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空區地車の力学19.地車の花形「屋根方」

体も小さく、綱に引きずり回されていた子供会(小学生)の子が中学生になると、とりわけ地車の好きな子は鳴り物を始めます。やがて高校生になると、そのまま鳴り物を続けるか、屋根方になるか運命の分かれ道がやってきます。

屋根方
屋根方とは地車の屋根に上り、地車に迫る木々や電線を手に持つ「ハタキ」で払いのけ、山形や提灯などの装飾を守るのが役割です。
例えば、高架で屋根がぶつかるなら山形や提灯を外します。
横から枝が迫ればハタキで払うか、太い幹なら提灯を外して避けます。木々や電線の下をくぐる時には、ハタキで前から順に屋根方を介してバトンを渡すように地車屋根の後方へ逃がします。もし電線の被膜が劣化していたら手で直接触れると感電の恐れもあります。ハタキでかわせば感電も防げるのです。

迫りくる木々や高架下は屋根方の見せ場

夜になると提灯には灯がともります。ロウソクの準備や補充も屋根方の大切な役割です。特に最大の山場である宮入時にロウソクの火が消えては、神様も昇天することはできない、シャレにならない事態になります。屋根方は、宮入の間に提灯の灯が消えることのないよう計算して、事前に補充しなければなりません。
とはいえ屋根方は誰でもなれます。ただし、高さ4mの地車の屋根での作業や所作になるので、そもそも高い所が苦手な人には無理です。また屋根に上るためのハシゴは付いていないので身軽な人でないとシンドイかなぁ。

屋根方は誰でもなれるが自分で上り下りできることが必須

屋根方の墜落防止用のロープは付いていますが、始終つけていては身動きできないので木々や電線を避ける作業時は無防備です。見ているだけでヒヤヒヤしますが、古今東西、危険と隣り合わせの状態は、若者を奮い立たせるから厄介です。

命綱を付けて屋根からせり出して踊ると観客も曳き手も盛り上がる

屋根頭
屋根方には「屋根頭」と呼ばれるリーダーが1名任命されます。屋根方の安全を守り、屋根方に適切な指示を出すのが役割です。屋根頭は地車の最も高く、最も先端に陣取ります。つまり、男屋根の鬼板の真上にある山形が定位置です(下写真の丸囲い赤破線が定位置)。

屋根頭は地車の一番前方の高みに陣取る

屋根頭は、「地車の高さ約4m+自分の身長の高さ」から俯瞰で見渡せるので、前から迫る木々や電線、高架などの障害物をいち早くキャッチし、屋根方に対応策を指示します。また、指揮者から出る指示や、地車の進行状況を四隅責任者に伝えるのも屋根頭の大切な仕事です。
屋根方は「ハタキ」を持ちますが、屋根頭は「ウチワ」を持っています。指揮者からの指示に了解した屋根頭は「ウチワ」を振って指揮者に了解と返します。また、屋根頭からの指示を受けた屋根方は「ハタキ」で了解の合図を屋根頭に送ります。こうして屋根頭を中心にして、常にコミュニケーションを取ります。
「屋根頭」は地車の運行責任者である「指揮者」を支える№2の運行責任者です。役割も多く、責任も重大なので、経験だけでなく屋根方を取りまとめられる人望、さらには指揮者や四隅責任者とのコミュニケーション能力も必要になります。それらを鑑み、地車四役の長である「責任者」から直々に任命される名誉ある役割なのです。

屋根方はみんな目立ちたがり屋さん
観客の目は最も目立つ屋根方にいきがちです。したがって目立ちたがり屋さんほど、屋根方にいきたがります。そして「地車の安全を守る」という本来の役割が疎かになり、ハタキを振りながらの踊りに夢中になる傾向にあります。もちろん踊ることも大切な役割です。屋根方が華麗に舞えば舞うほど盛り上がりますし、踊りの良し悪しがその地区の地車のカラーを決めるといっても過言ではありません。(屋根方の躍りの美学については後述)
しかし、屋根方の最も大切な役割は、地車の安全を守ることです。道中では、屋根方は屋根頭の指示を見逃すことがないように意識を安全に向けておかねばなりません。その代わりといっては何なんですが、踊りは宮入で爆発させてください。夜空に華麗に舞い、神様の昇天を促してください。

屋根方は祭りの花形!

曳き手は口には出しませんが、何かにつけ屋根方が目立っていられるのは、下で地車を曳く俺たちがいるからだと思っています。少なくとも私は確信しています(笑)。
映画・仁義なき戦いでのワンシーンに「御輿が勝手に歩けるいうんなら歩いてみいや、のおぅ」と、聞き分けの悪い親分を子分が恫喝する名台詞がありますが、同様に地車の曳き手は「俺たちがいるから地車は動く、屋根方だけで動かせるいうんなら動かしてみいや、のおぅ」と心の中では思っているハズ(笑)です。

己の身の安全を第一に
子供会の世話役を20年もしていると、子供会から高校生で屋根方になりハタキを振って華麗に舞う姿を見るのはとても誇らしいものです。なんて立派な若中に育ったんだ!と成長を嬉しく思います。そして、どうか屋根から落ちないようにと願っています。自分の息子ではないのだけれど、心配と嬉しさとが入り交じった気持ちで、曳き手はいつも屋根方を見守っているのです。

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