猫の挫折

猫が家出した。
猫には猫の事情がある。
これが最後の家出であり、最後のチャンスだった。
決められた相手と結婚して実家を継ぐなど
猫にはもってのほかだった。
そんな型にはまった猫人生はごめんだった。

夢は夢のまま終わった。
猫は帰ってきた。

上手くいったからといって鼻を高くしてはいけない。
自分の身の丈を知らなければいけない。

飼い猫としての素質を問う最終試験。
「家出をして、帰ってくる。そして再度その家で暮らす」
これまで何度も成功してきた。
飼い主との信頼関係、判定はいつだった「良好」
どんな飼い主ともうまくやってきたのだ。

次の試験に成功すれば、エリート猫としての道が開ける。
猫は自信に満ちあふれていた。

猫は家出した。
次に帰って来ても、必ず自分を飼い猫として迎え入れるに違いない。
少し遠回りをして、いろんな景色を見ておこう。
エリート猫なれたなら、もう野良猫には戻れない。
実家にも戻らない。
新しい猫人生を生きるのだ。

猫は帰路についた。
今までにないほどに時間をかけて家出した。
もっと評価をされたくて。
立派な飼い猫だと認められたくて。
これに成功したならば、飼い猫としてのこれからは約束されたも同然だ。

猫は家を目指した。
再度飼い猫としてあの家で暮らせると、信じて疑わなかった。

猫は帰った。
そこに猫の居場所はなかった。
そんなはずはないと何度も目をこすって、何度も見返した。
代わりはいる。
いくらでもいる。
猫でなくても、いいのだ。
そこには新しい猫がいて、家族はその猫で満たされている。

もっと早く帰っていたら、代わりなんて探されなかったのか

あとちょっと近道をしたら、あの家に戻れたのだろうか
悔やんでも、もう遅い。
猫は帰った。
本当の家族のもとに帰った。

実家を飛び出していった猫を、親猫は見捨てなかった。
あたたかく迎え入れた。

自分が、誰かにとってかけがえのない存在であったと、猫は夢にも思わなかった。

そして猫は結婚した
家業を継いで新しい猫人生を歩き始めた。

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