶があろうとなかろうと変わらなかったでしょうけど、最初から貴虎が、鎮宮の遺産に引導を渡しにきた呉島の人間として彼らの前に立っていたら、彼の声は「身分」という壁に阻まれ、アイムたちに届くことはなかったのではないか、という気はします。


●人類の未来

重い罪を背負い、盟友の想いを託されたからこそ、貴虎は「死ぬわけにはいかない」のか……この人の歩む道はどこまでも険しいな……。1つホッとしたのは、彼は1人で背負い込むことの過ちには既に気づいているらしい、ということではありますが。8年前には60億人虐殺の罪を1人で抱え込もうとしていただけにホッとした。そもそも貴虎、生まれは相当良い上に本人の能力も異常に高そうなので(一介の御曹司の戦闘能力じゃない)、己の立場ゆえに他者を庇護する責務があると思えば思うほど、誰も貴虎のことは守れないしなんなら横に立てる者すら居なくなってしまうのですよね……。雅仁は「共に背負わせてくれ」と請うたわけだけど、死んでしまったわけだし……。人と重荷を分け合うことはどこかでちゃんと学んだ貴虎、本当に良かった。

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実にとりとめがないですが、なんかまた思い出し次第足すと同時に、さて、いい加減鎧武本編を見るぞ……!

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