データで見る東方ポストロック ※5/2追記あり

東方アレンジという同人音楽においては最も長く規模も最大といえる二次創作ジャンルではスタンダードなものからニッチなものまで多種多様な音楽ジャンルがごった煮で存在していて、とても面白いのだが、個人的な趣味からポストロックアレンジの作品はどの程度あるのだろうか?
なんてことを思ったので、追える範囲でデータを取ってみた。

さて、まずは見た方が言いたいことは分かるので釈明というか。
あれが入ってない、とか、これポストロックじゃないだろ、とかごもっともだと思います。
できるだけソースに当たってはいるのですが漏れがあったり、そもそも私が作品持ってなくて調べようがなかったり、一部のサークルに関しては情報自体を追えないものもあり、どうにもならないので、情報を知っている方がいらっしゃれば教えていただきたいです。

とまぁ、逃げを打ちつつデータから見えてくるものもあるので、今回調べた範囲についてつらつらと書いてみたい。

追記:今回の内容を公開した所、非常に重要な情報がサークル青波ゆらゆらのかじ様からもたらされました。

https://twitter.com/okajikajikaji/status/1256242796756742145
https://twitter.com/okajikajikaji/status/1256269344633262080

筆者も現状音源未入手なので、この作品にポストロック要素があるのかはまだ確定していませんが、07年にKnights of Roundに参加しポストロックアレンジを制作しているくみちょ氏のサークルということを考えると、この作品が初の東方ポストロック作品である可能性はかなり高いです。
持っていらっしゃる方、検証していただける方がいらっしゃいましたらお願いいたします。

追記ここまで。

まず、東方ポストロックアレンジが生まれたのは2007年で間違いないかと思う。
というのも、これ以前となるとそれこそ東方アレンジ自体がまだ希少な時期になると考えられるし、ニコニコ動画等が盛り上がるのももう少し後の事と考慮しても、06年以前にポストロックのアプローチを試みているというのは自分がリサーチした範囲では確認できなかった。
また、時系列だけで見るならばKARMARTが最初の東方ポストロックアレンジと考えられるが、後年の音源を聴く限りベースとしてオルタナ的な音楽があって、ポストロック的なアプローチを持ち込むというスタイルであることから、当時の界隈(というものがあったかどうかは別として)ではオルタナ系アレンジの新規サークルとして受け止められていた可能性が高い。ただ、この時点でそういうアレンジが存在していたのは凄いことで、先駆者と言えるのは間違いないかと。

では、界隈に東方ポストロックを印象付けた作品は、と考えると個人的な所感としては2つ考えられ、一つは07年のさかばとによる「幻想の視る夢」が挙げられる。
根拠としては、この時期であれば作品の流通的な部分を考えると最も多くの人の耳に届いたのはKnights of Roundのくみちょ氏のアレンジが同一イベントにて頒布されているが、こちらはコンピレーション盤だったこともあり、ロックアレンジのアプローチの一つという捉えられ方でポストロックという所まで結びついていないのではないか。しかも1曲だけでは起点にするにはちょっと弱いのではないか。
対して、「幻想の視る夢」はさかばと初の東方アレンジオンリーのアルバムで、かつ作品内の数曲でポストロックの要素を感じさせるフレーズが視られます。私は後追いで聴いたので当時の空気はまた違ったものかもしれないが、少なくともある程度はポストロックと結びつけられる好事家の方がいたのではないかと思うし、少なくとも1年後の「幻想、繋がる遥か彼方」ではポストロックというワードでもって作品を評価している方が匿名掲示板にいたと記憶している(私はそれを見て実際に買ったクチ)。
そして、2つ目として09年のminimum electric designによる「幻想郷 Electric Shoegazer」が考えられる。
根拠としては、おそらく東方アレンジとして初めて、ポストロックを前面にアピールして出てきたサークルという点が挙げられる。
例えば、さかばとはアプローチとしてポストロック的な部分は多々あるが、ポストロックアレンジというキーワードでもって作品の説明をしたことはなかったと記憶している。なので、当時のさかばとは東方ポストロックというよりかはサークルの音の個性的な視られ方をしていたのではないか。
反して、minimum electric designは作品頒布前からニコニコ動画にアレンジを投稿していたが、初投稿動画のタイトルは「【東方アレンジ】レトロスペクティブ京都 Electronic Post-Rock」ことからも分かる様に、ポストロックというジャンルをアピールしていた。
なお、ニコニコ動画ではこの作品が制作者によってポストロックと明示された現存する最古の作品である、ということも特筆すべきことだろう。
この点の捕捉になるか分からないが同年3月にKARMARTが頒布したEchoesのキャッチコピーは「こういうロックもアリじゃない?」的なものだったと記憶しており(とらのあなの商品説明「ちょっと変わった東方ロックアレンジCDです。」)、これ以前にポストロック系作品を出しているサークルでポストロックというジャンルをしっかり打ち出しているものはほぼなかったし、ましてやサークル単位でそういったことをする者もなかった。
強いて言えば、t=NODEがCHANNEL † NODEシリーズの説明でポストロックという言葉を使用していたがwebラジオ(すし~のあぷらじ)での記憶であるため、実際に特設ページ等でも使われていたか不明なこと、またこの作品自体がポストロックというよりはポストクラシカルや映画音楽に近いサウンドであったことから、そこまで影響はなかったと見て良いだろう。
また、そのサウンドもダブやグリッチなどエレクトロニカ方面に通じるアプローチを取り入れつつ、ジャズやブルース等の要素も感じさせるスタイルだったことから、非常に間口の広い、あらゆるジャンルにリーチする入口としては最高のものだったことも東方ポストロックを印象付けたかどうかは別として見ても、この作品が東方ポストロックというテーマの中で重要な作品なのは間違いないだろう。

次に年別の作品数等を見ていくと、現状では2010年と2016年が作品数的に最も多くなっているが、これは実際のジャンルとしての盛り上がりとしてもこの2つの年はそれぞれピークの一つではあったと思う。
まず、2010年における重要な作品として、「極東アウトブレイク」を挙げたい。
この作品は所謂、東方ロキノン系アレンジ、08年末の鉄腕トカゲ探知機が初作品を頒布した辺りを起点として起きた流れを受けての史上初の大規模合同のはずで、参加サークルの顔ぶれもそれまで長く活動していたというところはなく、新鮮な顔ぶれで新時代なんていうと大袈裟だが新しい流れの様なものは確かにあったと記憶している。そして、この作品にも平茸氏によるフュージョン色も感じられるポストロック風の楽曲があるのも見逃せない点で。平茸氏自体はポストロックをメインにしている訳ではないが、そのフレーズのセンスや引出しの多彩さはオルタナ側からの橋渡し的な存在だったと思う。実際に当時よく飲んでたアレンジャー皆凄いって言ってましたし。
それ以外にも、mano氏による音としてはオルタナだが、ポストロック的な耳でも楽しめるインストナンバーや。モノクロスタジオによる強烈なシューゲイザーなど尖ったアレンジの多い作品だったこともこの作品の重要度を上げていると考えられる。
そんな新しい流れに乗っていたかどうかは分からないがminimum electric designはこの年と翌年はそれぞれ4作品ずつ新作を頒布するなど最もアグレッシブに活動していたり、同サークルと同じイベントで初作品を頒布していた放霊船は翌年「極東アウトブレイク弐」へ揃って参加している(放霊船はメンバーの蕎麦饂飩氏の新サークルAudioINNで参加)点も東方ポストロックの盛り上がりを受けた流れと解釈しても良いのではないか?
そして、この年に初作品を出し、14年ぐらいまで活動する回路も見逃せない点で、丁度このころのサークルは東方ポストロックとしては第2世代と言えそうだ。
また、それ以前から活動していたサークルも作品を精力的に頒布した最後の年だったというのがもう一つの根拠で、事実08年以前から活動していたサークルは10~12年の間に大半が活動休止や解散している。
以下、データで見る限り
KARMART:11年作品なし、12年に1作頒布し解散
C.S.C→luv:10年のGood Bye...が最終作
Attrielectrock:13年に東方アレンジ最終作
姥桜咲く→Red Bullet Sequence:11年にコンピに参加し長期活動休止(17年復活)
t=NODE:10年でCHANNEL~シリーズ終了。サークル自体もその後1作制作し活動終了。現在は別名義でオリジナルで活動。
と、極東アウトブレイク関連のサークルを除くとさかばと以外(コンピや作中の1曲そういうテイストのあるアレンジをやってみた、というような所は除く)全て解散や活動休止している。なんという焼け野原。
丁度、それまでのサークルと新しいサークルが共存していたことで年別で見た場合、この年が作品数が多い時期となるのだろう。

次に2016年だが、こちらの重要作品となるとやはり史上初の東方ポストロックアレンジ合同「絶景」になるだろう。
最も古くて11年以降に活動を開始したサークルによる合同で丁度以前のピーク以降のサークルによる作品と言えるだろうが、この作品の場合は新世代の作品というよりかは10年から空いた6年間の東方ポストロックの総決算というべきだろう。
参加サークルの内、18年以降に新作を頒布しているのは3つのみで1つは海外のサークルのためwebDLのみの頒布という特殊な形態であることや、新作を頒布したが活動休止が決定したサークルが1つあったりと、安定して作品を頒布するサークルは実質1つしかない状態なのが大きい。
ただ、10年の頃の様に解散や活動休止が明確になってないため、新作を発表するサークルもまだいるだろう、というのが明るい材料と言える。
そんな訳で、今回は合同を作る側がそれまで長く活動してきたサークルによるものだったが、新しいサークルはどうなったのか、というと前年辺りから新たな動きが見え始めたのが分かる。
15年には、anoareとマッコ屋が、16年にはアオイツキヲミテタにアリスミア・アリスメアにありのす。が活動をはじめている。面白いのはその全てが音の方向性が違うことが面白く、これは東方ポストロックの裾野が広がったと言えるのではないだろうか。
ちょうど、重要な合同の立ち位置こそ違うもののそれまでの世代と新しい世代が重なりあうという全く同じ要因でこの年もピークとなっていることがデータから伺える。

さて、年別データではちょっと振れない訳にもいかない数字が出てるので2017年以降を見るが、19年まで3年連続で同一サークルが新譜数トップとなっているが、これは大勢に影響はないものと考えるべきだろう。
作品数だけみればバグなんじゃないかという数値だが、逆に言えば17年は年間の半分の作品が同一サークルによるものということになるので、実態として規模は縮小していると考えるしかない状態だ。
しかも、このサークルは首都圏の大規模イベントで作品を頒布したのが1度だけ、委託頒布を入れても新譜として首都圏でっ頒布されたのはリストからは3作品だけなのである。
これはどう考えても界隈に影響はないと見るべきで、実態としての数字はもっと少ない数を想定するべきだと考ええる。
ただ、特筆すべきは6年のブランクがあっても戻ってこれるだけの規模を持つ東方というジャンルの特異さというのはあり、今後もそういうサークルが現れる可能性はあるのではないか、と考えている。
サークルではないが今年は極東アウトブレイクの第3弾の制作がアナウンスされているが、これも9年ぶりなのだから可能性はあるし、期待したい流れだ。

そして、まだ途中ということで今年の年別データは集計していないが、イベント自体が開催されなくなっている現状では厳しい数字になることは明らかと言えるが、その後は果たして新たな世代が出て来るのか、残念ながらジャンルとしての勢いは落ち着いてしまうのか、過去に例のない状況で全く予想はできないが、今後はどうなっていくだろうか。
個人的には前者であってほしいと思うがはてさて、という所で筆を置きたい。
東方ポストロックはいいぞ。

p.s.という名のデータの反省

今回作成したデータの怪しい部分は
06年以前にもポストロック作品ないとはいいきれない。→多分あった。
Attrielectrockは後期はクラブミュージック寄りのアプローチもしているので、ポストロックとしてはそぐわない作品もあるかもしれません。分かる範囲では削りましたが。
12~14年辺り、埋もれてるサークルやバンドがいそうな気がします。この辺りって短命で終わったサークルも多いと思うので。
あと、Red Bullet Sequenceは作品出しすぎ。誰だ、俺だ。


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