夢の話。その2

「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
顔も朧なスタッフにピースサイン。
「2名様ですね。こちらへどうぞ。」
言われるまま席へ。
さて。
トレンチコートを脱いで、メニューを斜め読み。
「ねぇ、決まった?」
そんなに急かさないでよ。
「わたしは、ウインナーココアと、スモークサーモンのベーグル。お昼食べてないから。」
相変わらず、サーモン好きだね…。
いつかお寿司食べ行ったの、覚えてる…?
ずっとサーモン食べてたよね。そう言えば。
じゃあ。そうだな。
「エスプレッソとラ・フランスのタルトで。」

「決まったのね。呼んでもいい?」
そう言って、おもむろに手を挙げる。

「今日はありがとね。忙しいのに。」
私が忙しいわけがない。
人と会って話すのも久しぶりだ。

「いきなり呼び出して悪かったね。
      LINEも急だったでしょ?」

慎重に言葉を吟味しながら、応える。
「こうして呼び出したってことは、何かあったんだね。緊急性のあることが。」
「そうじゃなきゃ、私とカフェ行こうなんて言わないでしょ?」
我ながら言葉がきついな。尋問する人の物言いじゃないか。これじゃ。

沈黙。「…。」
やっぱり、きつすぎたかな、言い方。
沈黙に耐えるのは、かなりしんどい。
有線が五月蝿い。
さっきからずっと同じ曲なんじゃないだろうか。

そのとき救世主が現れた。
「サーモンのベーグルの方〜。」
「ラ・フランスのタルトの方〜。」
「続いてお飲み物、お待ちしますね。」

では、いただきます。
「別に、そんなに大したことじゃないんだけど。」
頷いて、先を促す。
「"ぽんぽこ"のラストシーンなんだけどさ…。」
えっ、ちょっと待って。あの…。今…。いま!
驚きのあまりタルトが脱線事故を起こしてしまったではないか…。あ〜あ。

そんな私に構わず、生クリームをスプーンで弄びながら、先を続ける。
「あれって、結局はさ、自分たちも騙されてたわけでしょ。違うかな?」
「自分たち」…??
ああ、多摩丘陵の狸のことね。
騙されてた…。ああ、なるほどね。
画を素直に読み解けば、そうなるか。

「間違ってないけど…。ね。」
ああ。いつもながら歯切れが悪い。
解説ノート持ってきてないから…。これが限界。
とはいえ、退けないな。
ここで、あのカードを切ってみるか…。
「結構有名な話なんだけどね…。」と切り出す。
「宮崎駿と高畑勲は…。」
私に被せるように、あとを引き取って、
「若いときは、社会主義にシンパシーを感じて、
労働運動にも参加してる。」

流石ね。
頼むから「で、合ってる?」っていう
その目、辞めてくれ。私はエレンじゃないから。

「それ踏まえると、"ぽんぽこ"って見方変わるよ」。
あら、明らかに目の色が変わった…!!
なにか思いついたな、きっと。
「つまりは、狸たちって…」
「若いときの宮崎駿や高畑勲のメタファー?」
おぅ、やっぱり頭の回転早いな。

「悪いけど、なんか紙持ってる?」
私の言葉に一瞬戸惑うも…。
「これでいい?」
そう言って大学ノートを破く。
「ペンは?」
ここまで来たら、本格的に語るとしよう。


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