織田作の心の中にあったもの

※この記事はアニメ文豪ストレイドッグスの考察です。

織田作は文ストの登場人物の中でも、心の内を知ることが難しい部類の人物だと思う。

彼は見かけ上は非常にシンプルで真っ直ぐな性格なのだが、おそらく織田作ほど掴みどころがなく不可解な人物はいない。まさにブラックボックスである。彼の動機を、彼の精神の根幹を掴むのは難しい。

彼はタフであろうとした。感情に流されずに行動することを重視していた。果たして何をきっかけにそのような価値観を持つようになったのだろう。

織田作が夏目と出会い、小説家を志すようになったのは十四歳のとき。その頃はまだフリーの殺し屋をやっていたようだ。では、殺すことをやめた男はなぜその後わざわざポートマフィアに入るのか?経歴が汚れすぎていて、ポートマフィア以外に居場所がなかったからか。あるいは、彼が借りを作っている太宰以外のもう一人の誰かのためなのか?

そういえば太宰は織田作のことを他意のない男と言っていた。
他意とはなにか。「ほかの考え。隠された意図」「裏切り心」
そういうものがなく、表面に出ているものが彼のすべてだということだろう。

だが、織田作には表情がない、おそらく感情もない。何を考えているのかわからない。
それが彼の全てなのだとしたら彼は見事に空っぽだ。

織田作には欲がない。我がない。
人間らしさがない、空っぽの人間。
「人の役に立つ」という一本の軸以外、彼にはおおよそ何もない。
自分が守るべきものと、ささやかな夢を除いては。

たとえ何も持ち合わせていなくても、ただ目の前に世界が広がっているだけで彼は満たされていた。その日常の、その当たり前の尊さを彼は知っていたからこそ、何も必要なかったのかもしれない。

誰も完全に理解することのできない織田作。
皆から愛される織田作。
太宰にすら測り知ることのできなかった織田作。


彼が孤児を拾うのはなぜなのか?
過去に殺しをやっていたことへの償いだろうか。もしくは孤児を見ると過去の自分を見ているようで放っておけないのかもしれない。

人は自分を救済するために生きている、と彼は最期に言った。昔、夏目に言われた言葉だ。

果たして彼は自分をどう救済したのだろうか。
彼にとっての救済はいくつか考えられる。
1. 自分の過去を悔い改め、孤児を養うことで償いをする
2. 自分の命を捧げることで子供たちが亡くなったことへの償いをする
3. 友を救い、未来のための種を蒔く
4. 小説家を目指すという夢を持ち、新たな自分を自分の手で作り上げる

救済とは悔い改めること。心を変え、行動を変えること。

心なき殺し屋だった彼が、心を入れ替え人に尽くす行動をし続けた、その人生こそがまさに長い救済の過程そのものだったということだろう。

では、彼はどうして夢を諦め、自ら命を落とす選択をしたのか。
夢だけは諦めずに、生き続けることもできたのではないか?

彼は孤児たちを大人まで育て上げることを自分の償いだと捉えていた。その時までは自分には小説を書く資格はない、孤児を育て上げて初めて、自分の過去はリセットされるものだと制限をかけた。
「もう小説を書く資格はない」という言葉は、精神的なダメージによって書けなくなったという側面もあるが、孤児を育て上げることができない以上、夢への道そのものが失われたからという意味も含まれているように思う。
織田作は決して取り乱したり、感情に任せてジイドのもとへ向かったのではないような気がする。
夢への道を絶たれたために、自分が最後にできる償いをしようとしただけかもしれない。

織田作は自信がなかった。自分は本当に小説を書く資格があるのだろうかと。
だから自信を持てるように償いをし続けた。
過去の自分の過ちを打ち消せるように。

彼は密かに悲しみや後悔を抱えていたのかもしれない。そして二度と過ちを犯さないという誓いを人生をかけて守り抜こうとした。
そんな織田作の死は、私たちにどう生き、どう死ぬべきかということを静かに語りかけている。そして過ちから人は立ち直ることができるのだと、強く励ましてくれているのだろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?