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1/18「筋肉ムキ男と電気風呂」

PM 3:00

鶯谷駅から数分歩いたところにある純喫茶で僕は友達とお茶をしていました。
その友達は高校の時に同学年だった子で、今はジムでトレーナーをしています。
身体を鍛えるのが好きな彼はジムだけでなく、家にも筋トレ用具が置いてあり、キッチンの隅にはプロテインの大袋が鎮座しています。(なので以下、呼称をムキ男とする)
ちなみにムキ男には彼女がいます。二人とも身体を鍛えるのが好きです(マッスルカップルなんだよなー💪)。

ムキ男と仲良くなったのは去年ぐらいからで、高校の時はお互い「あ、いるな」と存在を認識しているくらいでした。
でも、共通の友達と遊ぶときに一緒になってから、仲良くなって、二ヶ月に一度くらいのペースで一緒に出掛けたりする間柄になりました。(昔は同じ学校に通っていたという点以外での接点がなかった人と、いきなり仲良くなったりするから人生はおもしろいです。)

そんなムキ男は焼いた食パンをくりぬき、そこに牛すじシチューをたぷたぷに注いだご馳走パンを「俺、トーストって喉に刺さりそうだから苦手だけど、これならイケるわ」と言いながら意気揚々と食べてました。
ムキ男は、シチューをスプーンなどで掬って嵩を減らすことはしません。
まず横についていたくりぬかれた方のパンを付けては食べを繰り返します。そしてくりぬかれた方のやつがなくなると、今度は器代わりになっている食パンの方をなぜか少しずつ千切り、わざわざ難易度をエクストリームにしながら食べていて、おもしろかったです。
(ちなみにムキ男は最近、マッスルガールズバーに行ったらしいです。そこではキャストのお姉さんに1000円のチップを渡してお尻を蹴ってもらえるそうです。経済はニッチなエッチで回っているのかもしれない)


PM 5:00

僕らは銭湯へ向かいました。
そこは都内で一番大きい銭湯で、3階建てで、外観が普通にホテルみたいでびっくりしました。
受付の人に靴の鍵を預け(靴箱の番号が123で、なんか気分よかった)、さっさと身体を洗い、浴場へ向かいます。

そこで僕とムキ男は電気風呂と出会いました。

すみません間違えました。
正しくは再会です。
初めて電気風呂にムキ男と交代で入ったとき、電気ショックの強さに僕とムキ男は、刺激の向こう側にあったであろう「整う」感覚を味わうことなく、退散してしまい、心残りを感じていました。
だからこそ、僕とムキ男は電気風呂との再会に驚き、僕は何か運命じみたものすら感じました。
でも、そこには既に先客がいました。
銭湯は公衆浴場であるため、当たり前だけど電気風呂はみんなのものです。電話予約もなければファストパスもありません。ただ、じっとその席が空くのを待つのみです。
僕とムキ男は同じ浴槽の中で、肩まで浸かったり、ちょっと火照ってきたから縁に腰掛けたりしながら、その席が空くのを待ちました。
そして、八〇歳手前ぐらいの茹で蛸みたいに顔を真っ赤にしたおじいちゃんが電気風呂から上がりました。
僕とムキ男は瞬時に目をあわせました。
そしてゆっくりと、逸る気持ちを抑えながら奥にある電気風呂に向かいました。
電気風呂はコの字型に区切られていて、一人分のスペースしかないため、僕らは交代で入ることにしました。
平静を装いながら一歩ずつ、ムキ男が電気風呂に向かっていきます。
ムキ男は喫茶店で「職場の人みたいなアスリートにはなりたくないかな。俺、トレーニングは好きなんだけど、正味、今の生活を優先したいんだよね」と言っていました。
でも、会う度にムキ男の上半身はホームベースに近づいていっているような気がします。胸板もマットレスみたいに分厚くなっているような気がします。

近づいていくムキ男の後ろ姿は大海をかき分けながら進む大型船のように見えて、荘厳さすら感じました。
電気風呂の手前までムキ男は近づき、何かを感じ取ったのか、向きを変えてゆっくりとセットポジションに入っていきます。そして更にゆっくりと、まるで電撃を身体で味わうかのようにムキ男が膝を折り曲げ中腰になっていきました。
ムキ男の横顔が強張りました。
それでもムキ男の身体がゆっくりと折れ曲がっていくので、僕は「やっぱりこの前のが強すぎただげじゃんか」と思いました。
そしてムキ男は膝に両手を当て、夏の練習でバテて顧問にサボるなと注意を受けそうな格好のまま、3秒ほど静止してその場を去りました。
折り曲げた膝の角度は大体、120度未満。
笑いを堪えるので僕は精一杯になりました。
ムキ男は確かに逞しい男だけど、飽き性というか、こらえ性がないところがあります。そんなんじゃ、電撃の向こう側にいけるはずがありません。

僕の番です。
近づいた途端、早速、電撃が身体に走りました。
でも、ここで立ち止まっていたらムキ男以下です。
それにポケモンのサトシも最初は拒絶されていたピカチュウと最高パートナーになれたようにやればなんとかなるものです。
なので僕は更にムキ男より一歩前へ進み、そしてそこで身体の向きを変えて、決意が鈍らないうちに座り込むことに成功しました。
電撃がビュン! ビュン! とまるで鼓動のように身体に走ってきます。
なんにもしてないのに肘とか膝とかが跳ねます。浸かりながらちょっと笑っちゃいました。
僕は口を半開きにしてたらギリ舌噛みそうな電撃に耐え続けます。
正直、前回とか関係なく、痛いものは痛いです。
でも、耐えたいな。耐えなくちゃ、絶対耐えてやるー!という気概を持って、ピカチュウを抱きしめたときのサトシの気持ちを想像しながら、僕は自分史上電気風呂居座り最長記録を更新し続けます。
そして電撃の向こう側が見えてきました。

その時、
ビーーーーーーーーーーーーー。

なんと、電撃にはパターンがあったのです。
ビーってなって僕の身体はぴーんと硬直したままになりました。

「あ、だめだわ」って思いました。

その後はムキ男と銭湯玄人を気取ることなく、楽しく風呂巡りをしました。電気風呂には近づきませんでした。
サウナで整った後、僕はから揚げとハイボールを決めて優勝しました。
なんだかんだで楽しい休日でした。

身体が跳ねることなく、お家のお風呂みたいに浸かっていたあのおじいちゃんは多分だけど、特殊な訓練を積んでいるんだと思います。
それか、あの人がサトシなのかな。
ピカチュウと暮らしてるなら、あのぐらいの電撃は日常だもんな。


おしまい。 


PM 3:00頃に行った純喫茶

タバコも吸える純喫茶で、コメダ並みにフードメニューが逆詐欺してるところが推しポイント。

モカジャバが甘くておいしかったよ。でもホットで頼む時は最新の注意を払って上の生クリームを減らし、全体の嵩も減らしておかないと噴水みたいになるから注意されたし。

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