東風吹かずとも

月は、いい。

月の光は柔らかい。おれたちをやさしく見守ってくれてる。

おてんとサマはちょっと強すぎる。夜空に添えられた月の光は、やっぱり無いと少し寂しい。

月はいい。

月だって、光りたくない夜もある。決してお行儀よくぺかぺかしているわけじゃない。ときどきサボったり、かと思えばこれでもかと輝いて見せたり。
まるでおれたちみたいだ。

月はいい。

全く過不足なくキレイって訳じゃない。よく見るとでこぼこしているし、何よりちょっと地味だ。それがいい。それでいい。

月はいい。

領分をわきまえている。夜こそが、自分の光る時だと知っている。それでいて、いやそれだからこそ、昼に見つけるとちょっとうれしい。昼には決して目立たない。それでいい。

月はいい。

自分で光るような真似はしない。お行儀よく空に浮かんで、必死にぴかぴかしているお星さまが金銀砂子なら、月は鉄だ。価値はそれほど高くないが、おれたちの日常を支えてくれる。

月は優しくて、サボりがちで、不格好で、夜型で、ちょっとニヒル。
だから、月はいい。

―水無月のある日、地球のベランダより

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