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2019年4月の記事一覧

キャッシュレス

目の前のテーブルには真っ白で上質なテーブルクロスが掛かってた。テーブルの上には色とりどりの料理が並んでいる。向かい側の席には映画女優並みの美しい女性がグラスを手に持ち陶然とした瞳をこちらに向けていた。
給仕がわたしのグラスにシャンパンを注ぐと、その泡が柔らかな音を立てて弾けるのがかすかに聞こえた。前菜のフォアグラのテリーヌをカットし口に運ぶ。舌でフォアグラを弄び、グラスに口をつけた。
おかしい。濃

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「しじまの声」解説

この作品はもともと週刊キャプロア出版の「水」編用に書きかけていた作品です。
ショートショート枠が空いていなかったため、短編小説として発表予定でしたが、ショートショート枠が空いたのでそちらに移り、「雨風鈴」という作品を掲載いただきました。
そちらも個人的に好きな作品で、noteにも掲載していますので、ぜひ読んでみていただければ嬉しいです。

この作品は書きかけのままほって置いたのですが、いつか仕上

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しじまの声

仕事を終えたのは23時をまわっていた。事務所のそばに借りている駐車場は歩いて3分ぐらいのところにある。ぼくは歩きながらさっきまでやっていた伝票の計算に問題がなかったか思いめぐらせた。
駐車場に着くと、オレンジ色の街灯が駐車場内を照らしていた。ぼくは赤い外車に近づいた。別れた妻が選んだ車だ。妻は派手好きだった。買った当時、すでに7年落ちの中古車だったが、彼女は色とブランドにこだわった。ぼく自身はその

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「最高のガイド」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第23号「旅」編に収録されました。

旅行は嫌いではないのですが、それ以上に家、自宅が好きで、だれかに誘われなければぼくはずっと家にいるような気がします。

というわけで、作者がそうだからなのかもしれませんが、ぼくの作品の舞台は主人公があまり遠くまで動くことがないような気がしますが、この作品は例外です。やはり旅がテーマだからでしょう。

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最高のガイド

屋根裏に上がった。亡き父のトランクがある筈だ。トランクの横には見覚えのない絵があった。薄暗いせいか上半分に描かれた羊の大群が雲のようにも見える。下半分は描かれた絵の上から更に絵の具を塗りたくったようだった。僕はトランクと共に屋根裏から下ろした。
絵はA3サイズほどの作品だった。明るい照明の下で見ると雲のような羊の大群は細部まで書き込んである。下半分は色とりどりの絵の具で雑に塗り潰されていた。

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「いつかの青空」解説

個人的には、いじめられる側に問題はないと思っています。ぼくの中ではそれが大前提です。
その上で言いますが、いじめのメカニズムは、人間としての業や、コミュニティの構造から出てくるものがほとんどで、人が人である以上、避けられないのではないのかなと感じています。
人が、自分と違う性質のものを排除しようとしたり、理解できないものを攻撃するのは、もう動物的な本能なのかもしれません。

それよりも問題なの

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いつかの青空

俺は空を飛ぶ夢を見ていた。
目覚ましが鳴り夢から覚めた。目を開け枕元の目覚ましをに手を伸ばす。目に溜まっていた涙が頬を伝った。空を飛ぶ夢で泣くなんて。俺はいったいどうしてしまったんだ。
ベッドから立ち上がりドアを開けて部屋を出る。階下から朝ごはんの匂いがした。

教室の前の席のチビの後ろ姿が目に入った。相変わらずだらしなくシャツの裾が出てやがる。
「お前、シャツ出てるぞ!」
俺は笑いながらチビ

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「造花」解説

この作品はキャプロア出版刊週刊キャプロア出版第21号「心と体」編に収録されました。

この時のテーマは「心と体」でした。
いったい、心ってなんなんでしょう。
人工知能や製造技術がどんどん発達しています。きっと見かけは人間と変わらないロボットは、きっとここ何年かのうちに製造可能になるのでしょう。

今のところ、SF小説やSFマンガ、映画などで、人間とロボットを分けるのは、愛や自己犠牲、論理的

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造花

スクリーンにエンドロールが流れ始めた。おれは座席に座ったまま映画の余韻を楽しんでいた。
観客たちは一斉に立ち上がり出口に向かった。おいおい、エンドロールを含めての映画だろう?みんな忙し過ぎて人の心をなくしてないか?
エンドロールが終わり館内の照明がついた。最前列から後ろを振り向き客席を見まわす。50人も入ればいっぱいの小さな劇場だった。上映前に見たところ席は半分ほど埋まっていたはずだ。今、残ってい

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「気まぐれな恋人」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第20号「光と影」編に掲載されました。

テーマをいただいたときに思ったことは、影は光があるからできるということです。
影が「絶望」であるとするなら、その絶望は光のあとにこそ最大に感じられるのかもしれないなと思いました。その明暗比を書いてみたいと思いました。
そのあたりがうまく表現できていれば嬉しいです。

それにしても、この作品に出てくる男は

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気まぐれな恋人

部屋のドアを叩いた。僕は毎週末、彼女に会えるのを楽しみにしていた。返事が聞こえた。声が弾んでいる。ドアが開き彼女が顔を出した。目が合う。彼女は恥ずかしそうに目を逸らした。
「おはよう、あなたってそんな顔してたんだ」
彼女は盲目のはずだった。
「そんな顔って見えるの?」僕は大げさに驚いた。彼女の目が潤んでいる。
「そうなの!見えるようになったのよ!」
彼女は僕の首に抱きついた。

僕は彼女のベ

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「アニマルファイブ」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第19号「パンダの理由」に掲載されました。

キャプロア出版のトレードマークはキャプロアを主催する通称キャップさんのアイコンからきています。
そのアイコンはパンダが口の端から血を流しているというものなのです。
そのキャラクター自体に特に意味はないそうなんですが、なんでパンダなのか?なんで血を流しているのか?訊かれることが多いそうです。
で、この号で

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アニマル・ファイブ

夕闇の中、女の叫びが聞こえた。立ち止まって声の位置を探る。近い。俺たちの出番だ。お巡りはノロマ過ぎる。俺は声の方向に走った。走りながらマスクを被る。熊のマスクだ。叫び声は続いている。走っていると、ひとり、またひとり、マスク姿のメンバーが合流していく。マスクはそれぞれ違う。キリン、黒豹、虎、象。そして熊の俺とパンダ。先頭を走るパンダのマスクには額に「キャ」と書いてあった。キャプテンの証だ。6人揃った

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「わたしが選ばれる理由」解説

この作品は、キャプロア出版刊週刊キャプロア出版第18号「おっぱいと電子書籍」編に掲載されました。

以前ぼくは、某女史からこじらせた人を書かせたら上手いと言われたことがあります。
自分ではピンときてなかったんですが、あらためて読み返してみると、この作品の「彼」なんかはこじらせている人なんでしょう。

フェティッシュという言葉があります。
略して◯◯フェチって呼ぶこともありますが、胸にしても

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