「ARIAKE」梶迫小道具店 レビューしてみた。

東方我楽多叢誌さんで東方アレンジのレビュー企画をやってらして、それにいくつかレビューの様な怪文書をお送りさせていただいたのですが、大量のレビューが集まった関係で全文掲載という形にならなかったので、こりゃ自分のnote更新のネタに使えるな!ってことで今回そのレビューを全文自分で公開しましょうか、という話です。以下、本文。

東方アレンジにおいてクラブミュージックというのは一大勢力であり、ジャンル毎の隆盛や移り変わりが特に激しい世界だが、そんな場において他に比較できるようなものがない独自の路線でひたすら研鑽を繰り返していくサークル。それが今回レビューさせていただく梶迫小道具店である。
今回取り上げる「ARIAKE」は、このサークルが目指したリズムとグルーヴの探求に対する一つの答えなのではないか。

梶迫小道具店の基本スタイルは民族音楽―――いわゆるトライバルなビートとクラブの4つ打ちなリズムの融合と形容するのが良いだろう。
そして今作の特筆する点は、民族的なビートとクラブのリズム、さらに時にはそこに乗るシンセサイザーも含めて、それぞれが独立したものとしてグルーヴを持ちつつ、組み合わさった時に新たな表情―――うねりを生み出しているという独自の境地を感じさせる。

それは1曲目の「Alleinreisende」の不穏で跳ねるようなシーケンスに4つ打ちのキックが寄り添い、さらにトライバルビートが加わることで、それぞれの音が絡み合い、音が重なり合った所と、そうではない所という新たな音の強弱を呼び、新たなグルーヴを生み出していく点にあるのではないか。
そう、この作品においては新しいグルーヴの創造の瞬間に幾度も立ち会う瞬間があり、既存のものが新たな別のものに変容する瞬間はとても興奮するしとてもワクワクするのだ。

3曲目、「Traumbrücke」ではキックのパターンを跳ねさせることで、トライバルなパーカッションの低域を補完する役割を果たしつつ、ダブ的な深いディレイの掛けられたパーカッションも加わり浮遊感と地を這うような強靭な低域という二律背反とでもいうような要素が同居し、独特のノリを生み出している。

さらに4曲目「Promenade」では前曲では1要素でしかなかったダブを前面に押し出してどちらかというとダブテクノ的な表情も垣間見せ、強靭な低音と消え入る様な儚さが心地よい。
今作においては各リズムの要素のバランスを緻密に計算し、その時々で音の主従が入れ替わりひっくり返ったりすることで多彩な引出しでもってリズムという切り口を多彩に聴かせている点も非常に魅力的だ。

6曲目「Grabmarkierung」と7曲目「Geheimnis」ではトライバル要素はほぼなくディープなハウスとなっているが、だからこそ根本としてクラブミュージックとして強靭なグルーヴを持っていることを窺い知ることができるトラックとなっているが、それ以上にこの2曲はこの作品のコンセプトにおいて重要な役割を持っていることに気付かされる。
ジャケットに記された一節、「週末世界の旅人は、その地に何を視るのか―――」という言葉から、この作品は何らかの理由で崩壊してしまった世界の残骸にて秘封倶楽部の二人が視た風景を表現したものだろうと推察され、今作においてトライバルなビートは通低音として存在するようなものではなく要所要所で浮かび上がる様に存在感を放つ挿入のされ方をしているのだが、トライバル―――民族音楽というものは言うまでもなく歴史に根差した音楽な訳で、崩壊した世界の記憶を覗き視ているのではないか、そしてそれが終わった6曲目以降にはそれが顔を出さないのではないか、その様な意図があるのではないかと筆者は受け取った。

そして、7曲目においては同作者が過去に制作したアレンジ「Landscape with mille-feuille」のリミックスだと思われる。元の楽曲の初出は同作者が過去に主催した「秘封サナトリウム」という合同に提供されたもので、随所に秘封倶楽部の二人の日常会話風の台詞が挿入される、「秘封倶楽部の日常」を切り取ったものだった。
それをここで引っ張り出すということは、世界の記憶を視た後に蓮子とメリーの「日常」に思いを馳せる構成になっているのではないか。正解かどうかは分からないが、もしそうなのであればこの作品を締めくくりを飾るにこれ以上ないくらいに相応しいものだろう。(注:この部分に関しては私の勘違いというか幻覚だったようです。(ご本人に確認取ったら「違うよ」とのことでした。))

コンセプトワークと楽曲のアプローチが噛み合い、それでいて構築された世界観への没入感を持ちながらクラブミュージックとしての機能性も兼ね備えているという、とても素敵な作品なので、是非手に取ってみてはいかがだろうか。

[作品情報]
アルバム名:ARIAKE
https://cjvk0054.tumblr.com/
サークル名:梶迫小道具店
https://cajiva.net/

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