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空區地車の力学14.宮入

ではいよいよ祭りの本番「宮入」の所作です。
本来は夜の宮入が提灯も灯り美しいのですが、解説するには見えにくいので昼間の宮入写真を使います。

(1)宮入
5月4日は宵宮といい、「明日5日(本宮)に神様が降臨し町内の家内安全を祈祷してくれます。明日は本住吉神社にお集まりください」という御触れを町内を練り歩いきます(町曳きともいう)。宵宮では地車が神社を出ることを「蔵出」といい、入ることを「蔵入」といいます。
そして5月5日本宮では、正午に宮出(みやだし)で降臨いただいたご心霊を、5日夜の宮入で再び昇天していただきます。ご心霊に感謝を込めて行なう、だんじり祭りのエンディングであり、神事最大の山場です。
5月4日の町曳きは、5日の本宮開催を氏子に知らせるものなので弾けたパフォーマンスも許されますが(むしろパフォーマンス大歓迎、とはいえ節度を持って行わないと世話役にどやしつけられます)、5日の宮出・宮入は神事なので礼節をもって行なわなければなりません。優雅に荘厳に。宮入時に地車に座っている四役の中には、昇天していくご心霊を「見た!」という者もいます。

夜の宮入は美しく勇壮

(2)宮入の作法
❶「二の鳥居」前に立ちはだかる国道2号線
本住吉神社の境内に入るには交通量の多い国道2号線を渡らなければなりません。5日の宮入では境内で練りがあるので、国道2号線の手前で待ちが発生します。ただひたすら待つのみ。
そうして、ひとつ前の地車の練りが終わったら、全員準備に入ります。
曳き手から鳴り物の若中に「ソーラ、ソーラや」と掛け声や怒声がかかります。
ソーラとは「これからだんじりを始める」という意味があり、体勢を立て直し一斉に曳き出す時の合図。曳き手が疲れて息が合わなくなった時、地車が道のくぼみに落ちたりして動かなくなった時、坂道で登りにくくなった時、休憩後再び動き出す時の合図です。ソーラが鳴り出すと否応なく曳き手には力がみなぎります。(鳴り物については後述)

国道2号線を渡る前の待ちタイム

指揮者のGoがでたら一気に2号線を渡る
指揮者からGoのサインが出たら、鳴り物も「とばせ」に変調し、一気に国道2号線を渡ります。しかし、二の鳥居は狭いので渡り切ったと同時に地車の勢いを殺しながら進みます。地車のサイドの曳き手は、地車と鳥居の間に挟まれないよう、地車後方に逃げます。

二の鳥居で指揮者の合図が出たら(左写真、提灯を振る)
地車は2号線を渡り、二の鳥居をくぐり
一の鳥居の手前まで「とばせ」で進む

❸「ニの鳥居」から「一の鳥居」
本住吉神社に向かって国道2号線を越えるとすぐに「二の鳥居」があります。この「二の鳥居」から本殿前の「一の鳥居」までの石畳の間は「とばせ、もどせ」が許されています。3回「とばせ、もどせ」を行なっています(3往復)。
「とばせ、もどせ」は曳き手のテンションが最も上がるので、周りが見えにくくなっています。石畳で加速しやすい上に、足元が滑りやすくなっています。また石畳の幅が狭いので脱輪しないよう、地車前後の両サイドの曳き手は張ったり引いたりして、方向の微修正を繰り返さなければなりません。
さらに難儀なのは石畳に沿って屋台が出ていることです。屋台の職人も慣れていて、地車が通りやすいよう屋根を跳ね上げてくれますが、ぶつからないよう細心の注意を払います。

「一の鳥居」から「本殿前」へ
3回の「とばせ、もどせ」が済んだら一気に本殿前に駆け込みます。
なお「一の鳥居」下には段差があり地車がバウンドするので、前の曳き手は棒鼻で顎を打たないように注意しましょう。
「一の鳥居」をくぐると、石畳から土になるので抵抗が急にかかります。勢いを保ったまま一気に本殿前に駆け込み、指揮者の指示する停止位置まで地車を止めることなく、進みきらねばなりません。

本殿前の地車の停止位置には、地車を回してもコマが沈まないよう鉄板が敷かれています。この鉄板上に右後輪が乗ると上手く回れます。しかし外すと回ると共にコマが沈み、やがて土呂台がつかえてにっちもさっちもいかなくなってしまいます。指揮者は鉄板の位置を熟知しているので、曳き手は躊躇せず指揮者の示す停止位置まで一気に駆け込まねばなりません。

指揮者の停止がかかるまでひたすら進む

(3)本殿前での作法
❶三礼
1)三礼の意味

地車の前を3回持ち上げる所作です。
三礼とは、三度礼拝すること。身・口 (く) ・意の三業 (さんごう) に敬意を表して行なう拝礼です。
身とは、身体の上に現れる総ての動作・所作のこと。口は、言葉がもとで、善悪の結果を招く行為。意は、思慮・分別する心の働きのことです。地車の三礼は、煩悩を滅し、善悪を乗り越えることで、一切の業を作らないことを表した所作です。

2)手順
一気に本殿前まで進んで指揮者の指示する位置に停止したら、左右の後輪にテコを入れます。テコが入ったら、後ろの曳き手は地車に乗り”重り”となって、地車の前を上げやすいようにします。
後ろが準備できたら、前の曳き手は肩を入れて、地車前を持ち上げます。三回上げ下げしますが、下げた時は肩で受け止め、けっして前輪を地面につけないようにします。
だんじり前に座っている四役は席に座ったまま、地車の三礼に合わせて提灯やウチワで三礼します。

❷まわす
三礼が済んだら、前の曳き手は肩を入れたまま、地車を右回転(時計回り)させます。 地車を回す時はいかなる場合も右回転と決まっています。

先にも述べたように5日夜の宮入はご心霊の昇天の儀式です。
地車を右回転させて昇天を促します。心臓の鼓動の早さで(早すぎもせず、遅すぎもせず)きれいに回し続けることで、ご心霊はその回転と鳴り物に合わせてゆっくりと氏子の回りを旋回しながら昇天するといわれています。

四役は座って提灯を振り、ご心霊を静かに見送ります。四役が立ち上がったり、踊ったりするのは神様に無礼です。その分、屋根方は手に持つハタキを振り上げ踊りまくります。休まずひたすら踊り続けます。
宮入時の掛け声には「ありがとうございました。今年一年また安全に暮らせます。来年またお会いしましょう」という意味合いがあります。ですから掛け声を合わせることこそが最も感謝を表した作法と言えます。
何度回すかの取り決めはありませんが、4回以上回します。神事では「4」は不吉な数字とされます。これは「四」と「死」の音が似ているからです。
ただし時間は決められていますので、時間内はひたすら、ゆっくりと回し続けます。

前も後ろも協力して地車はまわる
前を一度も落とさず、止まることなく一定スピードでまわすのが一番良いとされる

回転でコマが埋まり勢いが止まることがあります。その時は、前の曳き手は地車を一旦上まで持ち上げて肩を入れ直し、再度回転します。

下写真のように、肩に棒鼻が収まる位置が最もラクにまわせます。したがって前のテコ棒に入る曳き手の身長で、背の高い順に前から奥へと並ぶ方が安定します。下写真では3名の背の高さが、棒鼻やかき棒の位置にピタリと合っています。

どんなに重くても前輪を地面につけてはなりません。優雅に荘厳に。決められた時間内は前を上げたまま、まわし続けます。

前の曳き手は肩を入れてまわす

地面の関係で回転軸が右後コマから左後ろコマに変わることもあります。左後ろコマに変わった時点で旋回が大回りになってしまいます。もしかすると行燈にぶつかるかもしれません。十分注意しましょう。

後ろの両サイドの曳き手は綱を持って地車を回転させる
回転支点は右後コマ

時間が来たら、指揮者は「止まれ」を指示しますので、曳き手は地車の回転を止めます。ただし前はまだ上げたままです。というのは「止まれ」の位置は地車小屋にバックで入れる位置なのですが、勢い余って行き過ぎる場合もあるからです。その場合はもう一回転しなければなりません。いかなる場合も宮入で左回りすることはご法度、右回りしかできないのです。

宮入から地車小屋への入れ方は次章で解説します。

最近の宮入ではクレーンカメラで記録撮影されている

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