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◆営業未経験で試してみたこと

 30代半ばにして人生初めての営業職を経験した。それまでは、それが法人向けだろうと個人向けだろうと、毎日数字(実績)に追われる大変な仕事だという先入観もあり、自分には不向きだろうと思っていた職種。

 主に飲食や小売りの店舗向け営業だったのだが、業務開始から2~3週間くらいして、現状がどんなものかを肌で感じた。担当する地域の店舗はどこも、以前までに何度も契約を断ってきたところばかりで、経験者にとっても未経験者にとっても一朝一夕には契約を獲得するのは困難だろうという現実を目の当たりにした。

 もちろん、入社してすぐに研修期間があり、サービス内容の学習や営業スキルに関するレクチャーなどを受けはしたものの、自分が置かれている状況を理解した時から、「教わった通りにやってみて、うまくいかなければ別の手段を工夫しないことには仕事にならない」ということにも同時に気付かされた。

 2年ほど前の冬、とあるコーヒーカフェにて、営業時間中の店舗オーナーに時間を割いてもらうのは、たとえわずか10分とはいえお店のことが最優先であることは当然で「忙しいから」と言われて断られるのが想像できた。ランチタイムが始まってすぐの時間帯というのもあって、普通にアプローチしても無理だと悟った。

 とりあえず、客のふりをして入店し、ホットコーヒーを注文し、飲み終わるまでにオーナー宛てに1枚の手紙を書いた。

 一般的に、仕事中に営業マンが何かを売り込むために話をしたいと言ってきたとしても、無形のサービスであれば特に「よくわからないもの」のために時間を割くというのは普通に抵抗感を抱いてしまうものだろうということ。そして、判断自体は話を聴いてからでも遅くはないため、いつからいつまでの間で都合の良いタイミングがあれば再度伺う旨を書き、最後に、外は寒く、今日は特に歩き疲れていたため、美味しいコーヒーで元気になれたことを添えて、コーヒーカップの受け皿の下に名刺と共に差し込み、会計を済ませて退店。

 すると、店を出て15分くらい経った頃に仕事用のスマホに電話がかかってきて、出るとお店の女性従業員の声で「オーナーが今から話を聴いてみたいらしく、戻って来れますか?」と。

 こんな展開になってくれたらいいなと思って書いた手紙は、その展開を実現してくれた。

 営業未経験で、大して営業トークのスキルも自信があったわけでもない私が、初めてアプローチしたカフェで、その日のうちに契約をいただくことになった。実際にオーナーさんと会ってみると、なるほど見た目は強面の男性。確かに「忙しいから」と一言でも言われれば営業マンも尻込みしてしまいそうな印象はあった。

 そのカフェへの営業履歴には、それまでに8人の営業マンが訪問しているのもあって、難易度は高かったに違いないけれども、一番肝心な「相手の立場や状況への配慮」さえあれば、快く話を聴いてくださるオーナーさんだとわかり、始めて間もない不慣れな私のちょっとした自信につながることとなった。

 仕事とは、教わった通りにやるというのは確かに基本的なことかもしれない。でも、時と場合、または状況の変化によっては、これまで先輩たちがやってきたであろう方法が通じない場面もあるため、そういう時にこそ「工夫して試してみる」というチャレンジ精神は大事なのだと思った。

 営業職に限らず、どんな仕事でも「こうしてみたらどうだろう」という素朴な疑問やアイデアを職場内で気兼ねなく共有できる場があれば、RPG感覚でクエストを攻略する感覚に近い楽しみ方ができるかもしれない。

 「仕事は楽しい必要はない」などと言わずに、可能な限り楽しみながら働ける、そういう働き方ができる環境がもっと増えると嬉しい。

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