見出し画像

文ステ『共喰い』を観て思ったこと

※舞台文豪ストレイドッグス『共喰い』6/10大阪公演配信のネタバレを含みます。

文ステ配信観たので感想書くかな~迷うな~とぐずぐずしていたら2週間近く経ってしまった…本誌とかアニメの感想ってあんまり書いてる人いないんだけど、文ステの感想は書いている人とても多くてなんかそういう習わしみたいなものがあるんですかね?かわいい感想がたくさんあって癒しだったあ!
ということで別に私が書かなくてもいいか…という甘えでずるずるきてしまったんだけど、書かないのもそれはそれでやっぱり気持ち悪いので、一応好き放題言っておこうかな…
思いっきり原作寄りの目線だし、いつもの考察の延長線上にあるようなことをだらだら書いてるだけですので、たぶん期待に応えられるようなことは何も書いてありません。

■イワン

イワンがこんなに魅力的なキャラクターだったなんてそんなの知りませんでした。なぜ!なぜ今までその魅力を隠していたのですかイワン!喋り方も立ち振る舞いも超一級の逸品でございました。

イワンは人との距離の取り方がほんとに独特だと思う。
幸福しか感じないからこそ、人の個人的な領域に物理的にも心理的にもずかずかと踏み込んでいくのだけど、そこに悪意もなければ他意もないので、なぜか嫌な気持ちにはさせない。むしろ声の響きからどこか心地良ささえ感じさせる。
だけど不気味なまでに接近してくるその姿に防衛本能が「こいつはなにかがやばい」と告げるので恐怖感も同時に掻き立てられる。
人間の動きを模倣した蝋人形のような質感がものすごくリアルに再現されていて、本当に魅力的でした。

イワンは心の底から幸福であるが故に、自分の置かれている状況を最高のものだと絶対的に確信している。そうして自信たっぷりに「皆さんも私みたいになってみては?」と攻め込んでくるから、その自信に気押されて「おおお、確かにそうかもしれん…」とぐらぐら~っときてしまうのだよね。
蜜に群がる虫のように判断能力を奪われたまま甘い誘惑の虜になってしまいそうになるし、甘さへと誘おうとするイワンの声や立ち振る舞いにもどこか人を陶酔させる力があったように感じます。
はああ、いいないいな。私もドスくんに脳いじってもらって四六時中、恍惚としていたい。

■院長の過去と向き合う敦

院長が師匠であることを認めようとしない敦くん。鳥越さんの敦くんは、原作の敦くんよりも自分の感情に素直だし、受け入れられないことを無理に受け入れようとせずにちゃんと相手に噛みついていける強さがある感じがして、熱きものを抱えていてグッとくる。

私は父の肖像で描かれていることが本当に大切なことだと思っていていつも熱くならずにはいられないので、(世間の目を気にせずに)少しばかり語らせてもらうことにしよう。

父の肖像の中で敦くんが院長の生い立ちを知ったことと、それを通じて院長の「歪んだ愛」に気づいたことは敦くんにとってきっとものすごく大きな意味があって。
院長のことは許さなくていいし、許す必要なんてないけど、院長の過去を知ることで敦くんは「不運な自分を許す」ことができるようになったのではないかなと思うんです。
院長が自分に虐待をしたのは、院長を取り囲んでいた環境がそうさせたからであって、決して敦自身のせいではない。
「自分が悪い子だったからじゃないんだ」「自分のせいじゃなかったんだ」と気づくことがどれほど大きな前進か。

愛を知ることなく育った院長には当然「愛を与える」ことがどういうことかを理解することなんてできず、院長は院長で自分が想像できる中で最善の教育をしようとしていただけなのだろうと思う。自分に経験のないことや想像すらできないことを誰かに対してしてあげることはなかなかできないものだから。
きっと院長は非常に歪んだ形でしか子供への愛を表現できないというだけで、愛がまったくなかったというわけではないんじゃないかな。

敦くんが院長のそんな悲痛な背景を知って「私を憎め。己を憎むな。」という言葉の背後に隠されたかすかな愛を、たとえそれが歪んだ形のものであれ少しでも見出すことができたのなら、それも敦くんがトラウマを克服するための大きな一歩になったように思う。
院長の言動には、私のことは許さなくてもいいから自分自身のことは許してあげてほしいという願いが込められているようにも感じるから。

確かに敦くんは人生の被害者だけど、それはみんな同じで、自分は被害者だと思っている限り「自分を憐れむ」ことからは逃れられないよね。
たとえ相手を許せなくても、自分が悪いわけじゃないと自分を許すことができればそれで十分だし、「どんな加害者も一方では被害者なのだ」ということに気づければ、なにかが変わる大きなきっかけになっていくと思う。

私自身は虐待のような悲惨な経験をしたことはないのだけど、その代わり1歳半のときから母親が育児放棄してひとりで海外に移住してしまって、人生の中で母親に愛されているという感覚を正直一度も持ったことがない。
だから高校くらいまでは真っ暗闇の中にいたけど、その闇を克服したことのある人間の立場からしても、敦くんの葛藤は実感としてものすごく確かなことだと感じる。
私だって未だに母親のことを許しちゃいないけど、それでも自分の過去をそういうネガティブな面も含めて愛しているし、逆境こそが自分を強くした源だったと確信しているので、太宰さんの言葉も敦くんの葛藤も「そうそう私もそれが言いたかった」といつも自分のことのように感じてるし、後押ししてもらってる気分になる。

ということで私は父の肖像で描かれたことは本当に大切なことだと思うから、原作でたっぷりと描かれているものがアニメや舞台で結構削られてしまっていることにはいつも少し寂しさを覚えます。

■イワンの過去と文ストの敵役

イワンの過去にあんなことがあったなんて衝撃的すぎて目をひんむきました。ドスくんやりよる…たかが紅茶のために…!
というかこれ、うきうきお悩み相談会の話そのまんまじゃんと気づいて不謹慎ながら笑っちゃった。女性を口説くために相手の職と住居失わせて家族を騙すっていうのと行動原理一緒。発想が一緒。

目的のためなら手段を選ばないし、その目的が大義だろうと、ささやかな目的だろうと同じだよねっていうの、ものすごく一貫しててわかりやす~~。
何考えてるかわからない魔人だからこそ、こういう単純な一面をのぞかせるときはちょっとかわいらしい感じがしてたまらんな。

ドスくんは「自分か人類か」の両極しかみていないような極端な人な気がするので、中間層にあたる「誰か」のための行動が存在しない感じしません?
文ストってどんな敵役であっても大体は「誰かのため」に行動してたりするけど、ドスくんだけはその「誰か」を持っていないよね。そういう意味ではやっぱりドスくんはちょっと異物感あるなあ。

「魂のない吸血鬼のような」って言われているの、舞台みてようやく思い出した。ドスくんとブラムの共通点…気になっちゃうね。

ドスくんって偽善者っぽいところあるけど、自己欺瞞はしてないからいいのよね。
文ストの敵役ってみんな自分の心に素直に従って動いているからどこか憎めないし、その気持ちが誰かに向けられたものなら簡単に否定されるべきでもなくて、両義性を含んでいていいなと思う。
私は自己欺瞞をしてしまう人間が(自分も含めて)どうにも嫌で、欺瞞のないはっきりした人は素敵だなあと思うから、文ストの敵役にはついつい惹きこまれてしまうのよねえ。
谷崎くんもナオミのためなら世界を焼くし、フィッツも妻のためなら世界を焼くし、ドスくんだって〇〇のために世界を焼くのだろうけど、その〇〇の適用される範囲が広大なのだったら、そりゃ屋敷や国のひとつやふたつ当たり前に焼いてしまうんだろうなあ。
「何のためならよくて、何のためならよくないのか」の線引きって簡単にはできないから、結局ドスくんのこともどうしても純粋悪という目線では見れなくて、ついつい擁護しちゃう。

マフィアだってマフィア以外の人からしたら怖すぎる存在だし、森さんや太宰さんや中也に(報復という理由だけで)家族を惨殺された人なんて横浜にはごまんといるだろうけど、それでもなぜかストクラにとってマフィアはどこか「良い組織だ」みたいな風土が醸成されているのは、カフカ先生による悪質なマインドコントロールだと思う。

■マフィアの裏側

兄~!声だけでも出演してくれてありがとう。ヴェル兄の待つ嵐っていつ来るんだろうね。
嵐が来ることを知っているということは、諜報員時代に得た情報から何かを察知しているということだろうし、英国の女王暗殺という過去とも何か関連してそうなので、欧州を巻き込んだ戦いこそがヴェル兄の見据えている嵐なのかな。
兄に早く出てきてほしいようで、でも兄出てきちゃったら文スト終わっちゃいそうで、とても複雑な気持ち。

森さんが次期首領に太宰さんを…って思っていたことがはっきりわかってとてもびっくりした。森さん…そうだったのね…
合理的な理由だけではないことを告げるような回答だったというか、森さんが奥底に隠している何かの想いが沈黙していた間の中に露呈したような気配がした。森さんの本心を聞けるのって稀だからどきどきしちゃった。

マフィアのみんなが中也に寄せてる信頼や、旗会の消えない熱意もたまらなかった…中也って本当にみんなに愛されているけど、それは中也がそれだけみんなを愛し大切にしていることへの見返りだとも思うし、中也を中心に取り交わされる情熱の嵐に胸あつーくなりました。

■幸福とは

イワンに語った敦くんの「不幸への想い」はめちゃくちゃ熱かったああ良かったああああ!!もうこの敦くんの想いを聞くために共喰いの舞台は存在していると感じさせんばかりの熱量と言葉の重さ。
それをさらに引き立ててくれる記憶を取り戻したイワン…
ここの一連の流れ、まじで良すぎてダメでしたあああ。
感想で一番伝えたかったのこれ。

魔人は部下たちに裏切られて攻撃されても顔色ひとつ変えないし、真実を告げるときの余裕顔がほんとにねえ。ドスくんにはすべてを託したくなるような包容力がやっぱりあるのだよねえ。かっこよーん。

最後のお見送りのイワンの言葉。
自分のために紅茶を…!まさか文ストでこの台詞を聞けるとは想像もしていなかったのでめちゃくちゃ印象深い…いつも誰かのために頑張っている人だからこそ、たまにの「自分のために」は心温まる。幸福って、案外そういう単純なことなのかもしれないね。
文スト最高。大好き。

ああ~ほんとに好き放題書いちゃったし、結局また長くなっちゃった…
これで文ステ終わりって全然実感ないし、なんなら銀幕続きは?とか期待しちゃうけど、ゲネプロレポート読む限り、これで銀幕含めて本当に「了」なのですね。つらみ。
俳優さんや監督さんや今まで関わってこられた方を通して、文ステという最高の体験ができて本当に良かったなあと思います。
同じ時代に生きて、同じ現象を共有できたことがとにかく嬉しいし、感動の嵐を何度も何度も巻き起こしてくれて本当にありがとうございました。
(ってまだ東京公演終わってな~い!)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?