最上義光は塩引鮭の夢を見るか

※拙文は、現段階の自身の考えを形にしておくことを目的としたものであり、特定のコミュニティや個人への批判、揶揄を意図していません。ご了承ください。

「戦国武将」がコンテンツ化されて幾星霜。従来、「戦国武将」像形成を担ってきた出版物等の媒体に加え、近年はインターネットのファンコミュニティが大きな存在感を持っています。

そうした場で生まれた新興のインターネットミームのうち、代表的なものに、最上義光は鮭が大の好物だったとするキャラクター設定があります。5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の歴史ファンコミュニティから拡散が始まり、ブログ記事、ウェブメディア、各種ゲームまで、最上義光は鮭が好物だとする情報が浸透するに至りました。

さて、ではこれは何を根拠としているのでしょうか。

多少この情報を追った方ならご存知でしょうが、最上義光が家臣(北楯利長)から鮭を贈られ、礼状を発行していることが注目された結果なのです。また、最上家が鮭を贈答品に用いていることもその「傍証」とされています。

ここで意地の悪いことを指摘しなければなりません。

最上義光は国主である以上、多くの贈り物を受け取っており、当時の慣習からしてその都度礼状を発行しています。銀子、扇、織物や衣服、林檎、柑橘類、鯨など。また、最上家が贈答に用いた品も複数挙げることができます。銀子、鳥類、蝋燭、漬物、馬、太刀等々。つまり、鮭は最上義光をめぐる贈答品の一部である、としか言うことはできないのです。

別の角度から見ます。その名も『贈答と宴会の中世』(盛本昌広氏)という本によれば、中世には個人のイベント、季節性のイベントごとにおびただしい贈答品が行き交っていました。前述した鮭を含む水産物、鳥、菓子(果物)、衣服もその対象だったことが、文化的背景も掘り下げて解説されています。

すなわちここからも、最上義光は当時の上流階層が構築していた贈答儀礼の環に参画していた、という以上のことは言えません。

ここまで読まれた方のなかには、そんなことはも承知、大きなお世話、無粋、ネタにマジレスといった感想を抱かれた方もいるでしょう。自分でもそう思います。これまではせいぜいファンコミュニティの範囲で楽しまれていたに過ぎないミームだったからです。

先日、テレビ朝日が12月28日に「戦国武将総選挙」を放映することを発表し、プロモーションの一環と思われる「戦国武将総選挙診断メーカー」を公開しました。この中で最上義光に診断された場合、「鮭が大好物」であることが説明される旨を目にし、これまでとはフェーズが移ってしまったと判断せざるを得なくなりました。

該当の番組には歴史学者も出演することが告知されており、プロモーションとはいえ一定の信用が付与されることが想像されます。一テレビ番組を云々したいのではありません。インターネットミームであるという前提無しに「最上義光は鮭が好物」が世間に定着する形勢となってきた、あるいはすでに定着しつつあるということなのです。

肩肘を張って、悪しき風潮であるなどと非難するつもりは毛頭ないのです。自分自身が、コンテンツ化された「戦国武将」を愛し、そこを入り口に歴史ファンに加わった経歴です。

ただ、こうした流れの中で、先に書いてきたような「面白くないこと」を人目を憚って口に出さずにおくのは、多少とも思い入れを抱いてきた最上義光に対して筋を通していないように感じてしまったのでした。本当にそれだけのことで、面白く語ることを否定するつもりはまったくありません。

以上、まとまりもない単なる感傷を最後まで読んでいただいたことに感謝を申し上げます。

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