聚楽

 父の面会の帰り、上野駅を出て、母と二人レストランに入った。
 中途半端な時間帯のせいか、店の広さが目立って、その分どこか物悲しい。
窓の外を行き交う人達がゆらゆら見える。
「お腹すいたでしょう。何でも好きなの注文しなさい」 
「ハンバーグでいい」もしかして、父と会うのが最後なのかと思うと、胸が苦しい。
「お母さんはビーフシチューにするね」
ビーフシチューは父の大好物だ。
「このレストラン、お母さんが東京に出てきて、お父さんと初めて食事をした所なのよ『聚楽』ってね、この世の歓楽が集まる所って意味なんだって、教えてくれた」母の声がやっぱりゆらゆら流れてしまう。
「楽しい事が集まる所なんてここじゃないよ」
「お母さんとユキちゃんと二人で居る場所が聚楽になるよ」
 母の声がすっと耳に届いた。

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