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CULTE “After the Catastrophe”レビュー

CULTE

CULTEとの出会いは今年の夏、ライブハウス仙台FLYING SONにて行われたファズ研究会2023。このイベントはここ数年コロナ禍の影響もあり開催されていなかったが多種多様な轟音や刹那を鳴らすバンドがフロアを熱くする名物イベントのひとつとしてこの地に長年存在してきた。観客が演者を囲みフロアライブの熱気が充満する空間で、その日は多くの出演者のなかでもひときわCULTEの演奏に注目が集まっていた。春に公開された1st.EP収録の「Moray」はチェックしていたものの、その美しくまどろむようなシューゲイズサウンドを想像していた者としては良い意味で期待を裏切られたほど圧巻のパフォーマンス。アツい演奏を存分にかましていた。

彼らの所属する東北大学アステロイズのバンドはこれまでいくつか観てきたが、改めてこういった尖った音を自分たちの美意識で明確に鳴らすバンドがいて、ライブの度に周囲を熱狂させていることが自分の目にはとても興味深く映ったのだ。実際に今年は仙台のライブハウス周りでもポストハードコアバンドalvinの企画や、5kaiとの共演、新人類パンクバンド勃発の企画、敬愛するSuiseiNoboAzのメンバーが経営しているライブハウス吉祥寺NEPOのライブにも出演するなど、ライブを体感したバンドマンからの支持も熱い。

今年のCULTEの出演ライブのフライヤーの一部

個人的な話を少し。
自分を振り返ると主にPunkやMelodic、Hardocoreやそれに影響を受けたような音楽を好んで聴き、ライブを観てきたと思う。そんな中でも上京して数年の間、まだ友人も全然いなくておもしろそうだと思ったバンドのライブには足を運びレコードショップの試聴機とディスクユニオンの委託demoをひたすらチェックしていた時期もあった。新宿MARZ、新宿motion、それに秋葉原eggmanあたりのライブを1人で仕事終わりに観ては帰りにTwitterやブログに黙々と独り言のような感想をupしていた日々。実際にこの周辺ではオルタナティヴと形容されるバンドのシーンが盛り上がりを見せていたし、2010年にリリースされたコンピレーションアルバム『TOKYO NEW WAVE 2010』にはオワリカラをはじめ、シャムキャッツ、東京カランコロン、SuiseiNoboAz、the mornings、太平洋不知火楽団、壊れかけのテープレコーダーズ、SEBASTIAN X、Far France、ARTLESS NOTE、andymoriが参加している。今見ると豪華極まりないメンツ。音楽性こそそれぞれだが同じ空気が通っていたバンドばかりだ。

TOKYO NEW WAVE

同時期に渋谷LUSHや東京大学を会場にして『東京BOREDOM』。こちらにも前述したSuiseiNoboAzなどが出演している一方、非常階段、KIRIHITO、YOLZ IN THE SKY、FLUID、Melt-Banana、Qomolangma Tomato、GROUNDCOVERなどLESS THAN TV周辺のバンドやノイズ・アングラ・ハードコア色の強い”まだ知らないかっこいいバンド”が集結し、すぐさま熱狂が渦となっていった。

東京BOREDOM

2008年頃から現在まで高円寺HIGHを中心にシューゲイザーのバンドを集めたコンピやイベントを精力的に継続している『TOTAL FEEDBACK』。簡単に括るつもりはないが、死んだ僕の彼女、PLASTIC GIRL IN CLOSET、For Tracy Hydeなどに感じるような甘美なメロディーやドリーミーな部分というよりは、これから次どんな展開で酔わせてくれるのだろう、どんなリズムを反芻させて狂わせてくれるのだろうという感覚をCULTEには感じる。

今回配信にて2023年12月4日に全世界へリリースされた彼らのFull Album『After the CATASTROPHE』。Interude的にアルバムの世界観をつなぐ楽曲を含め10曲33分。バンド結成からこれまでのCULTEの歩みを網羅した集大成といって間違いないだろう。

CULTEボーカルのマツモトが公言しているようにバンドとしてGRAPEVINE(今年出た新譜はただのミーハー野郎の自分にも届いて絶賛したくなるくらい良かった!)からの影響は多大であると思うが、Radioheadで言うとUKロックの金字塔『OK Computer』収録の「Paranoid Android」のような変拍子と鮮烈なビートで展開が大きく変わっていく実験的な要素や、『In Rainbows』収録の「Bodysnatchers」で感じるロックなビートとザクザクとしたギターリフが何度も絡み合う部分、そんなエッセンスを彼らの楽曲には感じている。

筆者が通ってきた邦楽バンドで言えばpemap、Far France、Qomolangma Tomato、GROUNDCOVER、killie、akutagawa、People in the box、初期ヨルズインザスカイ、about tess、LITE、mouse on the keys、envy、進行方向別通行区分etc...に遠からず近いものを感じてしまう。もし世代ではなくて今挙げたようなバンドの音に触れたことがないようなCULTEと同世代の音楽ファンがいたらぜひ一度聴いてみてほしい音楽ばかりだ。

ずっと本題の周りをウロウロとしていましたがここからが本題。

一筋のフィードバックノイズが明けると、M-2「祝杯」は印象的なベースラインから幕開けを告げる。テンポ良く颯爽と過ぎていくがオープニングナンバーとしてジャブ代わりにしっかりと脳を揺らされるような感覚。矢継ぎ早に流れ込むのは先行MVとしても公開されたM-3「Sugarmuffin」。

CULTEの魅力のひとつでもある不可思議かつ独特の歌詞世界が堪能できる1曲で、曲が進む度に展開していくベースリフとギターのシューゲイズサウンドが癖になるキャッチーさも持ち合わす。反復するフレーズの気持ち良さに酔いしれている内にぐるぐると彼らが作り出す世界に迷い込んでしまう。ここで言うシューゲイズサウンドもいわゆるギターロック・インディーロックに紐付いたようなものではなく即興のジャムセッションに近い自由さとハードさが心地良いバランスで成り立っている。

M-4「I.M.O.」は先述したQomolangma Tomatoにも通じるリズム・ミクスチャー感が身体を踊らせる。M-6「IDEA」はどこか色気や艶やかさを感じるような質感の正統派なロックナンバー。ちなみに今作の音の旨味を際立たせたRec&Mixは残響rereによるもの。アルバムにはzanjitsuなどと共演しているバンド”Murray a cape”のwipeもコーラスとエンジニアの送迎など多岐にわたって参加しているようだ。M-7「Heinline / Bigmuff」はライブでの迫力あるパフォーマンスも印象的な1曲で、ドラム含め細かくキメがひとつひとつ決まっていくのがなんとも気持ちよくアドレナリンを発していると、一変してまどろむような展開に一気に没入しきってしまう。ファズギターが扉を開ける世界。

落ち着いたテンポで魅せるも退屈しないほど焦燥感に満ち溢れたM-9「66:Polyn」。ドラマチックに展開する美しい演奏をバックにポエトリーリーディングが語られる。

”曖昧な態度は僕らの常 導いてよ Shoegazer”
”過去を振りほどいて 明日へ行け 進め”

と叫ぶ声ははるか遠くまで。ラストを飾るのは「Catastrophe」。カタストロフィーという言葉の意味するところは”突然の大変動、大きな破滅”であるが、バンド結成以降想像とは大きく違ったであろうコロナ禍での学生生活、不自由な中で得た音楽的経験や出会い、閉塞感が漂う世界情勢、翻弄される人間、変わらずに美しい世界、紡いできた音楽と爆発寸前の鬱憤。そういったものがいよいよ大詰めに。衝動は攻撃的なサウンドとしてアウトプットされる一方で、儚さや移り変わりの切なさとして裏からしっかりと滲み出している。

ジャンルの垣根を超えて支持される脳を焦がすような痺れる音像。でっかい音で浴びて存分にヒリヒリしましょう。

--Review by  4x5chin(KYO-TEKI)


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2023.12.9 フライングサンにてレコ発有

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