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空區地車の力学22.見えないけど、すごいヤツラ「鳴り物方」

だんじり祭りにおける地車の役割は楽団です。
5月4日の町曳き(宵宮)では、鳴り物を鳴らして町内を練り歩き「明日は本宮ですよ」と知らせて回ります。翌5日の本宮では、神様の乗る御輿の後ろにつき、鳴り物で神様の降臨と昇天を促します。鳴り物(なりもん)は祭りを盛り上げる楽団なので、マストの必須アイテム・不可欠のものです。
ちなみに鳴り物は祭りの最中でなくても、いつ聞いても若中を興奮させます。まさに鳴り物は若中にとって「猫にマタタビ、泣く子に乳房」なのです。

Q1.鳴り物(なりもん)とは?
A.
鳴り物の種類や数は、各府県・各地区で異なります。、空區では「大太鼓」「小太鼓」、すき焼き鍋を縦にしたような「二丁鐘(にちょうがね)」、除夜の鐘の小型版の「半鐘(はんしょう)」の4つです。
大太鼓が全体をリードして、基本のリズムは半鐘がとり、二丁鐘が合いの手を入れます。大太鼓はリード役で、“バチ“も大きいことから体力も必要になります。音色の強弱が肝心なので、いわば花形。すべての中心です。

この年は大太鼓が男性、半鐘と二丁鐘は女性の鳴り物方が叩いている

Q2.誰が鳴り物を叩くのか?
A.
鳴り物の担当者を「鳴り物方」といいます。
ただし、空區では「今年のなりもんは誰や?」「なりもんを叩け!ソーラや!」というように鳴り物を叩く人に対しても、鳴り物そのものに対しても「なりもん」と呼びます。
「鳴り物方」は4人一組で、4~6班編成になっています。祭り期間中は5月とはいえ暑い地車の中で一日中叩くので鳴り物方も交替制をひいています。常にフレッシュな鳴り物方と交替することで、音に疲れが出ず、曳き手の疲れを力に変えるのです。
宮入など重要な場所になるほどベテランが担当し、新人ほど道中での担当になります。こうして腕を上げていき、宮入で叩けるようになります。
この編成、およびどこで叩くかを決めるのが「鳴り物頭」です。年が明けると鳴り物の練習が本格的に始まりますが、鳴り物頭が身をもって教えます。その間に技量を推し量り、編成を決めます。(鳴り物の美学については後述)

「宮入」では鳴り物方の伴奏が沸点に達する

現在は中学生~大学生が中心になり鳴り物方をしています。男性だけでなく女性もなれるのですが「華奢な体でよく長時間叩き続けられるものだ」といつも感心します。若中というよりもブラスバンド部の様相を呈しており、地車のパートの中でも最も結束力が強く、礼儀正しい部署です。
本当に好きでないとできない部署であり、練習を続けなければならない部署なので、若中からも一目置かれています。

Q3.鳴り物は地車のどこで叩いているのか?
A.
地車の中は2階建てになっており「大太鼓」「二丁鐘(にちょうがね)」、「半鐘(はんしょう)」は1階で、「小太鼓」は2階で叩いています。
本来は4つが同じ階で叩くのが理想なのでしょうが、地車にはそのスペースがありません。大太鼓がすべての中心で、二丁鐘、半鐘が合いの手を入れるので、大太鼓、二丁鐘、半鐘は1階に配置しています。小太鼓は大太鼓の補助的役割であり、サッカーで言えば”J3”あたり。まだまだ訓練が必要なので2階で叩きます。
また地車の周りには幕が張られているので、叩き手は1階後方から入り、小太鼓担当は1階の天井に空いた穴から2階に上がります。

大太鼓、二丁鐘、半鐘を1階に、小太鼓は2階に

Q4.どんな曲を演奏するのか?
A.
下記のような曲がシーンに応じて、変調しながら地車の巡行中は鳴り続けます。
①ソーラ・・・「これからだんじりを始める」という意味があり、体勢を立て直し一斉に曳き出す時の合図。曳き手が疲れて息が合わなくなった時、地車が道のくぼみに落ちたりして動かなくなった時、坂道で登りにくくなった時に一息入れて気分をそろえる時、休憩後再び動き出す時の合図です。
②曲がり・・・街角を曲がる時の合図。曲がりきれば「道中」のお囃子に戻ります。
③道中・・・・道中で鳴らし続ける曲。
④とばせ・・・前へ走る時の合図。
⑤もどせ・・・後ろ戻り(バック)をする時の合図。
⑥宮入り
⑦おさめ・・・囃子をやめる時の合図。

Q5.地車に鳴り物は必要か?
A.
運動をすると汗をかき心拍数が上がり、脳が疲れを認識しSOSのサインを出します。これを体が感じとると疲労感を感じます。しかし、音楽を聴くとドーパミンなどの快楽物質が放出され、楽しさを感じ運動能力を上げます。音楽アリと音楽ナシでランニングをすると、音楽アリの方が疲れを感じるまでの時間が約20%も長くなるといわれています。つまり音楽には疲労感や辛さをかき消す働きがあるのです。
また人間にはリズムに合わせて体を動かず習性があるので、運動のペースを一定に保てる効果があります。走っている人が音楽を聴いているのは、音楽が脳からのSOSをかき消してくれるからです。一般的には1分間に120拍前後の曲が最も心地よく感じウォーキングには適しています。一方、テンポが速く音が大きい曲は心拍数や呼吸数を上昇させます。またテンポが一定・コーラスが含まれている曲はより体を動かしやすくなり、ゆったりとした穏やかな曲は心拍数や血圧が上がらないので、精神を落ち着かせ冷静な判断がしやすくなる効果があります。走りや歩きのテンポは音楽に影響されます。さらに前向きで明るい曲調は気持ちを向上させます。人は太古より音楽と人の精神について感覚的にわかっていたようです。

空區の鳴り物には、曳き手に高揚感を与え、疲労回復、持続をもたらす重要な役割があります。ただし、ロックのドラムとは違います。あくまでも人が曳きやすいリズム、呼吸のリズムで叩かなければなりません。

鳴り物によりバチは異なる
(左から)小太鼓、大太鼓、二丁鐘、半鐘のバチ

Q6.名人と言われる人はいるのか?
A.
かっては、大太鼓の名人や二丁鐘・半鐘の名人と呼ばれる滅法うまい人がいました。その人たちが、連綿と教え伝えていくのが鳴り物です。
今では曲をCD化し、それを聞きながら個人練習をしていますが、基本的には先輩から後輩へ伝えていくものです。現在空區では、男女を問わず中学年から大学生が中心となって鳴り物を叩いています。

余談ですが、空區地車のマイスターである「タカシさん」のお父さんは大太鼓の名人で、他地区からも教えを乞われるほどの方だったとか。そんな名手が出ることを期待します。いずれ「名人芸」の域に達する鳴り物方も輩出することでしょう。

空區では女性の鳴り物方も多い

Q7.鳴り物を叩く時のコツは?
A.
鳴り物は打楽器です。同じ強さで叩くより、段々強さを増しながら叩くことで地鳴りのように響いた音色になります。強弱をつけることで、聞こえないような小さな音でも人の潜在意識下では聞こえており、そうして研ぎ澄まされると大きな音はより大きく聞こえます。音に奥行き感が出るのです。
リズムは地車の曳き手の状況を考えて臨機応変に変化をつけます。基本形は人の鼓動の速さですが地車のスピードを速めたければ駆け足ぐらいの鼓動のリズムにします。また、曳き手に休憩を与えたければゆっくり歩くぐらいの鼓動のリズムで叩きます。
さらに間も大切です。メリハリのある間のとり方で曳き手の疲れは回復します。
リズム、間、強弱で曳き手をコントロールします。(鳴り物の美学は後述)

Q8.鳴り物を叩く位置は?
A.
実際に太鼓や鐘を叩いてみると分かるのですが、太鼓も鐘も叩く位置により音色が異なります。叩いたらよく響く位置、こもってしまう位置があります。
また同じ大太鼓でも練習用と本番用では異なりますし、彫り物を施した太鼓と、そうでない太鼓では響きが違います。また和太鼓には牛皮が使われているのですが、その皮の張り具合でも響きが異なります。
音が最も響く位置を目をつぶっていても叩けるよう練習を繰り返すしかありません。

大太鼓
小太鼓(2階の飾り幕に囲われている位置
奥に大太鼓、右に半鐘、左に二丁鐘

Q9.鳴り物の練習はいつから始まるのか?
A.
祭りが終われば次年度の練習が始まります。さらに年が明ければ本格化します。鳴り物の練習日は、空地区会館前の掲示板に貼り出されるので確認してください。

2022年度の予定表、祭り間際にまで猛練習

#神戸市東灘区 #空區地車 #空區