見出し画像

空區地車の力学62.声を出せ!

地車にはハンドルがありません。にもかかわらず方向修正や方向転換ができるのは地車四隅につく4人の四隅責任者の指示があるからです。
四隅責任者が右にと言えば、曳き手全員が右に行くための力を地車にかける。四隅責任者に対する絶対的な信頼があるからこそ曳き手は一丸となって指示に従い、重さ4トンのハンドルの無い地車が縦横無尽に動くのです。

地車前側の2人の四隅責任者、乞う方にも2人いる

四隅責任者は地車最前方に位置する指揮者の指示で、身振り手振りに加えて大声で指示を出します。
しかし、鳴り物の鳴り響く地車横で指示を出すには自信に満ち溢れた相当大きな声でなくては曳き手に聞こえません。
私も初めて四隅責任者になった時、ベテラン年寄りに「お前の指示の声は聞こえへん!」と怒鳴られ、続いて「地車を曳いてる場合か!?俺の見える所から指示をだせ!」と屋根に上る年寄りからも怒鳴られたものです。
挙句に「地車が止まるぞ。四隅が指示ださんかぇ!」と普段は無言のテコ棒を持つ浴衣姿の年寄りからも叱責の嵐。
方々からの怒声の指示で、何が何だか「・・・」返事すら声にならない。
動揺するとますます手順がわからなくなってくる。
結局その年はにっちもさっちも行かない状態で、冷や汗三昧。
「もうやめたい・・・」と心の中で叫んだものです。
翌年ひと通り地車の力学を覚えて小さいながら声が出るようになり、それから声が通るようになるまでさらに2〜3年かかりました。そもそも地声の大きさには定評がある私ですらこんな有様でした。
 
時は平成、令和になり怒声の指示は少なくなったと思います。
パワハラなる用語が巷を闊歩するようになってからというもの、自信に満ち溢れ相手を思う気持ちの愛ある怒声はオワコンとなったように思います。
良かったのか悪かったのか・・・私は悪かった方に3千点!
残念なことに命を守るルールやコツの口伝は鳴りを潜め、曳き手の声出しも小さくなったように思います。昭和の現場を生きてきた私ですら遠慮の塊です。
 
しかし、四隅責任者に限らず、曳き手も屋根も子供会も声出しは重要です。
声出しすることで、一体感をつくるし、エンジンが人力である地車にとって一体感はガソリンです。心をしっかり合わせて、声を出すことで一体感は生まれるのです。
また、声を出すことで身体に酸素が多く取入れられ、筋力をほぐす効果もあります。
さらに声出しは景気付けにもなるし、何よりも威勢が上ります。
しかし、流れがわからないことには声も出せない。だから数多く地車を曳き、地車の力学を経験から学ぶことが大切になります。
地車の力学を覚えて初めて、声をタイミングよく出せるようになるのです。
時たま愛のこもった怒声を聞くと「早く力学を理解しなければ」と拍車もかかるのではないでしょうか(この考えは昭和ですかね?)。

目立つのもよいが、、、くれぐれも声出しができるようになってから。