見出し画像

10年目の始まりに ②

さぁ行こうか

「素敵な花束」を助手席に座らせて

海岸を目指す

福島県いわき市の砂浜

車を停め海岸線を眺める

海風が少しだけ強い今日も

波はそれほど高くなくて風の強さとは裏腹に穏やかだった

この日くらいは静かにあの日のことを振り返ってみる

雲一つない青空と水平線

潮風が運んでくる香りと音

本当にあんな悲しいことがあったなんて嘘のように

美しい福島県の海

少し粒の大きい砂浜に腰を下ろす10才くらいの女の子とお母さん

海に向かって手を合わせるお母さんの横で

まだぎこち無く手を合わせる女の子

色々なことを想像する

「素敵な花束」を抱えて砂浜に下りる

また少しだけあの時のことを思い出す

震災があって3ヶ月後の6月

ようやく入れた福島県

映画のような光景を前に生まれて初めて膝が震えた

「素敵な花束」を砂浜の上に置いて手を合わせる

「誰かがひとりで泣かないように」

今年も来たよって

忘れてないよって

こっちは相変わらず問題が山積みだけど

そっちはそっちで色々あるよね

あの時、1才だったあなたのお子さんは

そろそろ小学校を卒業するよ

元気に今年も会いに来てくれたでしょ?

波打ち際に数本、お花を供えて

次の砂浜を目指して福島県の海沿いを北へ

しゃがんで海を眺めていた僕の右の方で

誰かが手を合わせているのが見えた

車に戻る道すがら

その方の足元を見るとそこには小さな花束が置いてあった