「ハレ」の街

隅田川の川縁、スカイツリーのお膝元、私の住む墨田区向島は懐かしさと近未来の希望とが入り交じった街だ。
昭和の全盛期、五百人からの芸者衆が町を彩った。今はかつての賑わいは薄れたものの、それでも百人余りの綺麗どころがいる。
花柳界の粋は健在だ。美容院は髪結さん。どんなに歳を重ねでも、先輩芸者は「お姉さん」と呼ばれ、一見さんお断りの料亭が今も残る。仕出しの料理屋はこだわりに溢れて、格別の味。菊最中の青柳正家、長命寺の桜餅、三色言問団子。昼は見番から三味線や鼓、小唄が流れてくる。夜になればスカイツリーのライトアップが美しく町を照らす。
春は桜、夏は花火、向島の情緒が隅田川の流れに呼応して、刻まれている。

辛い時、あと一踏ん張りの横棒一つで幸せだと、今日も向島の「お姉さん」たちは背筋を伸ばす。言葉の端々に江戸のきっぷが匂う。向島は、しがらみの「ケ」から解き放たれる「ハレ」の街だ。

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