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空區地車の力学

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意外と知られていない神戸のだんじり祭り。それは神戸の街の特長である「坂道」との闘いでもあった。強力伝の中に勇ましさもあり、曳く者に試練と共感を与え、見る者には「参加したい」という…
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#子供会

空區地車の力学 1.はじまり、はじまり

私は神戸市東灘区で祀られる本住吉神社のだんじり祭り(例大祭)で、空區の地車を曳いています。祭りは1年に2日間しかないにも関わらず、体の中では一年中地車を曳いている”だんじりバカ”の一人です。 しかし、だんじりバカを自称しているものの、1年に2日間しか曳けないので、毎年思い出しながら曳いています。そこで自分のために地車の力学について残したいとこのブログを立ち上げました。 地車といっても、大阪湾を取り囲むように淡路島、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府と約1千台あるといわれ

空區地車の力学その73.人を取り戻すから神に出逢える!?

私が子供会の綱担当になって久しい。 それ以前は空區子供会の父、一二三(ひふみ)さんが担当していた。かく言う私は一二三さんに憧れて、曳き手から子供会の綱に移籍した。 一二三さんは私の師匠だ。 綱の中では一二三さんを先頭に、私が後方を担当した。その後しばらくは一二三さんの背中を見ながら動きを観察する日々が続いた。第2列の私にとって大きな責任もなく珠玉の時でもあった。 地車に触れることのない、このポジションに行きたがる人は、私の知る限り、少なくとも私が地車を始めてからは一二三さんと

空區地車の力学その72.ジモピーだからこそ出来る"裏方"

私が子供会の綱担当になって久しいが、私一人で子供会の面倒を見ているわけではない。私はただ地車の運行時に子供たちに指示を出しているだけで、途中休憩時に綱をしまったり、子供会にお茶を出したりしている“裏方”がいるから成り立っている。 今回は若中の中で“裏方”に徹する10代後半の若者たちの話をしよう。 10代後半から若中に初参加の青年は、たいてい空區に在籍する同級生から誘いを受けての参加だ。その多くは「誘ってほしい」と口を開けてその時を待っている。 そして、たいていは目立ちたがり

空區地車の力学54.令和5年の祭りがスタート!

4月2日若中会が行なわれました。 若中会とは5月4~5日におこなわれる本住吉神社例大祭の約1か月前に行なわれる祭り参加者(=若中)の最初の会合。 若中会では、例大祭での四役(空區の4名の巡行責任者)の紹介や挨拶に加え、例大祭に向けてのスケジュールや注意事項の確認が行なわれ、最後にビールを吞んでイキを上げる、いわば祭りに向けての決起集会です。 30名程が集まったが、ほとんどが20~30代で、60歳以上の若中(年寄りとも呼ばれる)は数名。もはや年寄りに分類される私としては呑み仲

空區地車の力学50.裏方さん②食料運搬役 ~世の中は籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草履を作る人~

前号で紹介した「まかないさん」が作ってくれた食べ物や飲み物、さらに子供会のためのアイスクリームやジュースなどを運んでくれるのがトランスポーター=食料運搬役だ。 運搬役は、軽トラックで休憩場所に運ばなければならないので、基本的には運転免許証を持つ男性が担当する。少なくとも私が子供会の担当をしてからは、毎年決まって大野さんが担当してくれている。私よりも年配の方だ。 運搬役は、空地区会館で軽トラックに荷物を積込み、時間までに休憩場所まで運び、皆んなに配布して、ゴミを回収して会館ま

空區地車の力学49.裏方さん①まかないさん ~To drink of the same cup.~

どのような行事においても裏方さんがいる。そしてどの行事においても裏方さんはボランティアで成り立っている。だんじり祭りも同様に多くの裏方さんの力を借りて成り立っている。 私も子供会担当なので、ある意味裏方になるが、しかし私には綱を曳く子供達やその親御さんから毎回「ありがとうございました」やら「お世話になりました」やらの労いの言葉があり、ややもすると「子供会から引退して地車を曳きたい」という欲望に打ち勝ち、「来年も子供会やるか!」となる。 従って私は、裏方として相当恵まれている

空區地車の力学48.地車の名家は子沢山(こだくさん)

本住吉神社は9つの地区からなっており、その内8つの地区が地車を保有している。 西、茶屋、吉田、空、山田、住之江、呉田、反高林の8つだ。ちなみに観音林は地区として小さいので、地車はなく神輿で参加している。 各地車は子供会や父兄も含めると50~100人ほどの曳き手と30人ほどの裏方で成り立っている。何だかだ本住吉神社例大祭には1000人ほどが直接的に関わっていることになる。加えて多くの地元民が寄付など有形無形で支えてくれている。 本住吉神社の氏子、もしくはそのご子息、ご令嬢は

空區地車の力学17.子供会の綱さばき➀

ここから2回に分けて子供会の綱さばきについて解説します。 そもそも曳き手は、地車を触っているだけで満足する種族で、子供会の綱を持とうとはしません。ましてや綱の中に入って子供たちを誘導しようなど考えもしません。 恥ずかしながら私もそうでした。ただ、2人の娘が子供会に入ったことと、先代・子供会の綱担当「一二三さん(ひふみさん)」への感化と感謝もあり、自称・子供会の綱2代目として現在も続けているのです。 下記は昭和53年の写真ですが、この頃は地車の曳き手が不足して地車を出せないと

空區地車の力学18.子供会の綱さばき②

ひきつづき、子供会のポテンシャル、なめんなよ!「綱さばき②」です。 ❻上り坂で赤信号になったら 上り坂で地車を止めると再始動に大きな力が必要になります。 そこで指揮者や前責(前の責任者)の停止位置から重なり合うように綱を手繰り寄せ、地車をジワジワと上らせていきます。次の青信号で責任者の「進め」の合図があるまで、極力地車を止めずに上らせます(下図➀)。止めたらしんどいぞ~。 もし信号のタイミングが悪く、どうしても坂の途中で停止する場合は、安全のため後テコを素早く入れます(下図

空區地車の力学20.難所&見せ場コースガイド①

5月4日の町曳きの巡行コースは、四役が密談(?)して4月の若中会で発表します。毎年微妙に異なりますが、地車が通れる道を選ぶので素人目には「毎年同じジャン」かもしれません。とりわけ難所&見せ場と思われる箇所について、今回と次回の2回に分けてその攻略方法と注意点を解説しましょう。 ①宮出(蔵出) 本住吉神社の境内を出るまで(宮出・蔵出)、いくつかの見せ場があります。地車小屋を出て宮出するまでは、観客もおり若中も曳き始めなので、テンションは比較的高くなっています。 まず地車小屋を

空區地車の力学21.難所&見せ場コースガイド②

引き続き、難所&見せ場です。 ⑥有馬道を上る 有馬道は南北の上り坂です。有馬道は神戸電鉄(旧:神戸有馬電気鉄道)でいけるようになるまでは、有馬温泉客の主要ルートでJR住吉駅付近は相当栄えたとか。 道幅も広いので、肩を入れての旋回後は(下図⑪)、前輪を上げたまま後輪だけで進みます。曳き手と子供会の綱が一体となれば「ちどり」で上ります。 さらに上手くイキがあえば、500m先の空地区会館まで前上げのまま進めます(下図⑫)。鳴り物は「飛ばせ!」でかなりのパワーがいりますが、達成感