キリエのうた

とりあえず、公開初日に鑑賞してきました。

事前公開されているテザーや楽曲などから自分の中で想像していたストーリーとは、随分と違ったことに、まずは驚き。

邦画でよくありがちなんだけど、小説から想像する世界観と映画化された時のストーリー描写がマッチしない感じというか。映画内での各シーンのボリュームの持たせ方とかにいろいろと違和感を感じる部分。今回もそういうものが多くてちょっとモヤモヤしました。
そして、2010年〜2023年を描くストーリーで時間を前後させながら進行するのは良いのだけれど、映像の感覚が平成どころか昭和に近いものを散りばめすぎてて時代感が合っていない気がしてしまい、そこも何だか不自然というか。

・大阪の少年たちのザリガニ釣りや、小学校での風花先生との会話シーン
・夏彦の自宅やお盆(法事?)での集まるシーン
・キリエと路花の自宅や帯広での夏彦の自宅
2010年頃だと、いくら地方でもここまでの感じじゃなかったよね?って気がしちゃったんです。
これらが1980年代のシーンです、と言われても納得できちゃうくらい古い日本に見えてしまって、時代感のギャップに自分の頭の中にも「ん??」と出ちゃってました。
その辺りも含め、おとぎ話的な幻想感と東日本大震災という現実的な出来事の合わせ方がスッとは繋がりませんでした。

ストーリーの根幹となっている、キリエの妹の路花が歌を唄うときにしか声が出せなくなったまま、音楽を続ける理由。
そこに祈りというものを取り込むための宗教観の提示。(登場人物の名前自体にも散りばめられてますが)
その辺りも全体の長さから考えるとあまりにも断片的な表示のされ方が多いので、視聴者側にかなり任せられてしまってて、もっと深くストーリー描写に取り込んで欲しかったかも。
あと、真織里からイッコとなってしまった部分の描写がゴソッと抜けてて。
映画だけだとあまりにも唐突な感じでした。
小説にはもう少し詳細に書かれているようですが。

登場する役者さんは名だたる俳優・女優さん揃いなので、演技は皆さんとても素晴らしかったです。
主演のアイナさんは、初映画にもかかわらずその方達に一歩も引けを取らない演技と歌唱で素晴らしかったし最高でした。物語の軸となる広瀬すずさんも松村北斗さん黒木華さんも、登場人物として本当に自然体に感じる演技で良かったなぁ。
でも、その演技だけでは補えない程にストーリーとして描かれない部分や上記の時代の違う感が多すぎて。
余白を持たせた映画、という寸評もたくさん見たけれど、どちらかというと豪華すぎる俳優陣をわずか数分ずつしか使わなすぎてて、そこにも驚愕でした。

それと、映画として全体を観るとそのシーン必要?という部分が少なくないんですよね。
特に地震が起きた時の浴室のシーンとした部分や、路花を探しに行くキリエの現実感の無さ。
地震の恐ろしさを伝える浴室のシーンはかなり鮮明に表現しつつ(でも浴室シーンでキリエが下着姿だった演出必要??とか)、実際に津波が来てしまったシーンとしては波映像のみや、探しに行って再会できたキリエと路花は一緒だったのに、どうして路花1人だけが生き残れて、母と姉を亡くし単身で大阪までいかに移動できたのか?の描写は一切省いていたり。(ここを描写すると話が重くなりすぎてしまう、というのも理解はできるんですが)
なのにイッコに騙された相手に路花が襲われそうになるシーンではまたも過激なまでの描写。(ここが一番気持ち的には萎えさせられたなぁ)
そして継父の翻意のせいで大学に行けず、イッコが男性たちを利用しながら生きていたものが崩れていく部分と、路花が警察に連れて行かれそこから夏彦へつながる展開。
どこも幻想感とリアルさのバランスが噛み合うように感じられませんでした。

もちろんこの余白部分を楽しめて感動する人や、素晴らしい映像美と音楽の組み合わせの素晴らしさを見て良いと評価する人もたくさんいると思います。

「音楽映画」と謳っているように、全編通して流れる音楽はどれも素敵だし、アイナさんの歌声も最高です。
特にアカペラでオフコースさんの"さよなら"が流れる最初と最後のシーンにはグッと来ました。
そちらの強さに映画全編としてストーリー描写が負けちゃっていたようにも感じました。

アイナ・ジ・エンドが主演でなかったらしばまるは観に行って良かったと言える映画だったか?と自問すると、、、答えは悩むかも。笑

映画のストーリーを時間軸をまっすぐに整理すると
・夏彦とキリエ(姉)の出会いー恋愛ー妊娠、それによる夏彦の苦悩
・津波によるキリエ(姉)と母の死と、路花の孤独
・大阪に行ったであろう夏彦を追って路花の移動
・古墳の高台で野宿をし、教会で施しを受け生活す路花
・近所の男の子との遭遇後に教員風美との出会い
・風美を通じての夏彦との再会、そのまま児童保護施設へ
・児童保護施設で中学まで過ごしたのち、牧場で働く夏彦を追い帯広の高校への進学、そこでの里親とのトラブル
・大学を諦めていた真織里と母の再婚による進学話の復活
・家庭教師として夏彦と遭遇したへの淡い恋心、そして路花との出会いと友情
・数年の時が経ち、Kyrieとして唄う路花とイッコとして生きる真織里と東京での再会
・イッコはKyrieをマネージャーとして売り出そうと住処や人脈を提供
・Kyrieは徐々に実力を認められるも、イッコは利用していた男性たちに詐欺を疑われ、姿を消す
・詐欺疑惑の余波で路花は襲われそうになるが、イッコを庇い住処を追われる
・イッコが戻らぬ間も、路上ライブを支える仲間は増え、事務所所属話も浮上するが、Kyrieは頑なにマネージャーのイッコが戻ることを信じて応じない
・イッコが戻り、二人で海へ
・路上フェスを行うも警察トラブル発生、そして会場へ向かうイッコは…
・真織里と路花が出会った頃の初めて聴いたるかの唄声を思い返すシーンでエンディングへ
・そして路花は、Kyrieとして今日もギターを持ち唄いに行く

もし自分が監督だったなら。(おこがましいですが。笑)
最後のエンドロールに、夏彦が今をどう頑張っているのか?と風花先生は今も教師を続けているシーンを入れて、2023年の今もどこかでKyrie以外の皆が懸命に生きている部分を描いて終わりにしたかも。

岩井俊二監督さんにこの映画の主役に選ばれるほど、その才能が注目されたアイナ・ジ・エンドさん。
BiSH時代からその後でも、大御所といわれる方々のプロデュースを受けてどんどん才能を開花させ続けていることからも、きっとこの映画も代表作と言われ続けることはなく、もっともっと輝きを増していくような気がしています。

この先もずっと応援していきたいです

追記
アルバム「DEBUT」発売日に、KyrieとしてTHE FIRST TAKEに登場。

素晴らしいのひとことに尽きますね♪

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