寂しがり屋

 
「お金って寂しがり屋だから、仲間の居るところに集まるらしいよ」
 親友の朋子が私の懐具合の厳しい理由を教えてくれた。
「なるほど、財布の中、小銭しか入ってないのは、寂しがり屋のお札は仲間の居るところに行っちゃってるからなのか……」
 私も彼女もシングルマザー。子供を育てるために必死で働いてきた。彼女は二人の子供が働き始めて、最近少しゆとりが出来た様子。
私は、四人の子供の下二人がまだ学生でお金がかかる。
「細腕繁盛記なら、格好がつくけど、腕なんて大根足ならぬ大根腕だもんね」
 最近増えてきた白髪も、ギリギリまで染めるのを我慢して、おしゃれなんて関係なし。骨粗鬆症症予備軍のサプリメントも摂らずにいる。
「宝くじでも当たらないと、この貧乏癖は脱皮できないね」
 朋子は深刻ぶってはいるが、私の腕をぎゅっと握って笑いをこらえている。
「ちょっと否定して欲しいんですけど……」
「あっ、ごめん。大根足まではいかないか。でも、ずっと力仕事だったから、しかたないよ」
 お世辞を言われるよりはマシかと思いながら
「お金が寂しがり屋っていうのは分かるけどさ、はじめから無い人は厳しいぞ」
 どうやったら仲間を集められるのか、真剣に考えてしまう。
「元々お金持ちは有利だよね」
 少しゆとりが出来た朋子のことが、疎ましくさえ感じてしまう。
そういえば、近所の富豪のおばさんが言ってたことを思い出した。
「お金は兵隊だから、頭を下に向けて揃えて入れとくのよ、一旦外に出て戦って、戻ってきたらご苦労様お帰りって迎えてあげるのよ。そうするとまた、頑張ってくれるのよ」
 おばさんのまねをしようと思ったけれど、揃えるほどのお札は私の元にはやってこなかった。
「ねえ、元手を考えるより、まずはお金が来やすい環境を整えるっていうのはどう?」
 朋子に提案してみた。
 ざるで掬うとか、濡れ手に泡とか、お金が身につかない今の自分を変える方が得策ではと思い立った。
「あのさ、雨が降った時、お金持ちはタライを置いて、貧乏人は試験管を置いてるんじゃないかと思うんだ」
「どういう意味?」
 朋子が食いついた。
「つまり、境涯じゃないかと思うわけ。雨は同じように降ってるけど、それを受け止める器が違うんじゃないかって……」
 ふんふんと納得の表情で私を見つめる。
「私たちは試験管って事?あっ私はビーカーくらいになったかも」
 どんぐりの背比べなのだ。
「そもそも、お金が幸福の基準みたいなのがなんか違うと思うけどね」
 やせ我慢の私。
「大丈夫だよ、子供たちがみんな働くようになれば楽になるよ」
 朋子にそう励まされた。
 寂しがり屋のお金の立場になれば、すぐに使われて存在を忘れられてしまうより、仲間が多い方が安心できるのかもしれない。
でも、あなたの価値を最大に評価出来るのは仲間の居ない私の財布ですよ、と教えてあげたい。
「お金も寂しがってる場合じゃ無いよね。私たちの所に来てくれれば、大切に使うし、すごく感謝されるのにね」
 お金に文句を言って、急に可笑しくなった。 
 自分の器にはお金は入っていないけれど、幸せの種は詰まっている。
その筆頭は四人の子供たち。四人とも健康で素直に育ってくれている。それに信頼出来る友達も多い。
「あっ、寂しがり屋のお金って、もしかしたら寂しい人のところに行くんじゃない?」
「きっとそうだよ。いい事言うね、私たち寂しがり屋じゃないもんね」
 二人でケラケラ声を出して笑った。
 

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