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空區地車の力学

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意外と知られていない神戸のだんじり祭り。それは神戸の街の特長である「坂道」との闘いでもあった。強力伝の中に勇ましさもあり、曳く者に試練と共感を与え、見る者には「参加したい」という…
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#だんじり祭り

空區地車の力学 1.はじまり、はじまり

私は神戸市東灘区で祀られる本住吉神社のだんじり祭り(例大祭)で、空區の地車を曳いています。祭りは1年に2日間しかないにも関わらず、体の中では一年中地車を曳いている”だんじりバカ”の一人です。 しかし、だんじりバカを自称しているものの、1年に2日間しか曳けないので、毎年思い出しながら曳いています。そこで自分のために地車の力学について残したいとこのブログを立ち上げました。 地車といっても、大阪湾を取り囲むように淡路島、神戸市、芦屋市、西宮市、尼崎市、大阪府と約1千台あるといわれ

空區地車の力学その76.神は細部に宿る

かって若中頭が祭り前の挨拶で何気なく発した 「今日は思い切り暴れましょう」と発した挨拶に 「アイツは何もわかってない」と 怒った大先輩の年寄り(若中の重鎮)がいました。 何故怒ったのでしょうか? 「神は細部に宿る」と言う言葉があります。 私がまだ駆け出しの頃、先輩に言われた言葉です。 「モノづくりにおいて細部まで気を配り、力を注いでこそ モノは目指した形になる。一つひとつ丁寧に積み上げろ、 神は細部まで見ているぞ!」という私に対する戒めの一言だったのです。 神が悪魔になっ

空區地車の力学その65.伝統と現実の狭間で

地車は「だんじり囃子」に合わせて動かします。 リズムは、歩いている時はゆったりゆっくりと、坂道を上ったり走ったり地車を回したりする時は早く激しくと変化します。 鳴物については、空區の場合は大太鼓・小太鼓・半鐘・二丁鐘の4つですが、同じ住吉地区でも地車の大きさで小太鼓がない地區もあります。 日本全国でみても地域によって異なり、中には基本の大太鼓・小太鼓・鐘に加えて、笛や三味線などが含まれる地域もあります。しかし、笛や三味線は鐘の大音響に負けるため、徐々に用いなくなった地域もある

空區地車の力学52.腹帯(さらし)は祭りの必需品

腹帯(さらし)は祭りの必需品です。 最近では、面倒くさいのか「腹巻」で済ます若中もいますが、腹帯でお腹と腰・背中をしっかり支えることで、負担を軽減してくれます。 腰痛防止、下半身への負担軽減など重い地車を担ぐ上で大きな役割を果たします。 木綿素材なので素肌に優しく、通気性、保湿にも優れています。 大汗をかく地車の若中にはとても快適で、なくてはならないものです。 腹帯のルーツには諸説ありますが、私は神功皇后説を立場上、支持しています。というのも、私の曳く空區地車は本住吉神社の

空區地車の力学51.毎日が同窓会

神戸の街は北に六甲山系、南は神戸港に挟まれた南北約5kmの東西に細長い坂の街だ。 この長細い街に海側から数えれば、国道43号線、阪神電鉄、JR神戸線、国道2号線、山手幹線、阪急電鉄と、わずか5Kmの街に3つの幹線と3油の鉄道が走り、東西の移動は他都市にないほど便利だ。 一方で南北の移動はバス路線も少なく徒歩しかない。 ダラダラと登りになり、JR神戸線を過ぎると一気に登りになる。JRを過ぎると高い建物が少ないので六甲山系の緑深い稜線が目の前に迫る。稜線は東西にどこまでも続いてい

空區地車の力学50.裏方さん②食料運搬役 ~世の中は籠に乗る人、担ぐ人、そのまた草履を作る人~

前号で紹介した「まかないさん」が作ってくれた食べ物や飲み物、さらに子供会のためのアイスクリームやジュースなどを運んでくれるのがトランスポーター=食料運搬役だ。 運搬役は、軽トラックで休憩場所に運ばなければならないので、基本的には運転免許証を持つ男性が担当する。少なくとも私が子供会の担当をしてからは、毎年決まって大野さんが担当してくれている。私よりも年配の方だ。 運搬役は、空地区会館で軽トラックに荷物を積込み、時間までに休憩場所まで運び、皆んなに配布して、ゴミを回収して会館ま

空區地車の力学 10.空區の地車について➀

曳き方の基本編が済んだところで、空區の地車について簡単にお話ししましょう。 地車と書いて「だんじり」もしくは「じぐるま」と読む 「だんじり」は、日本の祭礼に奉納される山車(だし)に用いられる西日本特有の呼称で、「地車」の他に「楽車」「壇尻」「台尻」「段尻」とも表記されます。 東灘の郷村の中心に神社があった 住吉には本住吉神社があり、その氏子が地車を所有していました。 本住吉神社の境内の車庫には、住吉の地車「山田」「呉田」「住之江」「空」「西」「吉田」「茶屋」の7台の地車が

空區地車の力学43.1か月を切ったぜ「東灘区政70周年記念巡行」

いよいよ1か月を切った東灘区政70周年記念巡行。 詳細は未定だが、地車の飾りつけは10月2日(日)になりそうだ。 コロナ禍で3年ぶりの開催とまった例大祭(5月4~5日)に続き 10月9日(日)には70周年記念巡行が行なわれる予定である。 8月にかけてコロナ第7波が最高点に達し 連日20万人強もの方がコロナに感染した。 インフルエンザと同様、夏場は流行しないといわれていたが 夏場の第7波となってしまった。 それでも、9月に入ると感染の勢いは収まりをみせつつあり 決まっているのは

空區地車の力学 2.地車にはブレーキがない

地車にはエンジンもハンドルもブレーキもありません。 すべて人力。始動も停止も増減速も人の力で行ないます。 唯一、自動車についている駐車ブレーキ(パーキングブレーキ)に当たるのが「テコ棒」で、4つのコマにそれぞれ1本づつ、計4つ付いています。 ❶テコ棒は駐車ブレーキ 「テコ棒」は駐車ブレーキですから、地車を止め置くときに使います。目に見えなくても地球は丸いので、駐車ブレーキをかけずに地車から離れるとひとりでに動くこともあります。いったん動き出した地車を止めることは一人や二人の

空區地車の力学 3.地車にはハンドルがない

その2ではブレーキがないことを書きましたが、その3ではハンドルがないことを書きます。 地車の各部名称 その前に地車の各部を確認しましょう。 上図のように神戸型の地車は「土呂台(どろだい)」という土台に4つのコマがついています。土呂台の外側にコマが付く「外ゴマ」は神戸型独特のものです。一方、大阪型といわれる地車は土台の内側にコマが付く「内ゴマ」となっています。 また、空區地車は「かき棒」の下に「棒鼻(ぼうばな)」が付きます。通常は「棒鼻」の上に「かき棒」がくるのですが、逆に

空區地車の力学 4.角を曲がるには2つの方法がある

ハンドルがない地車が角を曲がるには、「肩を入れる」と「張る(はる)」の2つの方法があります。 ❶肩を入れる 「肩を入れる」とは、前の曳き手が地車の前輪を持ち上げて、ウイリー状態で地車を旋回させる方法です。 四隅責任者から「肩」と指示されれば、地車の前の棒鼻に入っている曳き手はしっかりと肩を入れて地車を持ち上げます。 この時、後ろの曳き手は、地車後ろの棒鼻に乗り、体重をかけて地車の前が上げやすようにフォローします。いわばシーソの要領です(下左図)。 前輪が持ち上がったことを確

空區地車の力学5.角を曲がる方法➀ 肩を入れる

神戸型地車(後述)が角を曲がるには、「肩を入れる」と「張る(はる)」の2つの方法があります。 地車に負担をかけないのは「肩を入れる」です。また、直角にも鋭角にも曲がれるので狭い道路、特に塀や電柱など障害物が迫っている曲がり角では「肩を入れる」のが有効です。 ❶「肩を入れる」時の四隅前の責任者からの合図 地車は指揮者を先頭に、子供会の綱、地車の順に進みます。指揮者からは、事前に「この角を曲がる」と四隅責任者や屋根頭に合図で指示されています。その合図を見た前の曳き手も進む方向は

空區地車の力学 6.角を曲がる方法② 張る

神戸型地車が角を曲がる2つ目の方法は「張る(はる)」です。 ❶「張る」とは 地車に負担をかけない曲がり方は「肩を入れる」ですが、急な方向修正が必要な時は「張る」方が瞬時に地車は動きます。 「張る」とは下図のように推進力を利用しながら、前と後ろの曳き手が逆方向の力をかけて一気に旋回する方法です。 ❷「張る」時の四隅責任者からの合図 ウチワを持つ手と持たない手をねじるようにクロスさせる動きを続けます。 ❸「張る」時のコツ 前に進もうとする推進力なしに張っても地車は動かない上

空區地車の力学 7.とばせ!もどせ!

「とばせ」「もどせ」は最高速度で往復する所作で、参道での「宮入」や、「住吉駅前のセレモニー時」などで行なっています。 地車の醍醐味は何といっても「とばせ」にあります。重さ4トンの地車が唸りを上げて全速で走る姿は勇壮です。観客も大盛り上がり。曳き手にとっても気合の入る瞬間であり、その速さを他地区と競い合いたくなるものです。 鳴り物もテンポアップしており、曳き手はテンションMAXになります。 しかし、重さ4トンの地車が一旦唸りを上げて走り出すとおいそれと止めることはできません。