見出し画像

道を歩いていると学生時代の友人とばったり会った。彼とは同じサークルだった。
それにしても暑い。日陰に入ろうにも、今がいちばん影の短い時間帯だ。
彼は汗をハンカチでぬぐった。
「おう、家近いのに大学以来だな」
ぼくはハンカチのかわりにTシャツの袖で汗を拭いた。短く返す。
「元気か?」
ぼくは暑くて頭がぼんやりしていた。
「よかったらあれだ。涼みに喫茶店でも入ろうぜ。つもる話もあるし」
彼は笑いながらかぶりをふった。
「いやあ、今から妻と予定があってな、待ち合わせてるんだ」
奥さんも同級生だ。ぼくも学生時代に会ったことがある。かれらはおしどりカップルと評判だった。
「そうか、残念だな。また今度ゆっくりな」
ぼくらは手を上げて別れた。
歩きながら考えていた。そういえば、こないだ自宅に彼のところからなんか届いてたな。なんだったろうか。それにしても暑い。この暑さのせいか、ぼくは思い出せなかった。
汗をかきながら歩き続けていると今度は彼の奥さんと出会った。彼女はにこやかに笑いかけてきた。
「暑いですね」
ぼくも笑顔を返した。
「ちょうどさっき、ご主人と会ったところなんですよ。奥さんと待ち合わせだって、うれしそうでしたよ」
奥さんの表情がみるみる固まり怒りの表情に変わると、ぼくのほおを平手で叩いた。
「そんな冗談、あんまりですわ」
奥さんの目には涙が溜まっていた。
「あなただって、サークル仲間からのお香典の連名に名前があったはずなのに」
Tシャツがざらついていた。袖を見る。冷や汗が、乾いて塩になっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?