お兄ちゃんの夢はなに?

※この記事にはとても強めの非道徳的な内容を含みます

(じゃあ書くなっていう話なんですがそこに触れないとこれを語ることにならないので……)

 Wii Wareの配信がすべて停止されたので、パッケージされていないゲームをプレイすることができなくなった。購入済みの機体をどうにか借りてくるしかない。
 もちろん制作がSteamなどでリメイク版を出すことは可能だが、Wiiはそのコントローラーの独自性から、移植はそこまで楽ではないと思う。金がいる、人気も必要だ。私が今から語るゲームはそのどちらもない(もう一つ重大な欠点——魅力でもあるが——を持っている)。
 だから多分、一生、このゲームを新規でプレイする人は現れない。知り合いがたまたまそれを買っていて、しかもそのWiiを持っているぐらいしか方法がない。そのため一切のネタバレの配慮などはしない。なぜならもう体験できないからだ。

(音が出る)(しかも気持ちのいい音ではない)(右上のスピーカーを押してみよう、ニヤリとできる)

【ディシプリン*帝国の誕生】

 知っている人は知っているんじゃないだろうか。どうだろう。Wii所持者なら一度くらいは名前を目にし、その絵柄にエエ……となったかもしれない。私も「Wii Wareにヤバいゲームがあるぞ」と当時の2ちゃんねるで見かけたのだ。
 結構悩んだけど誕生日に友人がWiiで使えるショッピングカード?のようなものをくれたので、じゃあ気になっていたし、と購入した。私にとって初めての、パッケージされていないゲームだった。

 フルで実況をあげている方がいらっしゃいました。本当にありがとうございます。よくこのゲームを完走してくれた……


 奇病にかかった妹の治療費を捻出するために、監獄実験施設「ディシプリン」への収監実験を受けている主人公のyou。彼はたまたま見つけたyouコンを使い、同じ部屋に収監されている者たちの不快感を取り除いてやることにする。
 というのが大まかな流れで、やってることといえば囚人の排泄介助、寝かしつけ、風呂入れ、食事作りなど、育児と介護に終始する。その合間に彼らから話を聞く。基本的には文章を読むところに面白みのある、アドベンチャー……?テキストゲーム……?みたいな……? やつだ。
 youは犯罪者ではないし、同じ部屋に居るものたちも(おそらくは)治験者であり、彼らに罪はないはずだ。ガスマスクにボンテージでセグウェイに乗った看守役の女性も居て、彼女たちもまた本職ではない。このへんスタンフォード実験を想像する人も少なくないと思う。
 だが彼らの話を聞いていくうちに、「あれ?」となるのは避けられない。最初に出会う男の話す内容は、どうにも真に入りすぎている。それともこのゲームをする人は、もうこの事件を知らないのかもしれない。

 この特徴的な前髪、小さめの目、頬骨、やたら肉の話をする……
 そう、佐川一政。パリ人肉事件の犯人だ。
 えいきなりこの人やる? 津山30人殺しがせいぜいじゃないか? 時代が近過ぎない? ていうかちょっと待て、ここは治験で、この人たちに罪はないのでは?
 このような調子で様々な囚人と話をしていくことになります。攻略対象(この言葉使うのいやだな……)の順番はおおむね決まっており、この後に続くのが

・セッケン売り(オウム真理教・上祐史浩)
・森の音楽家(小室哲哉)(槇原敬之という説もあるが、多分TKだと思う)
・バニーボーイ(映画「ガンモ」の登場人物、彼だけはフィクションの登場人物)
・ゆかいふかい(神戸連続児童殺傷事件・酒鬼薔薇聖斗)
・詠み人知らズ(埼玉連続幼女誘拐殺人事件・宮崎勤)
・センセイ(オウム真理教・麻原彰晃)
・boyfriendZ(彼は現実の事件についての話をするが、被疑者ではない。現実には彼は存在しない)
・アカイハナ(秋葉原通り魔事件・加藤智大)
・風候(ミシェル・フーコー)
・Mr.Delete(北九州監禁殺人事件・松永太)

 ここまで書いてこの記事消されるんじゃないかなと思ってきた。具体的に何がどうモデルなのかまでは面倒なので書かないが、事件のことが分かっていれば大体は「あぁ……」となる。そういうワードを散りばめてくる。
 これがディシプリンがまず移植できないだろうと思われる所以だ。というかよく出せたなコレ。CERO Cて。

 まず、もう、ハッキリ言って、時代が近すぎる。まだそれネタにしていいやつじゃなくないか?とプレイヤーが焦る勢いで、どんどん最近の(発売したのが2009年、秋葉原通り魔事件が2008年だ)殺人事件が出てくる。「これ任天堂のハードでやってるんだよな……?」と己の握りしめているものを疑いたくなる。
 そして重要なのだが、彼らはこれらの話について、大して反省していない。話しかけたら答えたという作りなので、発言自体が独り言の域を出ていないのだ。「どうしてあんなことを……」みたいなことを呟いていることもなくはないが、基本的に彼らは己の所業について自慢、取り繕いをして、youもそれに寄り添うこととなる。
 根本的なゲームデザインも合わさって、誇張抜きで「介護しながら過去の悪行自慢を聞かされる」という、一部の人間には吐き気を催す内容である。

 特にMr.Deleteは作中屈指の難易度で、時間制限もストレスゲージの溜まる速度も下げ幅もひどく、おまけに話を聞いても上記の通り、その事件を知っていれば(心の弱い人は絶対に検索してはならない)怒りやら虚しさやら呆れやらでメンタルがズタボロになる。

 今見ても吐きそう。
 というか音楽や絵柄、そこらじゅうに虫が這っているところや囚人の欲望管理の面倒さからして、ひたすらにストレスが溜まる。このゲームをやっていてすっきりするシーンなど、ほとんどない。
 それでもウケた理由としてやはりセンセーショナルさはあると思うが、ただ不謹慎なだけのゲームではなく、主人公のyouと妹にまつわる話にも魅力がある。

 途中に出てくるboyfriendZは、なんとyouを知っている。youは選択肢以外では喋らないので彼を知らない。とにかくyouを罵り、「お前のせいで*ちゃん(奇病に罹っている妹)があんなことに…」と嘆いている。

 youと*を取り巻く事件が、渋谷区短大生切断遺体事件だったのだ。
 いや……ええ……私ですらいちプレイヤーじゃなかったのか……と同時に、タイトルの*がただの区切りの記号ではなく、帝国にかかっていることに気づきます。

 *=アスタリスク。アズ。
 終わり方がドラッグオンドラグーンとかBAROQUEとか、そのへんのグロ鬱ゲーに近い、妙に爽やかな感じもするものです。「はー……終わったのかぁ……」という脱帽感と、ぐるぐると考察を続けたくなる力があり、こればかりはさすがの飯田和敏パワーと感じ入ります。
 上でボロクソ言いましたけど「事件を起こした人の自己弁護」を延々聞くというのはなかなか物珍しく、阿佐ヶ谷ロフトみたいなアングラっぽい空気があり、総合すると私はこのゲーム結構好きなんですね。というか好きじゃなかったらわざわざこんな長文書かない。
 下世話で、下品で、吐き気を催して、それでもなぜか気になってしまう。一片の救いもない(しかも壊されるカタルシスすらない)ゲームが、なぜかWiiで発売されていたということを、つい語ってしまいました。

全然うまく表現できてないので、上に貼った実況プレイ(あんまり口を挟まないのでぼーっと見れました)を見たほうが雰囲気つかめると思います。