夢の話。その3

もう、エスプレッソは冷めてしまっただろう。
ウインナーココアもまた然り。
「つまりはさ、"ぽんぽこ"って労働運動の挫折を描いてるんでしょ。なかなか伝わらないけど。」
ふぅ、なかなかだね。
ワンヒントでここまでたどり着くか。
やはり、躊躇してる場合じゃないや。
私も持ってるカードをどんどん切っていかねば。
「何でそう思ったの?」
なんて聞くのは野暮だ。
「ぽんぽこ」を見たことがありさえすれば、簡単に説明が付く、とんでもなく単純な話だから。

脱線事故を起こしたタルトを一口。
ラ・フランスのねっとりした甘さが心地いい。
冷め切ったエスプレッソを啜って、息を吐く。
「落ち着けよ、えるごすむ。ここからだからね。」
おもむろに呟く。

さてと。
腕を組み、足を組んで、髪を構う。
店内の有線が聞こえなくなる。
そんな私の雰囲気を察してくれたのか、
彼女は黙ったままだった。

考えをまとめる。
【労働運動、失敗、敗北、挫折、転向、観念論…】
頭は寧ろ冴えている、集中の質も悪くない…。

そうか。そういうことだったのか、高畑勲。

しかし、どこから語るべきだろう。
頭の回転が早いとはいえ、付いて来てくれるか…。
一か八か。語ってみよう。
「"ぽんぽこ"で、高畑勲はね…。」
    「転向を宣言したんだと思う。」

さあ、どうだ。
これは、どっちだ…?
伝わったのか…。それとも…。


「全然よく分からないんだけど、社会主義的なものと訣別した、ってことでいいのかな…??」
そう言って、ベーグルを一口。

おお。取り敢えず、第一関門クリアだわ。
「転向って何?」と聞かれたら、どうしようかと思ってた。
「ええとね、言いたいことは分かったよ。
 何となくだけど。」
「でもさ、何で"転向"って言えるの?」

そこなんだよね。説明しづらいのは。
考えを詰める時間が欲しい。
私は意地悪く笑って、一言。
「じゃあヒントだけ。
人間になり損ねた狸。唯物論。妖怪大作戦。」

「え、これだけ…!?」
そうかな。結構核心突いてるよ。
「うん。これだけ。」
「ねぇ。ちょっと…。ふざけてるでしょ…。」

上目遣いで睨まれてしまった。もう何も言うまい。

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