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深夜ラジオ

やっぱりラジオはいい。
さっき久しぶりにこの時間のラジオを聴いた。
中学2年生の時、わたしの家は3週間ほどテレビが観れない期間があった。故障してしまったわけではなく、お母さんがただ単にケーブルテレビの工事をめんどくさがっただけだ。特にテレビっ子でもなかったし続きが気になるドラマとかもなかったし悲しんだ覚えはないけど、ニュースだけは知らないと困るよね〜。

小さい黒い箱が食卓のカウンターに置かれるようになったのはこの時からだ。(今は2年前くらいに新しいものに買い替え、白くて大きめの箱になっている)
毎朝6時半ごろ、わたしの部屋にこの箱を持ちながら起床を促しに来るお母さん。
『おはようございます!今日は〇月〇日〇曜日です!』もう今となっては耳に大ダコができるくらい聴いたNHKラジオの朝番組「三宅民夫のマイあさ」のお決まりのテーマソングと三宅さんの明るく溌剌とした声。
眠い朝が来て嫌だなあという記憶もあればカラッと晴れた心地の良い朝の日の思い出もあり、また暗くて寒い冬の朝も蒸し暑い夏の朝も。どんな『朝』にも思い出がしっかりついて来るからこれがすごい。
何年間も習慣的に聴いているので、
なんのイメージよりも先にこの番組のテーマソングはわたしの中で『朝』を代表している。

ひとつテレビよりラジオが最も優れている点は、
その時々のやるべき行動を邪魔しないことだ。
弟ふたりはまだ小さかった。テレビがついていれば朝ごはんの手はそれはそれは進まない。優れている点、というよりはお母さんの助っ人だったってことかな。

恩人ラジオはこの3週間でピッタリ私たち関根家に寄り添ってくれ、一躍この家でのメインメディアに躍り出た。しばらくして人気者テレビが戻ってきてもその新参者の勢いは止まらず。ニュースは必ずラジオとなり、私が高校に入学しiPhoneを手に入れてからはケータイのアプリからも聴くようになった。
受験期、朝勉強のため始発で起きて南大塚の駅から学校近くのマックまで行く道は、片耳でラジオを聴く時間だった。だからそこから流れてくる世界はいつも心強かったし、もちろん知見は確実に広がったし、総じてわたしの学生時代をとっても豊かなものにしてくれた。
深夜ラジオを聴きはじめたのもこの時期。
ミッドナイトトークといって、いろいろな業界の人たちに日替わりのパーソナリティがインタビューをする。昼とか朝のラジオと何が違うっていうと、「限りなく人の自然な会話に近い」ことだった。なんだろうな、たぶん時間的に聴いてる人も少なくなるし、多少ふたりの会話が被ってしまっても、それを負い目にしている雰囲気もないし、ああ話したいこと話してるんだろうなって感じ。ラジオって一方通行で情報が流れてくるから私は聴きたいものを選べないし、(もちろんチャンネルを変えることは一応できるが)
だからこそ偏った考えとか世間の当たり前とわたしの当たり前は違うことなんかを気づかせてくれる。
今って何でも「選ぶこと」ができすぎて、例えばニュースもカスタマイズされちゃうし購入履歴から好み
分かっちゃうしとても助かるけど、新しくて「もしかしたら受け入れられなくても存在を知らなきゃなもの」に出会う機会が減ってると思うんだよね。

だから今日、久しぶりにゆっくりこの時間のラジオを聴いてなんか懐かしい気持ちになった。
もちろん大学に入ってからも朝は化粧をしながらラジオを流していたし、麒麟の川島さんが出ていたお気に入りの番組「すっぴん」は欠かさず聴いていたし、(3月末で番組が終わってしまった初めて好きだった番組が終わるという経験をしてすごく悲しかった)ラジオ自体は未だに生活に染みついている。
でも新しいことを知らなきゃとか就活のために
時事を取り入れなきゃとかそんな気持ちも30%くらいあった。だから変な義務感?みたいなもののない
真っさらな気持ちで今日深夜ラジオを聴いて、
ちょっと泣けるくらい良かった。
歌手のジュディ・オングっていう人だった。
ふつうに日本のおばあちゃん。好きなように話してるな〜自由で良いな〜途中でかかったジャズの
音楽も全てが心地よかった。

でも一番良かったのは、
終盤に聞き手のアナウンサーが「今後の人生で大事にしていきたいことはありますか?」って聞いた、その答えだった。
「う〜んわたしね、食器棚の一番奥にあるお客様向けのお皿を、これからはもったいないとか思わずに毎日使おうと思ってるのよ。例えば、もずくね。
適当なお皿に入れないで、高いワイングラスなんかにいれてみるの。そしたら本当に味が違って感じるのよ。贅沢しろということじゃないけどね、工夫して日々を変えることって素晴らしいことよね。」

めちゃめちゃ良かった。たぶんこの自粛期間で
同じようなことをしていたから、なおさら。
しばらく都内のお店なんかに行けないなと思った
1ヶ月前、セリアで黒い洒落た紙カップと大理石柄の黒い料理プレート、またクラフトビール用のグラスを買った。100均で揃うものは全て揃えたんじゃないかってくらい『お家でテンションを上げるため』に
精を出した。自分の部屋も見違えるほど綺麗になったし、昨日また机周辺を改革して『好き』の溢れる空間に近づけた。

ジュディさんに「あなたのやってることは素晴らしいことよ」ってお墨付きをもらった気がしたから、
しかもそれはお鍋でコトコト作ったシナモン・チャイ風ミルクティー(ちゃんと可愛い白いマグカップに入れて)を片手に、洒落たGINZAをペラペラめくっている時だったから。

あ〜このコロナ期間は1ヶ月以上前からあったのに、
はじめて『充実』した気がしたな。
お洒落になりたくてダイエットのために
ストレッチしたり、早めに夕ご飯を食べて
お腹をすかせて朝を迎えるようにしたり何日か
やってみた。もちろん、未来の自分に投資しよう!
っていうのは本当に必要で且つ素晴らしい
ことだと思うのね。でもじゃあ、『今』は!?

たぶん今日は災害時のことも考えていたせいで、
ダサいこと言うけど「今この日を大事にしなきゃ」
って気持ちが強くなった。だからこそ同じ机の
上に座っていても特別な日に感じたし、
だからこそ久々に深夜にラジオかけてみよう
と思えた。

すてきな会話がiPhoneから聴こえてきて、
誰かを部屋に招いている気分だった。

番組の最後のトークで、ジュディさんはこう話した。
「今日はもちろんラジオだしお電話の前に
 いますしこんな時間ですけれども、
 私は今日もイヤリングをつけて真珠の
 ネックレスをつけてますのよ。きょうは
 寒かったから淡いブルーのカーディガンも
 羽織ってね。やっぱり、たまには
 誰にも会わなくてもオシャレすると
 気持ちが違いますよね。」

サイコーですね。あしたはバイトだし、
久々に丁寧にお化粧でもしよ〜。
あと、また100均でお部屋可愛くする
グッズ買い足そう〜っと!

ジュディさんが、映画タイタニックの主題歌
『My Heart Will Go On』を流して、
深夜1時に番組が終わった。