世界の終わりと液状化ピエロ

第一章 世界の終わり

 駅にある改札口を出ていくとき、ふいに定期券をかざした手が熱されたような妙な感覚に陥った。その妙な感覚は火傷跡が疼くような
ひりひろとした感覚だったのだけれど、駅員の顔を見ていたら遅刻しそうになっていることに気づいてそんなことは忘れてしまった。駅員の顔は
雪が頭に乗っている地蔵みたいに、どの顔もみな同じに見えた。電車が発車するときのメロディーは発狂した音楽家がピアノを演奏するみたいに
奇妙な音楽に見えた。壁に掛かってる中づり広告はミュシャの絵みたいにみえた。僕はそのどれからも目をそむけポケットの中に入ってるスマホに
イヤホンをぶっさし適当にオルタナティブロックを聴いた。90年代の少し古いロック音楽が個人的な好みだった。列車はトンネルを抜けて岡田駅
という自分の目的地とは一つ違う駅に着いた。そのとき猛烈な尿意が自分を襲った。僕は必至で尻を抑えながら列車にあるハズのトイレを探したが
どうもこの電車内にトイレはないらしかった。車掌の「まもなく岡田駅ー」という声を聴きながら本来は降りるはずの駅から5kmほど離れた所にある
岡田という駅で降りることになった。尿意は相変わらずすさまじい。早くこの駅のトイレで用を足さなければ漏れてしまう。そうなってしまえば自分の
人生は終わりだ。