マガジンのカバー画像

星異物

9
西暦二〇XX年。未確認飛行物体が世界各地に突如、出現する。 飛行体Xは、ロシア、アメリカ、中国をはじめとした多くの先進国の上空に出現。 それらは、遅れてやってきたノストラダムス…
運営しているクリエイター

2023年8月の記事一覧

「ボールボーイ・ミーツ・デビルガール」 track.1

BALL BOY MEETS DEVIL GIRL 「他の奴らがピクニック気分で来たのは知っている……。だけどな、ワタシは違う! ワタシはこの星を征服するためにやってきた!」  元居た学校の名前も、家族構成も、名前すらも言わずに、転入生の彼女、666号は言い放った。 1. 「みんな。見ての通り、不思議ちゃんだ。仲良くしてやってくれ」 「おい、地球人。そんな言葉でワタシを括るな。殺すぞ」 「みんな、短気でもあるぞー。がんばってくれ」  担任が教卓に戻り、クラス中の人間は

「コールドウォー」 track.2

COLD WAR   なんとも味気ない感じで鎮静化していった戦争は、東シナ海域で始まった。  中国の人民解放軍が放った弾道ミサイルは未確認飛行物体〈ムギワラ〉に着弾するも、船体に傷一つつけられず、その事実に震え上がった政府高官と元首はすぐさま数を増やして第二次爆撃を試みる。  そんな報せが正午あたりに彼女のスマホに入った。もちろん他の生徒のスマホにも入っていた。だが、その日のSNSのハイライトは漫画のキャラクターの生誕祭で、クラス内は「あの女が、今度は軽音部の先輩に告白され

「ヴァージン・ディフィート」 track.3

VIRGIN DEFEAT  蜃気楼の向こうでは、男が踊る。鍵盤の上で跳ね回っているように軽快な足取りだが、子供がただ、はしゃいでいるだけのようにも見える。男の踊りには引力がある。彼女はその踊りに魅入られてしまった。右肩にかかるエゴバッグの重みが、長い坂を登ってきた両足の疲労が、汗ばむ肌の気持ち悪さが、意識の中から抜けていく。心地良くなっていく。そして平衡感覚が上手く働かなくなっていく。  男は近づいてきたが、彼女は逃げる気になれず、手を取られるとどうにも胸が高鳴った。命綱

「ネイキッド・スイマー」 track.4

NAKED SWIMMER  私の素顔を晒せるのは、きっと海の前だけだ。  私はそばに人が居るとつい、明るく振る舞ってしまう。  それは周りから「大丈夫な人」と思われたいからで、また自分自身も「大丈夫」と思いたいからなんだと思う。  何が「大丈夫」なんだろう。  どうすれば「大丈夫な人」になれるんだろう。  もしかしたら私はとっくに「大丈夫」ではないのかもしれない。  あるいは、そんな心許なさを誰かに「大丈夫かい」って、抱擁でもされながら心配されたいのかもしれない

「オール・ユース・ニード・イズ・キル」 track.5

ALL YOUTH NEED IS KILL ! 0. 「謎の宇宙船から、それこそラピュタのように、女の子が降ってきたんだ」とは思わない。世界の約束を知ってしまった彼は今更、子供じみた感慨に耽ったりはできなかった。とはいえ、彼はまだ27を迎えたばかりだった。 「あら、シムラくん。ただでさえ重たそうな前髪が、今日はヘルメットみたいじゃない」  シムラは近所に住んでいる老婆とすれ違う。  彼女の娘は海女で、今はサザエなどをとっているところだ。シルバーカーの蓋からネギが飛び

「ツァイツェン!」 track.6

再見!  彼女の特技はかくれんぼだった。  転入初日の自己紹介で、クラスメイトに対して思い切ってそう言ってみるとすぐに遊びに誘われた。夏休み明けてからの転校だったため、他の生徒たちに溶け込めるか心配で前日は眠れなかったが、それは杞憂に終わった。  だからこそ、彼女はその才能を、産まれてすぐ副次的に付与されたギフテッドを放課後の陽射しに照らされた入江で遺憾なく発揮された。その結果、翌日からかくれんぼの天才として彼女の名が学校中に知れ渡った。 「誰も見つけてくれないじゃん!」