「ヴァージン・ディフィート」 track.3
VIRGIN DEFEAT
蜃気楼の向こうでは、男が踊る。鍵盤の上で跳ね回っているように軽快な足取りだが、子供がただ、はしゃいでいるだけのようにも見える。男の踊りには引力がある。彼女はその踊りに魅入られてしまった。右肩にかかるエゴバッグの重みが、長い坂を登ってきた両足の疲労が、汗ばむ肌の気持ち悪さが、意識の中から抜けていく。心地良くなっていく。そして平衡感覚が上手く働かなくなっていく。
男は近づいてきたが、彼女は逃げる気になれず、手を取られるとどうにも胸が高鳴った。命綱