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SHIROBAKOを見てほしい

 労働をした人、これから労働をする人、アニメーションにプラスの感情が働いたことのある人はみんなSHIROBAKOを見てほしい。
 タイトルで言いたいことは全部終わってるんだけどそれだと何にもならないので、SHIROBAKOとは何なのか、どういうところがオススメなのかを書きます。

SHIROBAKOとは

 P.A.WORKSが2014年に制作したアニメです。
 絵柄は可愛い。女の子の目が大きい。何も前情報を知らずにパッと見たら萌えアニメかな?と思うかもしれませんが、それにしては女性陣の服は大半が野暮ったいし、学生服もほぼ着ません。
 なぜならこれはアニメーション制作をテーマとしたアニメだからです。しかも主人公は声優やアニメーターではなく、制作進行という役職。
 出てくる人は98%が成人、40%ぐらいはオッサン〜おじいちゃん。室内でカリカリ絵を描いたり、あっちこっちに物を運んだり、電話をかけたりメールを打ったり、打ち合わせに次ぐ打ち合わせ、話し合いに次ぐ話し合い。声優のアフレコのシーンもあまり出てきません。
 私はアニメ制作に詳しくはありませんが、これは多分リアルな現場というか、我々の想定する「職場」そのままです。
 なので、話は実に地味。2クール24話ありますが、その間にオリジナルアニメを1作、漫画原作アニメを1作、仕上げて放映する。ダラダラもせず、毎日胃が痛くなるような仕事が山積みです。
 そんな地味でストレスのかかるアニメの何が素晴らしいのか?

SHIROBAKOの良さ

1. 主人公がめちゃくちゃいいヤツ
 主人公は宮森あおい、山形の女子校でアニメ研究会に入り、部員4人と文化祭に向けて「神仏混淆!七福神」というアニメを作成。いつかこの作品を世に送り出すために、アニメ制作会社に入社。
 というのが大体1話の冒頭10分ぐらいでさくっと語られます。SHIROBAKOにおける制服の少女はこのぐらいしか出てきません。あとは地味な格好の成人女性ばかりです。
 この宮森あおいが本当にいいヤツ! とにかく仕事熱心で、前向きで、勉強家で、正直で、新人だけど回を追うごとに成長していきます。でも完全無欠ということはなく、自分には何ができるのか落ち込んだり、パニックを起こしてフラフラしたり、焦りすぎるあまり礼を失することも。
 制作進行というのは、アニメを放映するとなったときに、どういう仕事を、誰に、いつまでに、どういった手順で割り振るか、というのを決めて実行する仕事です。吐き気がするほど煩雑です。当然予定通りに進みません。
 監督の絵コンテが遅れる、原画が遅れる、仕事をやめられる、時間は決まっている、でも肩代わりはできない、というプレッシャーが常にのしかかっています。特に最後がつらく、原画がいないところでじゃあかわりに描きます!とはならないので、他に人を探すしかない。でも一体誰が……
 こんな八方塞がりの暗闇を、行動力とへこたれなさで光明を見出し進んでいくのが宮森です。
 うろ覚えですが、作中で涙を流したのは2回だけ。1回は視聴者には理由が分からず(休日に作中の漫画を読んでぽろっと涙をこぼしていた)、もう1回はここまで見ていた視聴者なら絶対泣いてしまう!というタイミングで声を殺して泣く。
 基本的に職場にいるので、宮森は泣きません。でも違和感がないわけです。明るい子だし、そんな暇ないよなーって。それが仕事中に泣く!でも隠れる! 社会人だもんなという気持ちと、ぽろっと漏れる弱さというか心の柔らかさ。ひーん、好きにならずにいられない。
 憧れと共感を持ったキャラクターです。仕事人としても、キャラクターとしても、大好きです。

2. オムニバス的な要素がある
 上にちょっと書いたアニメ研究会の他の4人、安原絵麻(原画)坂木しずか(声優)藤堂美沙(CG)今井みどり(脚本)も話に深く関わってきます。宮森が主人公ですが、彼女たちの視点から見るとまた世界が違ってきます。
 特によく出るのが安原。彼女は宮森と同じ制作会社に所属しており、頻繁に仕事を振られます。原画は新人のわりに(多分)上手なほうだけど、経験が浅いので、思ったように絵が描けなかったり、予定の枚数をこなすために雑になったり、原画と原画の間を意識した作りになっていなかったりします。
 また後半に入ると今井もよく出てきます。前半はただの大学生なのですが、宮森から調べ物を頼まれてレポートを出したことが縁となり、彼女も同じ制作会社にバイト待遇で入ることになります。ただし脚本ではなく、設定補佐という役職。戦闘機や車、牛などを調べ上げ、事実と齟齬がないように組んでいきます。
 原画担当からは、例えば「歯磨きのシーンで歯ブラシはどれぐらい広がっているか?」「風が吹くシーン、風速はどれぐらいか?」という質問が出てきます。このへんは監督の采配ですが、当然「牛のしっぽはどのぐらいの速度で動くのか」「この戦闘機が壊れるにはどこを撃てばいいか」などもあったはずで、そういった事実に即した設定に必要なわけです。
 坂木、藤堂についてもやはり個人の物語があります。藤堂はこのメンバーでは唯一最初から仕事がかなり褒められ、期待されています。しかし同時に、3DCGでタイヤばかり描くことにウンザリしています。彼女は生命力のあるCG(アイス・エイジのようなもの)をやりたいが、会社は向こう3年は車の仕事しか入っていない。でも安定しているし、褒められるし、外に出てもタイヤをよく観察している。夢と仕事が噛み合ってないのです。
 坂木は声優としてまだちゃんとした仕事がなく、オーディションも落ち続けています。というか、書類選考も通ってないかもしれない。何しろ作中で初のオーディション的なことを言っていたので。
 坂木のクサクサした描写はかなりツラいです。テレビに出るアイドル声優が、「趣味ができなくてぇ〜」と言ってるのを見て、「じゃあかわるよ」。「まだ高校生だから学校の宿題も大変で〜」「かわるかわる」。「私は健康維持に気を使ってますね」発泡酒を飲みながらポテチをかじる引きのショット。ウワ〜〜〜やめろ!心に響く! 老い……皆が仕事をしているのに……そんな焦りが言葉ではなく情景で語られます。ツラい。好き。

3. キャラクターの設定が存在しつつも描かれない
 正直、私が思うにSHIROBAKOのもう1人の主人公は、宮森が担当する2作とも監督を務める木下誠一です。腹がでっぷりと出て洒落っ気もなく気の弱そうな、いかにもすぎるいかにもなオタクスタイル。物腰柔らかだけど芸術家肌で、急にこだわりを見せて仕事が遅れることが常態化。1期のオリジナルアニメの際は絵コンテを仕上げるために軟禁生活を余儀なくされていました。
 木下は以前は何かの賞をもらうぐらいに出来のいい監督でしたが、ある作品で地獄のように納期が遅れて、作画崩壊、総集編を3回もやるという失態をやらかし、以降ほとんど表舞台に出ることがありませんでした。それは作中で作画崩壊や制作体制が崩れることを、そのアニメにかけて「ぷるきゅーする」「ぷるんぷるんにはなりたくない」と言わせるのが当たり前になっているほど。ヤシガニとか5話寺とかGUN道の扱いです。
 彼の視点でSHIROBAKOのメインストーリーを追うことは容易です。没落していた監督が再起をかけてオリジナルアニメに挑戦するも、作るうちに話が膨らんであっちこっちに転んで、またぷるんぷるんの再来かもしれない、怖い……! 特に2期の最終回近くの展開は、コメディー調に描かれなかったらマジで軽く吐くぐらいのプレッシャーだと思いました。

 他に、もう1人のサブ主役として、2期から登場する平岡がいます。制作としてはベテランだけど、言葉や態度がぶっきらぼうで、仕事はこなせばいいという考えの持ち主。社の内外を問わず原画マンからは嫌われてます。一応そんな性格になった理由はありますが、ほとんどその過去を知りません。
 これはかなりリアルな人物造形です。仕事はするんだけど微妙〜〜にめんどくさいやり方で押しつけてくる感じ。居るだけで不和を生むけど、サボってるわけでもないし、どう言ったらいいものか……と思っているうちに、いずれ亀裂が入って大きな問題に発展する。
 けどどうしても憎めない。彼は「仕事としてアニメを放映する」ことは投げていないからです。クオリティにこだわって崩壊するより、最低限のものでも出すべきだとしているからです。それは1期の終盤で上司の1人がクオリティを落とすように頼んだことにも言えます。理想だけでアニメは作れないのです。
 私はリアルタイムで観ていないのですが、当時の視聴者の中ではわりと人気が高いというか、存在のわりにアンチの少ないキャラだったそうです。

 また他にも、ベテラン原画マンだけど萌え系の絵柄が苦手で閑職についていた杉江、穏やかだけど積み重ねた経歴の重い丸山社長、あまりにお気楽で仕事がテキトーだが不機嫌な姿も見せたことのない高梨など、多様なキャラクターそれぞれに人生と経験があることが伺えます。ただし、それらはほとんど断片的です。
 1話にして、原画マンの遠藤が、同じく原画マンの瀬川を「苦手」と言うシーンが出てきます。理由は「遠藤が感覚重視なのに対し、瀬川が理詰めで描くから」以外は語られません。多分そのことで過去に2人は折り合いが悪くなったのだと思いますが、何があったのかは出てこない。こういうことがしばしば起こります。説明不足のようでもあり、これぐらいがリアルなようでもある。

 ちなみに私の推しは飄々としながら社外交渉をなんとか進める麻雀上手なナベPこと渡辺隼です。1期は影が薄いですが2期で活躍し、焦る困る怒る顔をたくさん見られるうえ、最終話でがっつりバイクを乗りこなしたのであやうく夢女子になりかけるところでした。ナベPのライダース姿のアクスタあったら飾りてぇ〜〜〜!!!!

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主人公とかメイン5人じゃなくて唯一貼る画像がナベP
私の嗜好を知ってる人から「あ〜〜」の声が聞こえてくる ハイ

4. エンターテイメントとして成立している
 先に言っておくと、1期の「えくそだすっ!」も2期の「第三少女飛行隊」も無事に放映されます。というか、無事に放映されるだろうなーということは大半の人が理解していて見るのです。
 なぜなら作中で木下監督も主人公の宮森も「バッドエンドはナシ」で統一されているから。アニメは夢を与え、諦めるものではないことをテーマに掲げている以上、SHIROBAKOというこのアニメもまたバッドエンドにはならないのです。
 それは、わりと早い段階で気がつきます。SHIROBAKOはP.A.WORKSによるアニメーション業界への夢でもあるからです。
 SHIROBAKOには、明らかにおふざけのシーンが出てきます。男はつらいよシリーズでは、いつも最初に寅さんの夢という設定で、寅さんがしないであろうシーンが挟まれます。あれはスタッフやキャストのお遊びだろうなーと感じるのですが、(類似にアカギの鷲巣麻雀やカイジの十七歩のような『妄想』のシーン)ああいったものです。
 作中作や想像の世界で飛行機が出たり、モザイクかかってるけどドラえもんやガンダムが映ったり、いかにも庵野秀明っぽい人が出たり。アニメ制作者やスタッフマニアの人なら思わず嬉しいようなシーンが挟まれます。
 とはいえそれは身内ウケにとどまらず、視聴者が人間関係で胃が痛くなるのを抑えたり、煩雑なアニメ業界のやり方をわかりやすくするようになっています。だからSHIROBAKOはすごくリアルに描いているけど、フィクションだということは重々承知なのです。
 本当はこんなに上手くいかないだろうことはわかっています。でも、SHIROBAKOぐらいは上手くいってほしい。
 かつてアオイホノオで主人公は「フィクションの中でくらい、地球ぐらい救わないと……!!」と言いました。大事なことです。現実の仕事がツラいのに、アニメの仕事までツラくなりたくありません。とはいえそれまでの現場がかなりしんどいので、なんでも楽勝というわけではないのですが。
 私はこの、働くということに夢を持たせたつくりを高く評価しています。陳腐と言われても明るい方へ舵取りをした制作はすごいなと思いました。

 まだ好きなところはあるんですがオススメ記事として不適切になっちゃうのでやめます。説明キャラのミムジーとロロが良くてね〜、音響作るシーンが地味に楽しくてね〜……

どこで観れるの?

 Netflixです。正月に一挙放送をやっていたそうです。
 この作品のサムネイル、24話中16話がオッサンかおじいちゃんなんですが、大丈夫でしょうか。実際かなりの頻度でオッサンかおじいちゃんが出てきますが……
 あとベタ褒めしていますが、SHIROBAKOはサブタイトルのセンスが個人的に合いません。あんまりその話で重要じゃないような言葉だったりする。

 そして! なんと地味めな内容でありながら映画化が決定しています!

 えーっ2/29! 私は本当にたまたま見始めたので劇場版の存在を後から知ってびっくりしました。見に行きます。

 アニメを滅多に見ない、見ても完走できない私が久々に面白かったのでオススメでした。ネトフリを契約してる人はぜひ!老若男女問わず、アニメーション(テレビアニメに限らず、ゲームなどでも)に心動かされたことのある人には楽しめる作品になっています。