【東方アレンジCDレビュー】Re:Tune/overTuner

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今回フラっと行った例大祭で懐かしいサークル名を見かけたので。どうやら10年程ぶりの再始動とのことで、そりゃあめでたいことです。

内容としては非常に良質なギターロックとでも言えば良いでしょうか。全体的に端正なプロダクションで爽快感のあるサウンドと言えます。
そういった楽曲が皆無という訳ではないですが印象としてはロック系としては若手のサークル等の破天荒なパワーで突っ走る勢いを感じさせる様なものとは対極の、ある種の落ち着きすらも感じさせるクールネスで多彩なアプローチで飽きずに聴くことができました。
そういう懐の深さも感じさせる音なのは元々それぞれ別にサークルをやっていた方が組んだという経緯もあるのでしょうが、その源泉にあるのがオルタナではなく主に80年代以降連綿と続いていく主にイギリスのギターロックの系譜に連なっている部分はあるのかなぁ、と。
直接的か間接的かは置いといて、ネオアコ、ネオサイケ、アノラック周辺、またそれ以降の流れに連なるものとして考えるとそのアプローチとして合点が行く部分が多いです。この辺、スピッツを参照したと思われるアレンジがあったりする所からも伺える部分ではあると思います。

とまぁ、ジャンル的なお話は置いておいて、このサークルの特色としてはまずタダオ氏の圧倒的なヴォーカルというのを挙げるべきで、声質として太さと爽やかさが同居しているという少なくとも東方アレンジ界隈では珍しい上にとても存在感がある訳です。
おそらく、そこに関してはサークル側も自覚的で基本的にボーカルを前面に押し出すという前提での製作されているのではないでしょうか。
その上で、その強い存在感ゆえにバックはかなり自由にやれてしまえているのだろう、ということが伺え、2枚組ですが1枚目は比較的ギターロックとしてストレートなアプローチが多いですが2枚目は演奏だけ聴いていたら同じサークルとは思えないぐらいには好き勝手やれているのが面白いです。

以下はかいつまんだ楽曲感想など。Disc1から1曲目のマヨヒガ、シンセを交えてネオアコに通ずるキラキラしたウェットなギターが清涼感を与える楽曲、冒頭のこの曲の時点で勢いやパワーとは別種の深みのある表現をされているなぁ、と感じました。非常に良質なギターポップ。
2曲目のさよならホワイトガーデンはディレイを利かせたギターで音数少なめなちょいブルージーなジャムっぽい空気からサビでバーストする静と動を感じさせる楽曲で、動のサビの音は決して重い音という訳ではないですが、静のパートが空間的でお洒落さも感じさせるものになっているため対比で激しさを上手く演出されていて、このサークルらしいバランスの取り方なのかなぁ、と。
3曲目のブックマーカーは彼らの中では非常にストレートなアプローチで疾走感のあるギターロックという趣。ただ、中盤以降出てくる休符を上手く生かしたリフだったり、厚めのコーラスが爽やかさを彩っていてしっかりサークルの色に染めているアプローチだと感じました。
5曲目は疾走感のあるイントロの二連のリフから爽やかなコーラスワークで広がりを付けた上で、敢えてサビでハーフビートにすることでぐぐっと懐の深さを感じさせるアレンジで、ここがあるからこそサビ公判で再加速する所にカタルシスが生まれているというか、とてもカッコ良いです。
6曲目は原曲の癖の強いメロディを爽やかに崩していて、またそのメロディにさらに清涼感を加える働きとなるコーラスワークを加えるタダオ氏のメロディメーカーとしての妙技が光る好ナンバーです。
10曲目、性急さを感じる楽曲で、この辺ギターの単音リフがポストパンク的な空気も感じさせます。単に疾走感だけで押し切るのではなく3連のキメがメリハリになっていて良い塩梅に楽曲を引き締めていると思いました。

ここからはDisc2に移りますが、2曲目のコイコガレは分厚いコーラスと要所で挿入される少しラテンテイストの入ったアコースティックギターのフレーズが独特のメロウさを感じさせる辺り、Disc1とはテイストが違うのが伺えます。この楽曲も彼らのバックボーンの一つにネオアコ的なものがあると感じた楽曲です。
3曲目はピアノを前面に押し出したアプローチで、このピアノが疾走感を出したり広がりを出したり、小気味よさを演出したりと八面六臂の活躍というか、前面に出されるだけの重要なポジションを担っている楽曲でタダオ氏のボーカルも相まって爽やかさが限界突破しているような素敵なものになっているのではないでしょうか。
5曲目のラクガキは客演としてAs/Hiの柊秀雪氏がピアノを弾いているが、氏はクラシックの素養がある方なので、旋律の流麗さやしなやかなフレーズで楽曲を彩っている。この辺3曲目と比較して聴くのも面白い。こう一つの盤で聴き比べると、どちらも爽やかさに繋がっているがフレーズとしては全く違うアプローチなのがよく分かります。
7曲目は2本のギターが絡み合ったり寄り添ったりハーモニーを奏でたり、さらには電子音が彩りを添えるポストロック的な雰囲気も感じる楽曲で、こういうのが大好物なので贔屓目になっているかもしれないですが、非常に心地よく聴けます。またこういう楽曲でベースがしっかり練られたフレーズを奏でているのか、というのがよく分かると思います。
10曲目はアコギを中心に据えたブルージーさも感じるアレンジで、ムードのある素敵なアプローチで、ギターが柔らかい音だからこそコーラスワークだったりピアノやベースが上手く絡み合うように支えているのが分かる構造になっていて深みを感じる楽曲かなぁ、と。

楽曲単位で書いてみましたが、やはりDisc1でストレートに魅力を伝え、Disc2でその魅力にさらに深みと広がりを与えるような構成になっていて、おそらく活動再開に合わせ、これからこのサークルに触れる方への名刺代わりの様な、そして今後への豊潤な音の予感を与える素敵なベストアルバムだと感じます。

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